「ポンペイの輝き」 Bunkamura ザ・ミュージアム 5/27

Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷区道玄坂2-24-1)
「ポンペイの輝き -古代ローマ都市 最後の日- 」
4/28-6/25

Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の「ポンペイの輝き」展を見てきました。言うまでもなく、有名なヴェスヴィオ火山の大噴火によって埋没した、古代都市ポンペイにスポットを当てた展覧会です。装飾品、金貨、燭台、インク壷、またはテーブルや壁画、さらには犠牲者の型取りまでが展示されています。幅広い遺品から、当時のローマの生活を探ることの出来る内容です。



展覧会では、大噴火によって埋もれたポンペイ周辺の各地域を一つずつ丁寧に紹介しています。また、噴火の様子を再現した迫力ある(?)映像も放映されていました。まさに展示を一通り鑑賞すれば、当時のポンペイにて簡単に学ぶことが出来る。私のようなローマの初心者にも優しい展覧会です。

展示されている品々はどれも貴重なものばかりかと思いますが、この時代の特徴でもあるのか、総じてやや地味なものが多いようにも感じられました。特に装飾品は明らかに素朴です。とりわけ凝った意匠が施されているものは多くありません。全く時代は異なりますが、以前、イタリア文化会館で見た、「エトルリアの世界展」の装飾品の方が私には魅力的に映りました。合理性や実用性を求めたローマ人。そんな彼らの生活様式が、装飾品の趣向にも表れているのかもしれません。



装飾品では、同じモチーフを使ったものがいくつも出ています。それは、魔除けの意味をこめて使用されたという蛇を象った腕輪です。大小様々な蛇の腕輪。もちろん蛇というモチーフは共通でありながらも、その細工はそれぞれに異なっていました。その中では、上に画像をアップした「ヘビ型の腕輪」がとても個性的です。重さ何と610グラム。(あくまでも飾るためのものでしょうか。)ヘビの頭が両方に付いていますが、それぞれがメダルをくわえて引っ張り合っています。ちなみにそこに描かれているのは月の女神セレネだそうです。ローマ神話のディアナと同一の神(ギリシャではアルテミス。狩猟や清浄の女神。)とのことですが、それをややグロテスクな迫力ある蛇がグワッと噛み付いている。残念ながら、その象徴的な意味については分からなかったのですが、ともかく非常に奇異な形をした腕輪です。

 

装飾品以外では、やはりローマらしい「剣闘士の兜」や、当時の生活の様子を生き生きと捉えた壁画など(楽しそうにキスしているシーンが描かれていました。)などに見応えがありました。また端正なヘレニズム彫刻や、まるで仏像を思わせるような奇妙な小像「メルクリウス像」なども興味深い作品です。ちなみにメルクリウスはローマの商業神(ギリシャではヘルメス。)とのことです。それこそ大黒様のように飾られていたのでしょうか。

さて、私が一番印象に残ったのは、この大災害によって亡くなった犠牲者の型取りでした。いくら数千年前のものとはいえ、もがくような体勢でそのまま死を迎えた人々の型取りなどはあまりにも生々しい。特に、親子が転がるかのようにして横たわった型取りには、心を強く打たれます。熱かったのか、それとも押しつぶされてしまったのか。なす術もなく死を受け入れざるを得なかった者たち。惨たらしい災害の悲劇。目を背けてはいけない、まさにこの展覧会の核心的な展示です。心を突き刺されます。

人気の展覧会なのか、思っていたよりも随分と混雑していました。ご予定の方はお早めに行かれることをおすすめします。今月25日までの開催です。
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「雪舟からポロックまで」 ブリヂストン美術館 5/21

ブリヂストン美術館(中央区京橋1-10-1)
「石橋財団50周年記念 -雪舟からポロックまで」
4/8-6/4

石橋財団の50周年を記念して開催された展覧会です。印象派からザオ・ウーキー、さらには応挙や雪舟までが揃います。狭いブリヂストン美術館が一段と窮屈に感じられるほどのボリューム感。これは好企画です。



ともかく「あれも、これも。」と言うような選り取りみどりの内容です。惹かれた作品の感想をイチイチ書いていくとキリがありません。また、この展覧会はさながら石橋財団の所有する美術品の常設展です。これまでに見たことのある作品もいくつか交じっています。と言うことで、ここでは「特に」惹かれた作品だけを挙げていきたいと思います。



まず印象派のコーナーからは、私の好きなシスレーから「サン=マメス六月の朝」(1884)です。決して上手いと言えるような作品ではありませんが、左から森、川、街路樹、道路、そして家々が整然と並んだ構図の妙、または川や道路における大胆なタッチと点描のように細かく描かれた木々の対比、さらには木陰に見られる光の取り込み方など、どれもまさしく印象派ならではの美感に溢れた作品です。そして、家々の質感、特に手前に見られる赤褐色の壁には温もりが感じられます。また行き交う人々や、川に浮かんだ小舟の描写も画面に良いアクセントを与えている。目新しい表現もなく、地味な作品ではありますが、むしろこの素朴さに強く惹かれました。



