「パリへ - 洋画家たちの百年の夢 - 」 東京藝術大学大学美術館

東京藝術大学大学美術館台東区上野公園12-8
「パリへ - 洋画家たちの百年の夢 - 」
4/19-6/10



ゴールデンウィーク中の鑑賞でしたが、館内には余裕がありました。パリと関係する芸大の卒業生や教員を通して、主に日本の洋画史を概観する展覧会です。お馴染みの黒田清輝や藤島武二をはじめ、岡本太郎や野見山暁治まで登場していました。

展覧会の構成
1、黒田清輝のパリ留学時代 - ラファエル・コランとの出会い
2、美術学校西洋画家と白馬会の設立、1900年のパリ万博参加とその影響
3、両大戦間のパリ - 藤田嗣治と佐伯祐三の周辺
4、戦後の留学生と現在パリで活躍する人々



黒田清輝にはそれほど魅力を感じませんが、彼を指導したラファエル・コランの作品には惹かれるものがあります。特に、白く透き通る肌を生々しく露にする「田園恋愛詩」(1882)は印象的です。その精緻に描かれた二人の男女はもとより、野花も芽吹く川辺の光景や、ピンク色を帯びた空を力強く駆ける大木も良く描けています。この木ははなみずきでしょうか。その遠近感は、どこか浮世絵的でもありました。(キャプションでは琳派との関係について触れていました。)



山本芳翠の「浦島図」は強烈です。非常に生々しく描かれた亀にのり、玉手箱を手にして海を渡る浦島太郎の様子が表現されています。玉手箱をはじめ、女性たちのつける装飾の質感が極めて立体的です。遥か彼方、海の向こうに朧げに映っているのは、やはり竜宮城でしょうか。また、画面のほぼ中央で光る玉にも目が向きました。ちなみに山本は、黒田に画家になることを勧めた人物でもあるそうです。

洋画、日本画、それに磁器の絵付けなど、浅井忠の多彩な才能も計10点ほどの作品で見ることが出来ます。中でも、6代清水六兵衛とのコンビによる「向付」(1902-07)が心に残りました。花鳥画の伝統を思わせる流麗な絵柄が、六兵衛のモダンな器と良くマッチしています。

 

藤島武二に良い作品がいくつも出ていました。朝鮮アザミを半ば毒々しい色遣いで表現した「アルチショ」(1917)と、流れるようなタッチにて朝焼けの海を描いた「港の朝陽」は魅力的です。ちなみにこの二点は、双方とも竹橋の近代美術館の所蔵作品でした。「港の朝陽」は馴染みがありましたが、アザミは初めて見たかもしれません。展示頻度が少ないのでしょうか。

3番目のセクションでは、大戦前に渡仏して活躍した藤田や佐伯らが登場します。ここでは最近、やや惹かれている里見勝蔵に見入ることが出来ました。堂々たる女性がフォービズムを思わせる構図感にて描かれています。ヴラマンク好きの私にとって、彼と関係の深い里見にはどこか親近感も覚えます。

さて、すこぶる評判も悪い最後の現代アートのコーナーですが、これはおそらくその展示方法に相当な難があったのかと思います。藤田らを見終えた後、すぐにモリエヒデオの『冷蔵庫インスタレーション』を見せられても、その感性と表現方法の違いに戸惑ってしまうだけです。また、「洋画」というこの展覧会の軸からかけ離れた作品もいくつかあり、何故、ここで急にアートの多様性を提示しているのかも良く分かりませんでした。それに、力のある野見山の絵画も埋没してしまっています。コンテンポラリーに対する企画者側の姿勢に強い疑念を抱くところです。ハッキリ申し上げると、展示のセンスが悪過ぎます。

この展覧会のチケットで、同時開催中の「芸大コレクション展」も見ることが可能です。中国・後漢時代の銅筒から、長谷川潔のメゾチントまでが並んでいました。

6月10日までの開催です。(4/30)
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