伊坂幸太郎著『バイバイ・ブラックバード』(2010年7月双葉社発行)を読んだ。
面倒を起こし、監視役の繭美に連れられて恐ろしい所へ拉致される主人公の星野君。その前に5人の恋人達に別れとお詫び行脚をする。別れる理由は、この繭美と結婚することになったと言うのだが。
繭美とは、身長180cm、体重180kg、凶悪、粗暴。口から毒をまき散らし、人を傷つけることが何より面白いという怪獣、性悪女。
星野君は、実は優柔不断で気のいい奴。だからこそ5股になってしまったのだが、繭美には「ヤマタノオロチというか、ゴマタノホシノだよ」とからかわれる。
この本は、『短編を書き終えるたび、五十名の方のポストに小説が届く』という50人だけのために書かれた「ゆうびん小説」に、書き下ろしの最終話が加えられて単行本化された。
しおり紐が色違いで2本ついている。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
伊坂ファンの私は「五つ星」なのだが、癖が強いので、四つ星に抑えた。
人の傷口に塩をすり込み喜ぶ巨漢女性、繭美が、話が進むにつれて、マツコ・デラックスかと思うばかりに魅力的に思えてくる。伊坂さんの魔力だ。
弱気の星野君と、強引な繭美の組合せと、バリエーション豊かな5人の女性たちの漫画チックな強力なキャラクタに加えて、相変わらずの強引な筋立てだが、生活感ゼロで軽いノリの文章に乗ってスイスイ読める。
いつものように「ハードボイルドだど!」と言った風の軽妙なセリフがポンポン飛び出してきて、たびたびクスリと笑わされる。
伊坂幸太郎&既読本リスト
Ⅰ(廣瀬 あかり)
苺狩りで出会い、星野がジャンボラーメンを食べきれるかどうかで別れを決めさせられる。
「あれも嘘だったわけね」「あれって、どれのこと」
Ⅱ(霜月 りさ子)
ジーン・ハックマンがフレンチコネクションで一般の車を止めて奪い、犯人を追う。そんな話を熱心にして知り合う。離婚後、海斗を女手ひとつで育ててきた彼女も言う。「あれも嘘だったんですね」
Ⅲ(如月 ユミ)
星野は、メールに挿入する「(汗)」を発明し特許で生活していると言って、なぜか深夜ロープを担いだユミをからかう。
Ⅳ(神田 那美子)
耳鼻科で点滴中に知り合った那美子は、計算(フェルミ推定)が得意。例えば、全国に耳鼻科医は何人いるか?(推定1万人)。那美子は乳ガンかもしれない。
Ⅴ(有須 睦子)
小学生のとき、幼稚園児が「お姉ちゃん、女優になったら? 綺麗だし」と言った。それが女優に関心をいだいたきっかけだった。そのとき、その子は自分がなりたいのは「パン!」だと言ったのだ。今、女優の睦子の周りには、興味を持つ人か、持たないふりをする人ばかり。睦子はどちらでもない星野に「別れたくないからね。別れても、別れないんだから」と宣言する。
繭美「星野ちゃん、未来のないおまえにも、子供の時は、将来の夢とかあったんだろ?」彼は恥ずかしそうに答える「パン」。聞いていた睦子の目には涙が。
Ⅵ(繭美)
緑のバスは星野を乗せて去る。繭美は・・・。
繭美「タイムマシンがあったら、おまえを小学校に送り返すのはやめた。おまえの生まれる前に行って、おまえの親たちに避妊を進める。」
「星野ちゃん、・・・何で? 何で? どうして? どうして? ってわたしはおまえのママじゃねぇんだから、聞くなよ」「じゃあ、教えて、パパ」