東野圭吾著『分身』集英社文庫ひ15-1、1996年9月集英社発行、を読んだ。
札幌に住む女子大生・氏家鞠子は、数年前一家心中をはかって火事で死んだ母からあまり愛されていないと感じていた。鞠子は母の遺品を見つけ、母が、生前、東京で自分の出生に関わる何らかの秘密を調べていたことを知る。その後、父が突然海外留学を勧めにやってくる。不審に思った鞠子は出生の秘密を探りに東京へ行く。
その東京には、双子以上に鞠子に酷似した小林双葉がいた。母親と二人暮しの彼女は母の反対を押し切りテレビ出演したことから周辺で不審なことが起き始める。そして、双葉もまた自分の出生の秘密に疑問を持ち北海道に向かう。
WOWOWOで2月12日夜10時から長澤まさみ主演でこの「分身のドラマ」がスタートした(全5話)。
初出:「小説すばる」1992年9月~93年2月まで連載された『ドッペルゲンガー症候群』に加筆して1993年9月集英社より『分身』として刊行。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
二人の主人公の話が交互に小気味良く進む。しかし、全編を貫く二人の出生に秘密が、なんとなく推察できてしまうので、今ひとつ物足りない。20年ほど前に遺伝子工学に関する小説を書いた著者は勉強家だと思うが、iPS細胞などの話題が多い昨今では、物語の最初のほうからなんとなく秘密が覗けてしまう。
二人のヒロインの言葉遣い、行動などをもっと極端に変えてほしかった。ときどき混乱してしまう。二人以外の登場人物が全員腹に一物あるのもどうかと思うし、背景の巨悪の存在もお定まりの話で感心しない。
解説の細谷正充氏は、「本書は、ふたりのヒロインの真実を求める旅を描きながら、神の領域を侵犯してしまった現代科学、ひいては現代文明に対する警鐘を打ち鳴らしているのである。・・・」と書いているが、著者は現代科学批判をしたいのではないと思う。この小説のトーンからは、現在の医学会でも倫理上認められていない行為そのものではなく、それに伴う殺人を始めとする明らかな犯罪行為を問題としていると思う。
それにしても、望みの器官がつくりだせるというiPS細胞の技術が進展すれば・・・。
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