「AYAKASHI 江戸の怪し」 太田記念美術館

太田記念美術館渋谷区神宮前1-10-10
「AYAKASHI 江戸の怪し - 浮世絵の妖怪・幽霊・妖術師たち - 」
8/1-26



これなら浮世絵に親しみのない私でも楽しめます。「ちょっとブキミでオモシロイの妖怪世界」(公式HPより一部改変。)を紹介する浮世展です。妖怪、幽霊、それに鬼に悪魔と、夏を涼しくするお馴染みの強者が競い合っていました。

畳敷きの空間にある肉筆5点からして、早くも「怪し」(あやかし。怪し気で不思議なことを指す言葉。)の世界を存分に楽しむことが出来ます。ここでは豊原国周の「閻魔大王と浄玻璃鏡」(19世紀後半)のお茶目な閻魔にも見入るところですが、蜃気楼を怪現象と捉えた鳥文斎栄之の「蛤美人 花魁図・吉原堤図・禿図」(1801-18年)が印象に残りました。これは蜃を蛤と読み解き、その蜃気楼(*1)を表現したもので、大きな蛤から吹き出る蜃気楼に包まれた花魁などが描かれています。風流な怪しです。



この展覧会で非常に惹かれた絵師が一人いました。幕末より明治にかけて活躍した月岡芳年(1839-1892)です。今回、彼のいわゆる「無惨絵」と言われるグロテスクな作品は紹介されていませんが、それでも日中の怪奇物語に題をとった「和漢百物語」(*2)や「月百姿」の揃いものには見応えがあります。前者では、蒲生貞秀の家臣が戦帰りに化け仁王と相撲をとったという「登喜大四郎」(黒の背景に浮かぶ骸骨の合戦が不気味です。)、そして後者ではまるで夕顔の生首だけが浮かび上がるように描かれた「源氏夕顔巻」などが心にとまりました。彼女を切り裂くかのようにして空間をかける、夕顔の花もどこか幻想的です。



芳年の浮世絵には、映像をそのまま絵画化したような激しい動きを見ることが出来ますが、その最たるものが「羅生門渡辺綱鬼腕斬之図」(1888年)ではないでしょうか。輝く稲妻と赤と黒の鮮やかなコントラスト、そして目もピッタリ合って対峙する二者の緊張感が、縦長の構図の中へ見事におさまって表現されています。線や事物の配置に一瞬の迷いもないような、から恐ろしいほどに完成度の高い作品です。この激しさは並大抵ではありません。

「怪し」の世界から芳年にハマった私は、この後、とらさんおすすめの礫川浮世絵美術館へと足を運び、開催中の「芳年『月百姿』を主に - 月の浮世絵展」をじっくりと楽しみました。そちらはまた別エントリにてご紹介します。

好評の図録は完売してしまったようです。今月26日までの開催です。(8/17)

*1 蜃楼を訓読みすると「かいやぐら」(貝櫓)と読む。
*2 百物語とは江戸時代に流行した怪談会のことで、一話怪談をする度にロウソクを消し、最後に真っ暗になった時、怪奇が起るとされていた。
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