都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ルドンの黒」 Bunkamura ザ・ミュージアム
Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷区道玄坂2-24-1)
「ルドンの黒」
7/28-8/26(会期終了)
ルドンがこのような「黒の世界」を手がけていたとは全く知りませんでした。先日まで、Bunkamuraにて開催されていた「ルドンの黒」です。ごく一部の油彩をのぞき、展示作品の殆どが「黒」、つまりは版画と素描にて構成されています。
既に会期も終えているので手短かに触れますが、この展覧会は、ルドン(1840~1916)が画業の前半で手がけた「黒の世界」(=版画、素描。)を、彼の生涯を追いながら比較的時系列に紹介していくものです。1860年、20代のルドンは版画家ルドルフ・ブレスダンに師事し、中世の叙事詩などのロマン主義的な版画の制作をはじめます。そして1870年代には、植物学者アルマン・クラヴォーに出会って生物学への関心を強め、例えば肉眼では見えない生命体などをモチーフにとる作品を描いていきました。また、それと並行する形でフロベールの小説「聖アントワーヌの誘惑」の連作版画を手がけたり、一方でバルビゾン派的な風景版画も生み出すなど、様々な表現にも取り組んでいます。結果、1890年代に入ると、ルドンのならではの神秘主義的な作風も確立し、お馴染みの「色の世界」へと移っていきました。ルドンの画業史に占める版画の割合は相当な量に達するのかもしれません。
ルドンと言えば、パステルなどの色鮮やかな絵画しか思い浮かばない私にとって、この黒一色の世界は全く新鮮なものでしたが、一点一点の作品自体は、その描写にやや類型化された嫌いもある、どこか習作的な印象を受けるのも事実でした。また展示で、例えばクラヴォーとの関連において『科学にも関心の深いルドン』とでも言うようなルドン像も打ち出していましたが、それも結局は、科学を通り越した空想世界、つまりルドンならではの幻想性を追っていたように思えてなりません。詳細なキャプションなど、展覧会自体は実に丁寧に構成されていましたが、やや唐突に登場する感もある「色の世界」の展示も含め、何か全体を貫く一つの軸を見ることが出来なかったようにも思います。
いつもは賑やかな感もあるザ・ミュージアムが、今回ばかりは静まりかえっていたのも印象に残りました。これもルドンの述べる、「あらゆる色の中で一番本質的」な黒の持つ不思議な力によるものかもしれません。
展示品の全てが岐阜県立美術館のコレクションでした。これほど多くのルドンの版画・素描作品を蒐集した経緯も気になるところです。(8/18)
「ルドンの黒」
7/28-8/26(会期終了)
ルドンがこのような「黒の世界」を手がけていたとは全く知りませんでした。先日まで、Bunkamuraにて開催されていた「ルドンの黒」です。ごく一部の油彩をのぞき、展示作品の殆どが「黒」、つまりは版画と素描にて構成されています。
既に会期も終えているので手短かに触れますが、この展覧会は、ルドン(1840~1916)が画業の前半で手がけた「黒の世界」(=版画、素描。)を、彼の生涯を追いながら比較的時系列に紹介していくものです。1860年、20代のルドンは版画家ルドルフ・ブレスダンに師事し、中世の叙事詩などのロマン主義的な版画の制作をはじめます。そして1870年代には、植物学者アルマン・クラヴォーに出会って生物学への関心を強め、例えば肉眼では見えない生命体などをモチーフにとる作品を描いていきました。また、それと並行する形でフロベールの小説「聖アントワーヌの誘惑」の連作版画を手がけたり、一方でバルビゾン派的な風景版画も生み出すなど、様々な表現にも取り組んでいます。結果、1890年代に入ると、ルドンのならではの神秘主義的な作風も確立し、お馴染みの「色の世界」へと移っていきました。ルドンの画業史に占める版画の割合は相当な量に達するのかもしれません。
ルドンと言えば、パステルなどの色鮮やかな絵画しか思い浮かばない私にとって、この黒一色の世界は全く新鮮なものでしたが、一点一点の作品自体は、その描写にやや類型化された嫌いもある、どこか習作的な印象を受けるのも事実でした。また展示で、例えばクラヴォーとの関連において『科学にも関心の深いルドン』とでも言うようなルドン像も打ち出していましたが、それも結局は、科学を通り越した空想世界、つまりルドンならではの幻想性を追っていたように思えてなりません。詳細なキャプションなど、展覧会自体は実に丁寧に構成されていましたが、やや唐突に登場する感もある「色の世界」の展示も含め、何か全体を貫く一つの軸を見ることが出来なかったようにも思います。
いつもは賑やかな感もあるザ・ミュージアムが、今回ばかりは静まりかえっていたのも印象に残りました。これもルドンの述べる、「あらゆる色の中で一番本質的」な黒の持つ不思議な力によるものかもしれません。
展示品の全てが岐阜県立美術館のコレクションでした。これほど多くのルドンの版画・素描作品を蒐集した経緯も気になるところです。(8/18)
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