モネはやや苦手ですが、ブリヂストンの「黄昏、ヴェネツィア」(1908)だけはいつ見ても大いに感心させられます。ともかくこの黄昏の描写。この魔力的とも言える色彩表現は、到底私の文章では表現出来ません。夕陽に焦がされて燃え上がるヴェネツィア。全てが崩れかかっているこの黄昏の瞬間にて、尖塔だけが唯一画面を支えている。もう目がクラクラしてしまいます。印象派の範疇を越えてしまったような、強烈なインパクトを与える作品です。



同じくモローも、作品によってはやや首を傾げたくなるような作品もありますが、この「化粧」(1885-90)は非常に優れた作品です。やはりモローは水彩の方が美しい。うっとりとした表情の女性。そして爛れた衣装、その艶やかさ。これを魅惑的と言わずして何と表現すれば良いのか。この展覧会でも特に印象に残る作品です。これは絶品です。



あまり人気がありそうもないのですが、ヴラマンクの「運河船」(1905-06)も好きな作品です。ヴラマンクは以前、三越での「フランス近代絵画展」にて、とても暗鬱な「ブージヴァルの雪景色」を見てから気になっているのですが、この「運河船」はそれとは全く対照的な明るい作品でした。オレンジと青の太いタッチにて象られた一隻の船。水面はこれまた太いタッチにて強固に塗り固められている。一見、とても粗雑にも見える作品ですが、ヴラマンク独特とも言えるこのタッチは不思議と心を捉えます。いつかはまとめて見てみたい画家の一人。思いがけない場所にて出会うことが出来ました。



このペースで書いていくと本当にまとまらなくなりそうなので、この先は駆け足で進みます。この他で特に印象に残ったのは、青木繁の「わだつみいろこの宮」(透明感が素晴らしい!)、ルオーの「郊外のキリスト」(ジワジワと伝わる深い哀愁感。)、セザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」(この美術館でこれを見なければ何も始まらない!?)、ザオ・ウーキーの二点の抽象画(これはもう文句なしです。)などです。もちろん、数多く展示されているピカソやマティスらの作品も良いのですが、今回はこれらの作品が深く心に残りました。



タイトルにも「雪舟から」とあるように、この展覧会では日本美術の名品もかなり展示されています。残念ながら私にはまだ雪舟の素晴らしさを感じられる所まで目が発達していないのですが、円山応挙の「牡丹孔雀図」(1781)や中国・元の時代の「飛青磁花瓶」(14世紀)などは魅力的でした。さすがにこの美術感のスペースから鑑みると詰め込み過ぎた印象は否めませんが、どれも時間をかけて味わいたい作品ばかりです。

明後日の日曜日、4日までの開催です。今更の記事ではありますが、これは是非おすすめしたいと思います。(ぐるっとパスを使いました。)
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「Floating 篠塚聖哉展」 フタバ画廊 5/27

フタバ画廊(中央区銀座1-5-6 服神ビルB1)
「Floating 篠塚聖哉展」
5/22-58(会期終了)

今年のMOTアニュアルでも楽しませてくれた篠塚聖哉の個展です。MOTでは少し展示空間が大き過ぎるようにも感じましたが、今回は程よいスペースにて作品が展示されています。具象と抽象の間に揺れた心象世界。思わず、時間を忘れてじっと見入るような作品ばかりです。



篠塚の作品は、どれも良い意味において感覚的です。いわゆる抽象的な絵画を手がけながら、見る者を難解な方向へと誘わずに、むしろそれぞれの自由なイメージに委ねている。大地、宇宙、火山、大海原など、ここは抽象画を思いっきり具象的に見せてきます。気がつくと絵の中に入り込んでいる。見る側のイメージを覚醒させる作品です。

一見どの作品にも映像的な動きが感じられますが、近づくとそのべったり塗られたオイルパステルの質感のせいか、意外にも対象が紙の上でへばりつくかのように静止している印象を受けました。そして、その画面は重々しい。作中にて広がる世界は、決して自分を優しく包み込んでくれるような場所ではありません。むしろ誰もいない静かな空間。深淵の宇宙や大海原に一人で投げ出されたような感覚。もう二度と戻れない、あまりにも色の深い澱み。そう言う意味では恐ろしいほどの奥行き感がある作品です。

地下の展示空間とも妙に相性の良い展覧会でもありました。是非、また次の段階へ進んだ作品も見てみたいです。
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