「花鳥礼讃 - 日本・中国のかたちと心 - 」 泉屋博古館・分館

泉屋博古館・分館港区六本木1-5-1
「花鳥礼讃 - 日本・中国のかたちと心 - 」
8/4-9/24



若冲ファンならずとも、花鳥画好きにはたまらない内容かと思います。沈南蘋、狙仙、呉春、若冲、乾山、探幽、応挙などの花鳥画(全37点)を紹介する、日中花鳥画の響宴とも言える展覧会です。

会場はもちろん博古館の小さな展示室です。さすがに量を求めるのは無理がありますが、その分、展示作品の質には目を見張るものがありました。以下、展覧会の構成に沿って印象深かった作品を挙げていきたいと思います。

1、花鳥画の季節(江戸期を中心に、明、清の花鳥画を見る。)



  

お目当ての若冲は早速ここで紹介されていました。『目白押し』の「海棠目白図」(江戸中期)です。上下よりそれぞれ海棠とシデコブシを配し、中央の枝にズラリとメジロを並べたこの作品は、かの「動植綵絵」の一幅であると言われても違和感のないほどに洗練されています。(実際、動植綵絵の制作された頃の作品だそうです。)おしあいへしあいに群れるメジロたちはもちろんのこと、少し離れた位置で佇むそれも可愛らしいものです。また、コブシと海棠はともに白の花をたくさん付けていますが、前者は絵具を控えめに絹本の質感をそのまま露にしている(その透明感が優れています。)のに対し、後者は白を力強く置いて、まるで雪の舞うかのような輝かしい白を生み出していました。この辺の技も見逃せません。



絵の迫力という点に関してその『目白押し図』を凌ぐのは、江戸時代の花鳥画に多大なる影響を与えた沈南蘋の「雪中遊兎図」(1737年)です。この作品の主人公はタイトルにもある「遊兎」、つまりウサギではなく、力強く迫出した土坡の上で絡み合う二本の紅白梅にあるのではないでしょうか。大きく広げた両手のような枝には紅白の花がいくつもぶら下がり、幹も際限なく伸びゆくかのように空へ駆けています。(一匹のウサギはその様子を目で追っています。)また梅の白と対照的な雪の描写も興味深く感じられました。さも凍り付いたかのように木にまとわりついているのです。



椿椿山(つばきちんざん)の三幅の大作、「玉堂富貴・海蝶・藻魚図」(1840年)も見応えがあります。左幅よりそれぞれ長寿を示す蝶、富貴を表す牡丹・白木蓮・海棠、そして豊饒の魚が描かれていますが、特に中央の花卉はまるで写実に優れた西洋の静物画のようでした。また右幅では藻の表現が巧みです。花卉を描く際に見せた写実をあえて退け、絵具の滲みを利用して水墨画のような美しさを見せています。

2、四季の花園(四季の光景を屏風に示した「四季絵」を展示。)



水墨画と言えば、小品ながらも尾形乾山の「椿図」(江戸前期)も忘れられません。乾山らしい軽妙なタッチで表した椿の佳品ですが、白く咲く花がまるで笑顔のように見えてくるのがどうも不思議です。また俵屋派を示す伊年印の「四季草花図屏風」(江戸前期)も見事でした。右隻31種、左隻26種、計57種もの草花が図像的に描かれています。大輪の花々より、小さく健気に咲くナズナやリンドウなどに惹かれました。

3、中国画の愛好(中国画とその模倣。)

最後には、中国画を模写した探幽や応挙、それに土佐光起の作品が紹介されています。ここでは応挙の「双鯉図」(1782年)が一番でしょうか。二匹の鯉が吊るされている様子が描かれていますが、メタリックとも言える鱗の質感などに面白さを感じました。出世や円満を示す、まさにおめでたい作品です。

会場ロビーにて、花鳥画のモチーフにおける寓意が紹介されていました。ただこれは、中国語の発音や和歌のイメージに由来するなど起源も多様で、確定は出来ないのだそうです。

牡丹:富貴、百花の王
海棠、白木蓮:玉堂(美しい殿堂)、美女(海棠)
魚:有余(余裕ある。)
葵:忠義、立君子
鶴:最高の官位、長寿
蟷螂:出世
菊:延年益寿、高潔の士
梅:高潔の士
寿石:長寿

いくつご存知でしょうか。蟷螂=出世というのがどうも結びつきません。

9月24日までの開催です。もちろんおすすめします。
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