「ペルジーノ展」 損保ジャパン東郷青児美術館

損保ジャパン東郷青児美術館新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン本社ビル42階)
「ペルジーノ展 - ラファエロが師と仰いだ神のごとき人」
4/21-7/1

イタリア・ルネサンスの画家、ペルジーノ(本名:ピエトロ・ヴァンヌッチ 1450-1523)を紹介する日本初の回顧展です。祭壇画の断片や油彩など、計40点の作品が展示されています。



恥ずかしながら今回、私はペルジーノという名を初めて知りましたが、彼は主にウンブリア地方ペルージャで活躍したいわゆる「ウンブリア派」を代表する画家で、当初フィレンツェのヴェロッキオ工房に出入しながら、レオナルドやボッティチェリらと交流した経歴の持ち主でもあるそうです。また彼は工房の運営にも長けており、かのラファエロらも弟子に招きながら、様式化された絵を再生産することにも積極的に取り込んでいました。(ただしそれは結果的に、晩年、市場から飽きられてしまう要因にも繋がります。)今回の展示でもペルジーノのいわゆる真筆はあまり多くなく、工房作と見られる作品との落差も大きいように見受けられましたが、その清々しく甘美な作風はなかなか魅力的でした。



展示作品の中で、殆ど別格なほど美しいのがこの「少年の肖像」です。制作はペルジーノのキャリア初期の頃と推定されていますが、その甘いマスクに見る物憂い気味な表情は、若者の思春期から青年期にありがちな独特な厭世観すら漂わせています。また、焦げ茶の衣服や首をキリリとしめるひも、さらには白んだ顔の肌の様子など、その質感はどこをとっても非常に丁寧に表現されていました。そしてペルジーノに特徴的な髪の毛も忘れることは出来ません。筆の線も残るしっかりとしたタッチでありがら、その重みを殆ど意識させない、実に軽やかでフワリとした髪が描かれています。



ペルジーノ最盛期(1490-1500)に描かれた「ピエタのキリスト(石棺の上のキリスト)」(1495)も印象に残る作品です。刺々しい茨の冠を頭に抱き、両手(?付による。)や胸元の裂けた傷跡が、痛々しいキリストの悲しみを示しています。ただしその割には、細身の体つきはしなやかで美しく、またダラリと両手を伸ばした様子はむしろ流麗でもありました。目と口を静かに閉じた、その穏やかな表情にも見入る作品です。



ちらし表紙を飾る「聖母子と二天使、鞭打ち苦行者信心会の会員たち」(1496-98)は、ペルジーノの完全な真筆として知られる名作です。白装束に身を包んだ信心会の祈りの前に鎮座するのは、もちろん聖母マリアと幼きイエスでした。愛を表す赤と、信仰を示す青い衣服を纏ったマリアはどこか幼く、逆に手をかざしてポースを構えるイエスの姿は、奇妙に大人びた表情も見せています。またキャプションにはウンブリア派絵画の特徴として、明るい色彩と親しみやすい人物、そして正確な遠近法などが挙げられていましたが、私はさらにペルジーノの描く人物の、特に顔の部分に半ば類型化された個性を見たいと思います。この作品のマリアにも表現されているやや上目の重たい瞼と下唇の突き出た口、さらには山型の薄い眉毛などは、他の作品にも頻出するペルジーノ流の顔の造形です。ちなみにこの作品の聖母子も、殆ど同じ顔をしているのではないかと思うほど似ています。



遠近法に長けた「カナの婚礼」(1502-1523)も充実しています。アーチ型の柱が所狭しと立ち並び、その元にイエスを核としたお馴染みのモチーフが描かれていました。特に、画面左右にてポーズをとる女性に目を奪われます。あごをひき、腰を迫出すような曲線美を見せる女性たちは、時代は大きく飛びますが、さながらデルヴォーの描く者たちのようです。妖艶ですらあります。

祭壇画や板絵をガラスケースに入れずに展示しているのには驚きました。限りなく作品に顔を近づけて、絵具の質感を確かめることも可能です。

ペルジーノはレオナルドと同時代の画家でもあります。(レオナルド:1452-1519、ペルジーノ:1450-1523)上野のレオナルド展を見ながら、こちらの展覧会を楽しまない手はないでしょう。会場にはかなり余裕があります。7月1日までの開催です。(5/3)
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