hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

三浦しをん『政と源』を読む

2015年10月01日 | 読書2

 

三浦しをん著『政と源』(2013年8月31日集英社発行)を読んだ。

 

場所は、荒川と隅田川に挟まれた三角州で水路が広がる東京都墨田区Y町。元銀行員の堅物の有田国政(政)は、やんちゃなつまみ簪職人の堀源二郎(源)と幼馴染。このあわせて146歳のコンビが主人公。

国政は、数年前に妻が家を出て行き、現在は1人暮らし。一方、昔堅気の職人気質で豪快な源二郎は、弟子の二十歳の吉岡徹平と賑やかに暮らす。

 

国政は大学を出て、銀行に入った。・・・親に勧められて見合い結婚し、娘が二人いる。源二郎は小学校もろくに卒業せず、子ども時分につまみ簪職人に弟子入りし、・・・気乗りしたときに気のむくままにしか仕事しない。大騒ぎして口説き落とした女と結婚し、妻が四十代で死んでしばらくのあいだはしょぼくれていたが、いまではY町のすべてのスナックで「源ちゃーん」と黄色い声で歓待を受け、鼻の下をのばしている。子どもはいない。

 

源二郎は、簪を作るときは恐ろしいほど集中力を見せるが、普段はまったくデリカシーに欠ける。耳のうえにわずかに残った頭髪を、徹平の彼女の美容師・マミにより真っ赤に染めて、葬式に出席したりする。船外機つき小舟で仕事場兼自宅を出入りする。

 

元ヤンで今は一人前の簪職人になろうと雑事もいとわない弟子の徹平が昔の不良仲間にゆすられる話、国政がぎっくり腰になり源二郎に助けられ、孫娘の七五三にも声もかけられない国政のために源二郎が簪を作る話、徹平とマミの結婚話、昔、源二郎が惚れてようやく結ばれた女の話、国政と別居中の妻との話など掌編が6本。

 

つまみ簪(かんざし)の作り方もこの本でほぼわかるのだが、KYODO NEWSの「緻密に美を極める 東京職人「江戸つまみ簪」」(YouTube)が分かりやすい。見事な美しさで、この技術をなんとか後世に残してもらいたい。

 

初出:雑誌Cobalt、2007年~2012年を加筆・修正

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

楽しく、気楽に読めたが、おじいさん二人の話なので、私には新鮮味がない。

三浦さんはどんな話でも面白く読ませてしまうなと感心したが、読み終えて残るものは少なく、深みがない。

 

国政が大学出の堅実な銀行員だったときは、職人の源二郎に優越感を感じていたのだろうが、退職し、おまけに妻に去られると、気ままで周りに人が集まる源二郎がうらやましくなる。この二人の関係が三浦さんらしく巧みに描かれている。

 

 

三浦しをんの略歴と既読本リスト

 

源二郎が言う。

「死んだ人間が行くのは死後の世界なんかじゃなく、親しいひとの記憶のなかじゃないかってことだ。親父もおふくろもきょうだいも師匠もかみさんも、みんな俺のなかに入ってきた。たとえばおまえがさきに死んでも、俺が死ぬまで、おまえは俺の記憶のなかにいるだろう」

源二郎らしい考えかただ。国政は小さく微笑む。

「その説でいくと、ボケないように願わないとな」

「おきゃあがれ」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする