吉田太一著『遺品整理屋は見た!! 天国へのお引越しのお手伝い』2008年6月扶桑社発行、を読んだ。
さだまさしの「アントキノイノチ」に登場する遺品整理業「キーパーズ」の社長が書いた本。「遺品整理屋は見た!」2006年9月発行の続編。
孤独死した人の遺品の整理の中で出会った様々な人間模様を綴ったエッセイ集。
腐敗した遺体やゴミに埋もれた部屋など陰惨な場面も多いが、扇情的な描写は押さえ気味で、副題が「天国へのお引越しのお手伝い」とあるように人間ドラマが主役だ。
34本のエピソード、コラム6本と、それに元監察医の上野正彦氏*との対談が収められている。
*:上野正彦『監察医の涙』
やはり悲惨なシーンは出てくる。ひどい死臭で発見されることが多い。床に広がる体液を拭き取り、凝固した血液を擦り取り、消毒液を散布する。2日ほどオゾンを発生させて死臭を取る。天井まで50センチ積み上がったゴミに埋もれて突然死というケースもあった。
孤独死は、家族との縁が薄い人、友人や近隣の人との付き合いがない人が多い。しかし、一人住まいだったが、友達も多く親戚付き合いも良かった人が突然死し、発見まで死後1週間経ってしまった例がある。何人かの人が、連絡がとれなくなっても、元気な人だったので、「旅行にでも行っているのだろう」と見過ごされていたのだ。
最近は、遺品整理に関する事前見積依頼が、とくにおひとり様女性に多い。「誰にも迷惑をかけたくない」「自分のできることは、できるだけ自分の責任で」「死んだ後で恥ずかしい思いは絶対したくない」との思いからだろう。しかし、吉田さんは思う。「人間はいつか死を迎えそのときには誰もが必ず誰かのおせわになるのです。それは順番です。そんなに頑張んないでください」
ひとりが自死した場合、遺族や友人など最低5名の方がなんらかの精神的障害を引き起こすといわれ、一年で15万人以上の人が苦しんでいる。そんな人達のための団体「グリーフケアサポートプラザ」がある。
上野氏との対談
すごいのはアル中の最後。売れるものは布団までお金に換えて飲んでしまうので部屋はがらんどう。(上野)
人間が死ぬと、消化器系は酵素をださなくなるので自分自身を消化してしまう。だから腐敗が一番早い。釣った魚のはらわたをまず抜くのもその理屈だ。(上野)
これだけ日常的に死に接するようになると、人間にとって死ぬということは本当に当たり前のことなんだなあとおもえるようになりました。・・・長く生きることよりどう生きるかのほうが大事なことにおもえるようになってきました。(吉田)
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
興味半分で読んでも良いのだが、吉田さんの企業人という立場を超えたサービス精神、問題の本質に迫ろうという姿勢が気持ち良い。もちろん大上段に振りかぶった社会批判でなく、現場からの声なので、分かりやすく、共感しやすい。
吉田太一
1964年大阪市生れ。日本料理の板前を経て佐川急便に5年間勤務後、28歳で引越運送業を始める。2002年、遺品整理専門会社「キーパーズ」を設立。
2006年9月。「遺品整理屋は見た!」 「現実ブログ!!「現実にある出来事の紹介」
以下、メモ
部屋の隅から隅へ対角線に張ったロープに吊るされたしわくちゃな下着類。流しに溢れる汚れた食器、コタツに林立するビール瓶、醤油色のシーツ。そして、蛆虫の大群。死後1ヶ月経ち血管や内蔵が腐敗してガスを発生し、体はパンパンに膨れ上がる。親族が、警察から本人確認を求められても困難な場合がある。
54歳の一人息子が認知症の母の世話に限界となり、最後の親孝行と京都市内の思い出の地を観光し、息子は「もう生きられへんのやで。ここで終わりやで」と告げる。「そうか、あかんか。康晴、一緒やで。おまえと一緒や」「すまんな、すまんな」「康晴はわしの子や、わしがやったる」母のその言葉で心を決めた息子は母の首を締め、自分も首を切り倒れたが、近くにいた人に発見される。公判で被告は「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」「母の介護はつらくはなかった。老いてゆく母がかわいかった」と語った。
ここまで行くと、マザコンも感動的で、美しくもある。
ひとり暮らしの老人の家がすっかりリフォームされ、電化製品なども新品になっていた。訪問セールスマンが最初のうちは「おじいちゃん」「おとうさん」などといって親身になって話を聞く。商売の話はしない。人間関係ができたところで、「実はこうゆうものがあるんだけど」と製品、サービスを売りつける。契約すると、その情報が回って、別の業者がやってくる。
さだまさしの「アントキノイノチ」に登場する遺品整理業「キーパーズ」の社長が書いた本。「遺品整理屋は見た!」2006年9月発行の続編。
孤独死した人の遺品の整理の中で出会った様々な人間模様を綴ったエッセイ集。
腐敗した遺体やゴミに埋もれた部屋など陰惨な場面も多いが、扇情的な描写は押さえ気味で、副題が「天国へのお引越しのお手伝い」とあるように人間ドラマが主役だ。
34本のエピソード、コラム6本と、それに元監察医の上野正彦氏*との対談が収められている。
*:上野正彦『監察医の涙』
やはり悲惨なシーンは出てくる。ひどい死臭で発見されることが多い。床に広がる体液を拭き取り、凝固した血液を擦り取り、消毒液を散布する。2日ほどオゾンを発生させて死臭を取る。天井まで50センチ積み上がったゴミに埋もれて突然死というケースもあった。
孤独死は、家族との縁が薄い人、友人や近隣の人との付き合いがない人が多い。しかし、一人住まいだったが、友達も多く親戚付き合いも良かった人が突然死し、発見まで死後1週間経ってしまった例がある。何人かの人が、連絡がとれなくなっても、元気な人だったので、「旅行にでも行っているのだろう」と見過ごされていたのだ。
最近は、遺品整理に関する事前見積依頼が、とくにおひとり様女性に多い。「誰にも迷惑をかけたくない」「自分のできることは、できるだけ自分の責任で」「死んだ後で恥ずかしい思いは絶対したくない」との思いからだろう。しかし、吉田さんは思う。「人間はいつか死を迎えそのときには誰もが必ず誰かのおせわになるのです。それは順番です。そんなに頑張んないでください」
ひとりが自死した場合、遺族や友人など最低5名の方がなんらかの精神的障害を引き起こすといわれ、一年で15万人以上の人が苦しんでいる。そんな人達のための団体「グリーフケアサポートプラザ」がある。
上野氏との対談
すごいのはアル中の最後。売れるものは布団までお金に換えて飲んでしまうので部屋はがらんどう。(上野)
人間が死ぬと、消化器系は酵素をださなくなるので自分自身を消化してしまう。だから腐敗が一番早い。釣った魚のはらわたをまず抜くのもその理屈だ。(上野)
これだけ日常的に死に接するようになると、人間にとって死ぬということは本当に当たり前のことなんだなあとおもえるようになりました。・・・長く生きることよりどう生きるかのほうが大事なことにおもえるようになってきました。(吉田)
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
興味半分で読んでも良いのだが、吉田さんの企業人という立場を超えたサービス精神、問題の本質に迫ろうという姿勢が気持ち良い。もちろん大上段に振りかぶった社会批判でなく、現場からの声なので、分かりやすく、共感しやすい。
吉田太一
1964年大阪市生れ。日本料理の板前を経て佐川急便に5年間勤務後、28歳で引越運送業を始める。2002年、遺品整理専門会社「キーパーズ」を設立。
2006年9月。「遺品整理屋は見た!」 「現実ブログ!!「現実にある出来事の紹介」
以下、メモ
部屋の隅から隅へ対角線に張ったロープに吊るされたしわくちゃな下着類。流しに溢れる汚れた食器、コタツに林立するビール瓶、醤油色のシーツ。そして、蛆虫の大群。死後1ヶ月経ち血管や内蔵が腐敗してガスを発生し、体はパンパンに膨れ上がる。親族が、警察から本人確認を求められても困難な場合がある。
54歳の一人息子が認知症の母の世話に限界となり、最後の親孝行と京都市内の思い出の地を観光し、息子は「もう生きられへんのやで。ここで終わりやで」と告げる。「そうか、あかんか。康晴、一緒やで。おまえと一緒や」「すまんな、すまんな」「康晴はわしの子や、わしがやったる」母のその言葉で心を決めた息子は母の首を締め、自分も首を切り倒れたが、近くにいた人に発見される。公判で被告は「母の命を奪ったが、もう一度母の子に生まれたい」「母の介護はつらくはなかった。老いてゆく母がかわいかった」と語った。
ここまで行くと、マザコンも感動的で、美しくもある。
ひとり暮らしの老人の家がすっかりリフォームされ、電化製品なども新品になっていた。訪問セールスマンが最初のうちは「おじいちゃん」「おとうさん」などといって親身になって話を聞く。商売の話はしない。人間関係ができたところで、「実はこうゆうものがあるんだけど」と製品、サービスを売りつける。契約すると、その情報が回って、別の業者がやってくる。