「第13回 アートコレクション展」 ホテルオークラ東京

ホテルオークラ東京港区虎ノ門2-10-4
「第13回 秘蔵の名品 アートコレクション展」
8/1-24

ホテルオークラの真夏の風物詩とも言える絵画展です。今年で13回目を数える「秘蔵の名品 アートコレクション展」へ行ってきました。



今年は、何故か去年まであった内容を示すサブタイトル(「『花鳥風月』日本とヨーロッパ」でした。)がなくなっていましたが、展示の大まかな内容は例年とそう変わることはなかったと思います。シスレーやルノワールの印象派から安井曾太郎や佐伯などの洋画、それに宗達派に応挙や清方、土牛などの日本画と、いつもながらの充実したラインナップです。また普段、あまりお目にかかれないような、企業や個人所有の絵画が多いのもこの展覧会の特徴です。まだ見ぬお宝を探し当てるような気持ちで楽しむことも出来ます。(出品点数全103点。うち西洋絵画43点、日本画24点、近代日本洋画36点。)



早速、惹かれた作品をいくつか挙げていきます。まず西洋絵画ではヴラマンクの「花」が見事です。茶褐色の花瓶に生けられた紅白の花が、ヴラマンクらしい剛胆なタッチで力強く配されています。背景に見る石壁のような質感と、沈み込むように重々しい深緑の葉、またはまるで画中より飛び出してくるかのような花がいずれも対比的に描かれていました。また彼の作品ではもう一点、帆船の浮かぶ港を捉えた「ル・アーブルの港の舟」も印象に残ります。青系統に統一された色遣いとその厳格な構図感に、ヴラマンクの他の作品にはない目新しさを見る思いがしました。



大好きなシスレーが一点出ていました。それがこの「サン=マメスのロワン運河」(1885年)です。奥の一点より手前と左へ広がるのような河の表現は遠近感に優れ、空にはまるでうろこ雲を描くような太いタッチが美しく靡いています。また、おそらくは船上で作業をしている人物が、あたかも風景の一事物になって溶け込んでいるのもシスレーならではの味わいです。空の青と水の青の両方に眩しい日差しを感じました。



クレーの「暑い季節の庭」(1938年)にも惹かれます。これは、庭の植物などをモチーフにしているようですが、まるでその花々が踊っているようにも見える愉し気な作品です。また、厚く塗られた絵具はてっきり油彩なのかと思いきや、実際には厚紙にグワッシュを用いたものでした。その凝った質感にも魅力を感じます。



近代日本画では清方の「雨月物語」(1921年)がずば抜けています。この作品は、江戸後期の怪異小説集「雨月物語」より題をとったものだそうですが、その物語の各場面が全8面にもわたり、清方一流の精緻な大和絵になって表現されているのです。中でも印象的なのは、やはり「もののけ」ではないでしょうか。草ものびきって荒れた邸宅の軒先が、黒煙とともに不気味な風情にて描かれています。ちなみに中央の女性は真女児という人物で、これから姿を消そうとしているのだそうです。



まさか見られるとは思わなかった作品に出会うことが出来ました。松本竣介の「Y市の橋」(1946年頃)です。この作品は現在、油彩で4バージョンあることが知られていますが、ここに出ていたのはとりわけ見る機会の少ない個人蔵のものでした。例えば竹橋の近代美術館所蔵の作品と比べるとタッチは荒く、褐色を使った色遣いも大きく異なっていますが、その物憂い気味な心象風景の魅力は健在です。それにしても近美の作品には画中に人物が描かれていたと思うのですが、ここでは誰も確認することが出来ません。近美の作品の3年後に生まれたこの風景画は、終戦を挟んで完全に荒廃した都市の雰囲気を伝えようとしているのでしょうか。

他には、昨年のアートコレクション併催展である「Gold」展(大倉集古館)にも出ていた宗達派の「扇面流図」(17世紀前半)や、同じく集古館所蔵の応挙「波濤図」(1778年)にも見応えがありました。ただこればかりは、昨年に出ていた抱一の「四季花鳥図屏風」の方が断然に魅力的です。この屏風も集古館の作品ではなく、それこそ「秘蔵」の屏風が出てくれるとなお良かったかもしれません。

「秘蔵の名品ベスト1」には、ヴラマンクの「花」と散々迷った結果、シスレーの「ロワン運河」に投票しました。皆さんは如何でしたでしょう。(ちなみに昨年のベストはこちらです。)

8月24日までの開催です。(8/15)
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