都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「日本美術が笑う」 森美術館
森美術館(港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
「日本美術が笑う - 縄文から20世紀初頭まで 若冲、白隠、円空、劉生 - 」
1/27-5/6
すっかり行きそびれていました。もう間もなく会期を終える「日本美術が笑う展」です。早速、印象深かった作品を挙げていきたいと思います。
まずはキャプションに「美しくヘタ」と書かれていた、長谷川巴龍の「洛中洛外図屏風」が別格です。これはもはや「美しく」以前に、単にもの凄くヘタな屏風に過ぎないかと思いますが、そのあまりにも見事な「ヘタぶり」が痛快なまでに面白いという奇異な作品でした。全体の構図感はともかくも、個々の屋敷や木々、それに人々の光景までが、皆、全て歪みきって描かれています。ある屋敷などは地割れでも起きたのでしょうか。殆ど地面にめり込むかのように、斜めになって表現されていました。また石造りの灯籠なども、何やらおでんのこんにゃく串のようです。後半の「笑い展」を含め、思わず噴き出してしまうような笑いを得たのは、唯一これだけと言って良いほどインパクトの強い作品でした。
数点出ていた「寒山拾得図」の主題の中では、やはり狩野山雪の作品が印象に残ります。不気味な笑みをたたえる姿が力強く表現されていますが、タッチは意外にも即興的です。薄い墨がのびやかに塗られていました。また、肩に手をかけた指先よりのびる魔物のような爪も面白く感じます。
英一蝶の「舞楽図屏風」は、その裏絵の「唐獅子図」が魅力的です。太い墨線にて描かれた勇壮な獅子が、屏風の空間を駆けるように力強く描かれています。また、所々に配された白い顔料が効果的でした。モノトーンの中にて美しいコントラストを見せています。
若冲では「鼠婚礼図」に惹かれました。お玉やさじをもった鼠たちが、何やら忙しなく動き回る様子が描かれています。盆栽を持ち、またちゃんちゃんこを着た鼠は何とも愛くるしいものです。それにしても、このすばしっこい鼠の動きを表現した若冲の颯爽なタッチは実に見事だと思います。また、中央に配された大きな余白も妙味を感じました。画中の物語がふくらんでいきます。
蘆雪では「牛図」が優れていました。体を大きく迫出して、その重量感や存在感を伝える構図は、まさに蘆雪の真骨頂と言っても良いのではないでしょうか。そして、この恰幅の良い体に似つかないような青い二つの瞳も印象的です。まるで宝石のような透明感もある目を潤わせて、何やら優しい面持ちで佇んでいます。元々牛の目はとても可愛いものですが、それを巧みに表現しているのかもしれません。少なくともこの作品に関して言えば、若冲の「白象図」よりも数段魅力的です。
その他、埴輪から円空や木喰の仏像なども展示されています。率直に申し上げると、この展覧会を「笑い」で括るのはかなり不可解でしたが、まずは若冲や蘆雪などの見応えのある作品にも出会えただけでも満足できました。
「笑い展」の感想へ続きます。(4/29)
*関連エントリ
「笑い展」 森美術館
「日本美術が笑う - 縄文から20世紀初頭まで 若冲、白隠、円空、劉生 - 」
1/27-5/6
すっかり行きそびれていました。もう間もなく会期を終える「日本美術が笑う展」です。早速、印象深かった作品を挙げていきたいと思います。
まずはキャプションに「美しくヘタ」と書かれていた、長谷川巴龍の「洛中洛外図屏風」が別格です。これはもはや「美しく」以前に、単にもの凄くヘタな屏風に過ぎないかと思いますが、そのあまりにも見事な「ヘタぶり」が痛快なまでに面白いという奇異な作品でした。全体の構図感はともかくも、個々の屋敷や木々、それに人々の光景までが、皆、全て歪みきって描かれています。ある屋敷などは地割れでも起きたのでしょうか。殆ど地面にめり込むかのように、斜めになって表現されていました。また石造りの灯籠なども、何やらおでんのこんにゃく串のようです。後半の「笑い展」を含め、思わず噴き出してしまうような笑いを得たのは、唯一これだけと言って良いほどインパクトの強い作品でした。
数点出ていた「寒山拾得図」の主題の中では、やはり狩野山雪の作品が印象に残ります。不気味な笑みをたたえる姿が力強く表現されていますが、タッチは意外にも即興的です。薄い墨がのびやかに塗られていました。また、肩に手をかけた指先よりのびる魔物のような爪も面白く感じます。
英一蝶の「舞楽図屏風」は、その裏絵の「唐獅子図」が魅力的です。太い墨線にて描かれた勇壮な獅子が、屏風の空間を駆けるように力強く描かれています。また、所々に配された白い顔料が効果的でした。モノトーンの中にて美しいコントラストを見せています。
若冲では「鼠婚礼図」に惹かれました。お玉やさじをもった鼠たちが、何やら忙しなく動き回る様子が描かれています。盆栽を持ち、またちゃんちゃんこを着た鼠は何とも愛くるしいものです。それにしても、このすばしっこい鼠の動きを表現した若冲の颯爽なタッチは実に見事だと思います。また、中央に配された大きな余白も妙味を感じました。画中の物語がふくらんでいきます。
蘆雪では「牛図」が優れていました。体を大きく迫出して、その重量感や存在感を伝える構図は、まさに蘆雪の真骨頂と言っても良いのではないでしょうか。そして、この恰幅の良い体に似つかないような青い二つの瞳も印象的です。まるで宝石のような透明感もある目を潤わせて、何やら優しい面持ちで佇んでいます。元々牛の目はとても可愛いものですが、それを巧みに表現しているのかもしれません。少なくともこの作品に関して言えば、若冲の「白象図」よりも数段魅力的です。
その他、埴輪から円空や木喰の仏像なども展示されています。率直に申し上げると、この展覧会を「笑い」で括るのはかなり不可解でしたが、まずは若冲や蘆雪などの見応えのある作品にも出会えただけでも満足できました。
「笑い展」の感想へ続きます。(4/29)
*関連エントリ
「笑い展」 森美術館
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