「若冲展」(プレビュー) 相国寺承天閣美術館(その3・『第2会場、動植綵絵。』)

相国寺承天閣美術館(京都市上京区今出川通烏丸東入
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」(先行プレビュー)」
5/13-6/3

本エントリで区切りにします。「その1」「その2・『第1会場、鹿苑寺障壁画など。』」より続く「若冲展」です。一階の第二会場では、この作品を入れるために設計された展示室の中で、「釈迦三尊像」と「動植綵絵」が一堂に会しています。全33幅、空間をグルリと取り囲む様子はまさに圧巻です。


第二会場全景。(*)

照明はかなり落とされ、暗がりより「動植綵絵」がぽっかりと浮き出てくるような展示になっています。正面には「釈迦三尊像」3幅、そしてその左右に「動植綵絵」が15幅ずつ並んでいました。また、作品の順番については、ご一緒したTakさんの「弐代目・青い日記帳」に図入りで紹介されていますが、一応、こちらでも記録のために掲載したいと思います。


*釈迦三尊像、動植綵絵全33幅展示順

中 「釈迦三尊像」(左より順に、普賢菩薩像、釈迦如来像、文殊菩薩像。)

左 「動植綵絵」(順に、老松白鳳図、牡丹小禽図、梅花小禽図、向日葵雄鶏図、秋塘群雀図、椶櫚雄鶏図、雪中錦鶏図、芙蓉双鶏図、梅花群鶴図、芦雁図、桃花小禽図、大鶏雌雄図、貝甲図、紅葉小禽図、群魚図・鯛)

右 「動植綵絵」(順に、老松孔雀図、芍薬群蝶図、梅花皓月図、南天雄鶏図、蓮池遊魚図、老松白鶏図、雪中鴛鴦図、紫陽花双鶏図、老松鸚鵡図、芦鵞図、薔薇小禽図、群鶏図、池辺郡虫図、菊花流水図、群魚図・蛸)


制作当時、どのように「動植綵絵」が並んでいたのかを記した文献は残っていません。つまり今回の展示順は、美術史家の辻惟雄氏をはじめ、学芸員の村田氏らが検討した結果によっています。基本的に「釈迦三尊像」の両隣が「白鳳」と「孔雀」であるように、以下「牡丹」と「芍薬」、または「紫陽花」と「芙蓉」、さらには「雁」と「鵞」など、それぞれが対になるように並んでいました。また、相国寺にゆかりの深い作品を「釈迦三尊像」の近くに置いています。ちなみに当然ながら、尚蔵館での出品展示順(「芍薬群蝶図」にはじまり「紅葉小禽図」で終わる。)とは大きく異なっていました。あくまでも、「釈迦三尊像」を飾り立てることに重きのおかれた展示形態なのです。



いくつかの作品について、学芸員の村田氏が仏教的な観点からの解説をして下さいました。まず、当時の順番にほぼ間違いない「老松白鳳図」と「老松孔雀図」の次に、何故、一件地味な「牡丹小禽図」と「芍薬群蝶図」が来るかについては、花の王様(華王)である牡丹と、それに次ぐ宰相の地位を与えられた芍薬自体の重要性に鑑みていることです。ちなみに、若冲が相国寺に寄進した最初の一幅もこの「芍薬群蝶図」です。牡丹と芍薬はあくまでもペアの作品のようです。



若冲と言うと、いわゆる「奇想の系譜」の一画家として解釈されることが目立ちますが、この展覧会での彼は、あくまでも一介の「居士」(*1)に過ぎません。そしてそうした「仏門の若冲」を思うと、作品の意味へ新たに「禅」の視座が加わっていきます。例えば「菊花流水図」では、まずその独創的な構図に惹かれますが、生々流転を水流が示し、大きな菊が仏花であると捉えると、また違った趣きをたたえているように見えるのではないでしょうか。そして同じように「池辺郡虫図」も、蜘蛛が蝶を捕らえ、蛙と蛇が対峙し、死んだミミズを蟻が運んでいる様子を思うと、ここには生き物の「死」の問題が扱われているようにも考えられるのです。



展示の最後を飾る「群魚図・蛸」にも興味深い解釈が施されていました。この作品の主役である親子蛸は、京都に伝わる「蛸薬師」の伝説(*2)にヒントを得て、若冲が自身の母への愛、つまり親子愛を表現した作品だというのです。実際、「蛸薬師」の伝説が知られる永福寺の面した通りは「蛸薬師通」と呼ばれているそうですが、この通りは若冲の住んでいた錦小路の僅か一本北に位置し、また永福寺そのものも彼の生家に非常に近かったことが知られています。そんな若冲が「蛸薬師」の伝説を知らぬはずがない、とするのが村田氏の解釈でありました。



「多数の中の異」というのも、若冲を語る際における重要なキーワードです。これは例えば「群鶏図」での一羽だけ正面を向いた鶏や、「紅葉小禽図」の一枚だけ散った紅葉(この部分に向って光が差し込んでいます。)など、他と一つだけ異なった姿をとるモチーフの登場を意味しています。ただ私は、これが若冲を語るに相応しい事象なのかは良く分かりません。話はそれますが、以前に府中市美術館の「動物絵画展」で見た蘆雪の「群雀図」も、一羽だけが群れより離れ、背を向けてとまっています。他の画家の例も見たいところです。



プレビュー時間は正味40分程度でしたが、人の少ない抜群の環境であったとはいえ、全部をじっくり楽しむには時間が足りませんでした。またこの展示に接することで、「釈迦三尊像」と「動植綵絵」は33幅揃ってはじめて「一つ」であると確信しましたが、個々を深く追うと、いくら時間があっても味わい尽くせない深みが確かに存在しています。



あえて難を申せば、もう少しだけ天井の高い展示室で拝見したかったとも思いますが、120年ぶりの響宴に、半ば放心状態になりながらどっぷりと浸ることが出来ました。それにしても、昨年、一通り見たはずの作品が、まさかこれほど新鮮に見えるとは思いもよりません。驚異です。



展覧会は6月3日まで開催されています。もちろん強くおすすめします。

最後になりましたが、このようなプレビューの機会を与えて下さった全ての方に感謝申し上げたいと思います。ありがとうございました。(5/12)

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*展覧会基本情報混雑情報
「若冲展 - 釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会 - 」
会期:5/13 - 6/3(無休)
場所:相国寺承天閣美術館京都市上京区今出川通烏丸東入上る相国寺門前町701
開館時間:10:00 - 17:00
入場料:一般1500円、大学生/高校生/65歳以上1200円、中学生/小学生1000円

*1 在家の男子であって、仏教に帰依した者。(大辞泉)
*2 出家の僧が、病んだ母のために身を省みず好物の蛸を買い求めたところ、人々に見とがめられて箱の中を見せるように迫られた。窮した僧が薬師如来を念じたところ、蛸は経巻に姿を変え、母もその功徳で快癒したという。(展覧会図録より。)


写真については、撮影と掲載の許可をいただいています。また「*」マークの写真は、プレビュー主催者が提供したものです。
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