向田邦子原作『蛇蠍(だかつ)のごとく』(文春文庫1998年8月10日文藝春秋社)を読んだ。
向田邦子の放送台本を中野玲子が小説化した作品。
蛇蠍とはへびとさそりのことで、人の恐れ嫌うもののたとえ。
始まりはまさにドラマチック。
古田修司は53歳、中堅鉄鋼会社の第二資材部長、妻かね子、23歳の娘塩子、大学生の息子高と親の代からの古い松濤の家に住んでいる。
修司の部下の27歳の地味な宮本睦子から人生相談を持ちかけられたことから話は始まる。結婚を約束した男に裏切られ、会社を辞めて叔母の経営するバーを手伝おうという相談だ。堅物男の修司は突然「睦子と寝たい」という欲望に取りつかれる。
その場では踏み切れなかったがあきらめず、まじめな修司はラブホテルを下見して予約を申し込み、断わられる。
さらに、娘の塩子がダブルベッドを購入し、知らないマンションに搬送依頼をしたことがバレて大騒ぎとなる。塩子は付き合っていた真面目一方の佐久間をおいてイラストレーターの石沢と不倫していたのだ。
解説の小林桂樹が書いている。
普通の脚本だと、主役は誰と誰で、あとは脇役と決まってしまう。しかし、向田さんの作品にはストーリーのためにご都合主義で作られた登場人物というのは出てこない。どの役にもその人なりに歩んできた人生があり、そういう人間だからこそ、こんな行動をとり、こんなセリフを言うのだなと納得できる。どの人物を主人公に持ってきてもドラマが成立するのだ。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
脚本家だから当然といえばそうなのだが、セリフが上手い。人物が生きている。もともとがTVドラマの脚本だから、小説としては軽いが、楽しく読み進められる。
しかし、さすがにひと時代前で、人物像が今の時代からは古く思われる。向田さんの書くものは生活に密着しているため、今は時代を感じてしまうのだろう。