都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「上方絵画の底ぢから」 奈良県立美術館
奈良県立美術館(奈良市登大路町10-6)
「江戸時代 上方絵画の底ぢから」
4/14-5/27

地味な印象は拭えませんが、普段あまり見慣れない絵師に接することが出来たのは事実です。関西一円の美術館より集められた、約70点の江戸(上方)絵画が一堂に会しています。(*1)奈良県立美術館の「上方絵画の底ぢから」展です。
上方とは言うまでもなく、天皇の住む都であった京都、さらには大阪、畿内一円を指す言葉ですが、この展覧会に接すると、その上方にてどれほど多くの絵師たちが活躍していたのかが良く分かります。登場していた絵師、及び流派は以下の通りです。
土佐派、鶴沢派、京狩野、勝山家、円山派、四条派、森派、岸派、原派
岡田為恭(復古大和絵)、西川祐信、月岡雪鼎、井特(浮世絵師)
著名な土佐派に円山派、それに猿と言えば森狙仙の森派などはまだ知る機会も多いのですが、勝山家や鶴沢派など、その他の流派に関する知識は恥ずかしながら殆どありません。展示では、作品を各流派毎に並べて紹介していましたが、もう一歩、それぞれの関係などを分かりやすく提示していただければとも思いました。オーソドックスな構成ながらも、私のような初心者には意外と敷居の高い展覧会だったかもしれません。

とは言え、親しみのある絵師の作品もいくつか展示されています。特に曾我蕭白の「美人図」は見事です。いわゆる美人画というよりも、蕭白一流の妖怪が化けて出たような不気味な女性が描かれていますが、元々「狂女図」と呼ばれていたと聞くと、さもありなんという気もしました。水色の着物に描き込まれた精緻な山水の模様をはじめ、足元よりのぞく真っ赤な布地が何とも印象的です。図版では色が潰れてしまいますが、実際の作品では、まさに血で染めたような鮮やかな赤がドギツく塗られていました。水墨のタッチによる背景の草木もおどろおどろしい雰囲気です。

森狙仙の「藤下遊猿図」もお馴染みのモチーフです。狙仙の描く猿を見ると、如何に彼らが、それこそ木々を次から次へと渡り歩くようにすばしこいのかが良く分かります。こんな細い枝に捕まって、下へ落ちてしまわないのかと案ずるのは野暮なことなのでしょう。タイトルの「遊猿」という表現にも新鮮にうつりました。あまり聞きません。

井特(せいとく)にはたまげました。彼は祇園に住み、遊女や芸妓を描き続けていた浮世絵師だそうですが、ともかくその美人画は、当時の美人の通念からも大きく逸脱していたと思うほど特徴的です。長い四角の顔は男勝りで、眉も極めて太く、鼻筋から口元にかけては何やら老人を描いたような表現がとられています。こんなにインパクトのある美人画には初めて出会いました。あえてこの展覧会をおすすめするのであれば、井特の奇異な美人画を6点も見られることにあると思います。
館内の動線が良くありません。最後の展示室をお見逃しないようにご注意下さい。
今月27日までの開催です。(5/13)
*1 京都府立総合資料館、敦賀市立博物館、大和文華館、及び奈良県立美術館の館蔵品、寄託品。
*関連リンク
江戸期の上方絵画、多彩さ浮き彫り - 奈良県立美術館で展覧会(日経ネット関西版)
「江戸時代 上方絵画の底ぢから」
4/14-5/27

地味な印象は拭えませんが、普段あまり見慣れない絵師に接することが出来たのは事実です。関西一円の美術館より集められた、約70点の江戸(上方)絵画が一堂に会しています。(*1)奈良県立美術館の「上方絵画の底ぢから」展です。
上方とは言うまでもなく、天皇の住む都であった京都、さらには大阪、畿内一円を指す言葉ですが、この展覧会に接すると、その上方にてどれほど多くの絵師たちが活躍していたのかが良く分かります。登場していた絵師、及び流派は以下の通りです。
土佐派、鶴沢派、京狩野、勝山家、円山派、四条派、森派、岸派、原派
岡田為恭(復古大和絵)、西川祐信、月岡雪鼎、井特(浮世絵師)
著名な土佐派に円山派、それに猿と言えば森狙仙の森派などはまだ知る機会も多いのですが、勝山家や鶴沢派など、その他の流派に関する知識は恥ずかしながら殆どありません。展示では、作品を各流派毎に並べて紹介していましたが、もう一歩、それぞれの関係などを分かりやすく提示していただければとも思いました。オーソドックスな構成ながらも、私のような初心者には意外と敷居の高い展覧会だったかもしれません。

とは言え、親しみのある絵師の作品もいくつか展示されています。特に曾我蕭白の「美人図」は見事です。いわゆる美人画というよりも、蕭白一流の妖怪が化けて出たような不気味な女性が描かれていますが、元々「狂女図」と呼ばれていたと聞くと、さもありなんという気もしました。水色の着物に描き込まれた精緻な山水の模様をはじめ、足元よりのぞく真っ赤な布地が何とも印象的です。図版では色が潰れてしまいますが、実際の作品では、まさに血で染めたような鮮やかな赤がドギツく塗られていました。水墨のタッチによる背景の草木もおどろおどろしい雰囲気です。

森狙仙の「藤下遊猿図」もお馴染みのモチーフです。狙仙の描く猿を見ると、如何に彼らが、それこそ木々を次から次へと渡り歩くようにすばしこいのかが良く分かります。こんな細い枝に捕まって、下へ落ちてしまわないのかと案ずるのは野暮なことなのでしょう。タイトルの「遊猿」という表現にも新鮮にうつりました。あまり聞きません。

井特(せいとく)にはたまげました。彼は祇園に住み、遊女や芸妓を描き続けていた浮世絵師だそうですが、ともかくその美人画は、当時の美人の通念からも大きく逸脱していたと思うほど特徴的です。長い四角の顔は男勝りで、眉も極めて太く、鼻筋から口元にかけては何やら老人を描いたような表現がとられています。こんなにインパクトのある美人画には初めて出会いました。あえてこの展覧会をおすすめするのであれば、井特の奇異な美人画を6点も見られることにあると思います。
館内の動線が良くありません。最後の展示室をお見逃しないようにご注意下さい。
今月27日までの開催です。(5/13)
*1 京都府立総合資料館、敦賀市立博物館、大和文華館、及び奈良県立美術館の館蔵品、寄託品。
*関連リンク
江戸期の上方絵画、多彩さ浮き彫り - 奈良県立美術館で展覧会(日経ネット関西版)
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