「アートで候。会田誠 山口晃 展」(プレビュー) 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「アートで候。会田誠 山口晃 展」(先行プレビュー)」
5/20-6/19

「先行プレビュー」に参加してきました。先日より、上野の森美術館ではじまった「アートで候。会田誠 山口晃 展」です。



お二方とも日本の現代アート界を牽引しているアーティストです。その作品の趣きは大分違っていますが、特に日本橋三越でも個展を開催し、大和絵風味の「奇想的鳥瞰図」で楽しませる山口晃については、現代アートファン以外でも大いに知られるところではないでしょうか。都内各駅で見かける「江戸しぐさ」のポスターも彼の作品です。この展覧会では、そんな山口の画業を、珍しい初期の頃の作品から回顧的に見ることも出来ます。



会田誠については、以前に森美術館で見た「日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ」が強く印象に残っています。ただ、このようなプレビューに参加しながら申し上げるのも恐縮ですが、ズバリ私は、これまで彼の作品を至極苦手としていました。そして結論から言ってしまうと、この展覧会は会田を苦手とする方にも十分におすすめ出来るものです。ようは、これを見ると彼にハマります。

この展覧会に接する前、作風の異なる二人がどうも繋がりませんでしたが、1997年にミヅマアートギャラリーで開催された「こたつ派」という二人展がその接点なのだそうです。ただ二人とも個人的に親密な間柄というわけではなく、むしろアートの上において静かにぶつかり合うような関係だと聞きました。そして実際、この企画を見る限りにおいても、相互の作品に関連する部分は殆どなく、むしろ何か見えない壁でもあるかのようにそれぞれが強く自己主張しています。もちろん、そこより生まれる程よい緊張感を楽しむことも出来るのです。



ミヅマアートギャラリー(本展企画協力)の三潴氏のお話を伺うことが出来ました。氏によると今回の展覧会のキーワードは、海外では理解されにくい、つまり彼らのバイアスにかからない「日本」なのだそうです。それはつまり、例えば村上隆や奈良美智のような、海外でも強く支持される「日本」ではなく、それこそ「こたつ」に代表されるような、日本人でしか分かり得ないような固有の文化をアートで示したものでもあります。言い換えれば、そんな「我々の日本」を直裁的に見せ、また抉っているのが、この展覧会でもあるようです。



展示の構成について触れたいと思います。一階展示室の導入では、まず二人の初期作品が紹介されていますが、その後は早くも両者の力比べがはじまります。会田では、日本で約6年ぶりの出品となる「ジューサーミキサー」(2001)の隣に、縦4メートル強の巨大な「滝の絵」(2007)が展示されていました。それにしても日本画風(アクリル画です。)でありながらその妙味を解体するような「無題(通称、電柱。)」(1990)や、シュルレアリスムも蹴散らす「あぜ道」における抜群の絵の巧さに接すると、いかに自分が会田作品を見ていなかったのかが痛いほど良く分かります。ちなみに私がこの展覧会で会田にハマったきっかけの作品は「ヴィトン」(2007)です。これを見て、見事に全てが吹っ切れました。



山口では、「長いものに巻かれた」(図録より)という「百貨店圖 日本橋三越」(2004)や、結局その答えは明かされない「何かを造ル圖」(2000)などのお馴染みの作品はもちろんのこと、ついこの前のミヅマの個展に出ていたインスタレーションの「ラグランジュポイント」(2006)から妖艶な「四天王立像」(2006)、さらにはその際に仕上げ作業を行っていた「四季休息圖」(2007)などが出ています。ここはラグランジュポイントの武将たちに睨まれつつも、比較的素直に絵の魅力に接することが出来るコーナーです。





二階で展開されている「山愚痴屋澱エンナーレ 2007」は痛快です。多様なジャンルより出品された「12名のアーティスト」が、現代アートに見る『有効性』や『価値』を『ラディカル』に『批判』しています。ここは澱エンナーレの専用パンフレットを手に、『芸術のあるべき場所』を考えたいものです。(『』の意味については会場にて!)

この山口の「澱エンナーレ」に対する会田側の見せ場は、一階ギャラリーでの「風景の光学的記録におけるイコン化の確率に関する研究」(1995)や「ポスター(全18連作)」(1994)なのかもしれません。前者では会田のコメントこそがほぼぼ作品の核心です。ポスターに見る、とても拙ブログでは取りあげられそうもない凄まじい表現と合わせて、会田の社会に対する、斜めに構えたようで実はストレートな取り組みを見ることが出来ます。

 

両者の大作二点が張り合う、最後の展示室7も忘れられません。中でも、横10メートルにも及ぶ会田の「ひせき 万札地肥瘠相見図」(2007)は強烈です。大きな一万円札を多数プリントしたキャンパスに、奇怪な生物のようなモチーフが空間を駆けています。ちなみに絵に記された印にも注目です。「雪舟三十代画狂人法橋狩野天心~」と、もうこれでもかと言うほど並べて立てています。一方、山口の大作、「渡海文珠」はまだ制作段階です。実際、このプレビューを拝見した際も、手に筆を持った氏が制作を続けておられました。ちなみにこの作品より、手前の「携行折畳式喫茶室」(2002)へ向って、二本のピアノ線がのびています。これは一体、何を意図しているのでしょうか。(この茶室と、そのすぐそばにあった会田の「愛ちゃん盆栽」が奇妙にマッチしていていました。ここは両者のコラボレーションが、ほとんど偶然的に完成していたのかもしれません。)



見所はまだ他にもありますが、後は会場で是非お楽しみ下さい。また、本展覧会の半券を持っていると、東京都美術館の「ロシア美術展」の入場料が半額になります。これはなかなか嬉しい企画です。

6月19日までの開催です。(5/20)

*関連エントリ
「山口晃『ラグランジュポイント』」 ミヅマアートギャラリー

写真提供:上野の森美術館
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