「仏像の道 - インドから日本へ - 」 東京国立博物館(本館特別5室・常設展)

東京国立博物館台東区上野公園13-9
「仏像の道 - インドから日本へ - 」
2007/7/27~2008/4/6



常設展内のミニ企画です。「受胎告知」の熱狂もさめやらぬ本館特別5室(本館中央、大階段裏。)に、インド、中国、朝鮮、そして日本における各黎明期の仏像が紹介されています。

ほぼ館蔵品の仏像、または仏教美術品、約20点にて構成された展覧会です。仏教の伝来過程を探るというテーマを掘り下げるには展示品が少なく、構成もやや大雑把ではありますが、むしろ私のような初心者の「仏像史入門」には最適な展示だったのかもしれません。以下、順を追ってその内容を振り返りたいと思います。(展示リスト

1、「仏像の誕生」(紀元1世紀。クシャーン朝時代。)



仏教が興ったのは紀元前5世紀頃、言うまでもなくインドの釈迦の説いた教えによりますが、当初、禁じられていた仏像をつくり始めたのは紀元1世紀、クシャーン朝の都ガンダーラ(現パキスタン)やマトゥーラ(中央インド)に遡ることが出来るそうです。展示ではガンダーラ仏を中心に紹介されていましたが、ギリシアやローマの彫像を思わせるその出で立ちは実に優美で、比較的がっちりとした体つきのマトゥーラ仏とは対照的な姿をとっています。また、仏陀の生涯を綴った彫刻、『仏伝』も見応えがありました。中でも「仏誕・灌水」(2~3世紀)は、その下段に仏陀の生まれる様子が掘り起こされているものです。ちなみにこれらはストゥーパ(仏塔。舎利をおさめた。)の壁面を飾り立てていました。

2、「中国への仏教伝来」(紀元前後。)



仏教の中国への伝播はかなり早く、例えば後漢書には、明帝(57~75年)の異母弟が中国の伝説の帝王と同列に仏陀を祀っていたことが記されています。またその後、桓帝(146~167年)が中国史において初めて仏教を公認し、三国時代には約3000人を収容する仏教寺院も建設されていました。そして五胡十六国時代(4世紀)には西方で石窟の造営も進んでいきます。展示では4世紀の「如来坐像」が印象的です。ガンダーラ仏を思わせる出で立ちではありますが、手にその特徴にはない「禅定印」(*1)を見ることが出来ました。また、うっすらと残る金も往時の輝きを伝えています。その他、ホータンの「仏頭」も見事な作品です。

3、「中国仏教の展開」(中国、南北朝時代。)



ここではインドの模倣より中国独自の様式へと発展した、南北朝時代(5世紀~)の仏像が紹介されています。この時期、仏教は北魏の太武帝(446年)によって二度ほどの弾圧を受けますが、それを経た後はますます信仰が盛んになっていたのだそうです。「如来三尊立像」(6世紀)に見る顔つきが明らかにガンダーラ仏とは異なっています。仏像の顔は目が細く、またアゴも張っており、かつての特徴は完全に消えているのです。

4、「朝鮮半島への仏教伝来」(朝鮮、三国時代。)



朝鮮半島に仏教が伝わったのは4世紀の頃ですが、前漢から高句麗(372年)、または東晋から百済(384年)と、いくつかのルートを経ていたことが分かっています。そして528年には新羅が仏教を公認し、寺院の造営も進んでいきました。ここでの仏像の特徴はやはり半跏思惟像です。手のひらにのるほど小さな「菩薩半跏像」(7世紀)などが紹介されていました。

5、「日本への仏教伝来」(飛鳥時代。)

日本への伝来は、良く知られる通り6世紀の前半(*2)です。(ゴサンパイなどと覚えましたが…。)588年には蘇我氏が日本初の本格的寺院「飛鳥寺」を建立しますが、この展示で紹介されていた仏像は7世紀のものでした。遡ること約100年前、中国・南北朝様式を踏襲する法隆寺の「如来座像」(7世紀)が印象に残ります。

6、「唐と奈良」(8世紀。)

仏教が最も隆盛を極めた唐の時代、仏像制作はインド・クプタ朝の影響も受けて写実性が追求されていきます。「十一面観音龕」(8世紀)は、唐の時代の著名な観音像です。スマートで流麗な体つきが美感に秀でています。また奈良の作品としては、薬師寺の「聖観音菩薩立像」(7~8世紀)の模造も出品されていました。

以上です。丁寧な解説パネルが良く出来ており、概略を理解しながら時代に沿って仏像を楽しむことが出来ました。これでミニ冊子などがあればなお良かったと思います。

超ロングランの企画です。(来年4月6日までの開催。)東博へお出向きの際は、「特5室」をお見逃しなきようご注意下さい。なお、展示品は撮影が可能(フラッシュは厳禁。)です。(8/4)

*1 心の安定を表わす身振りで、釈迦が悟りを開いたときの姿をとらえたもの。
*2 552年(日本書紀)とも、538年(上宮聖徳法王帝説など。)とも言われている。
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