齋藤孝著『齋藤孝のざっくり! 万葉集 -歴史から味わい方まで「すごいよ!ポイント」でよくわかる』(2019年8月10日祥伝社発行)を読んだ。
第1章 仰天! 国家プロジェクト
7世紀後半から八世紀後半ごろまで、100年がかりの一大国家プロジェクト、4500首以上。
短歌、長歌、施頭歌、仏足石歌体歌などがある。
宮廷サロンから東国の農民、防人へ拡散。身分や男女の差別もない。
第一期(629~672年)舒明天皇時代~壬申の乱
額田王、舒明天皇、天智天皇、天武天皇
第二期(~710年)平城京遷都までの藤原京時代
柿本人麻呂、高市黒人、大津皇子、志貴皇子、持統天皇
第三期(~729年)天平元年あたりまで
山部赤人、山上憶良、大伴旅人、高橋虫麻呂、坂上郎女
第四期(~759年)天平元年以降の30年
大伴家持、笠郎女、中臣宅守、狭野茅上娘子
第2章 探訪! 万葉仮名ワールド やまとことばに漢字をあてるという「神業」
難しい理由
(1)常に同じ音に同じ漢字を当てるとは限らない
(2)一音に漢字一字とは限らず、二音以上を漢字一文字で表す場合もある
(3)漢字の読みが幾通りかあり、推測するしかない
岩激 垂見之上乃 左和良(女比)乃 毛要出春(「ひとがしら」の下に小) 成来鴨
岩ばしる 垂水の上の さ蕨の 萌え出る春に なりにけるかも 志貴皇子
第3章 古代の歴史が透けて見える 後継者をめぐる血なまぐさい事件がてんこもり
この時代の天皇を巡る血なまぐさい争いには凄惨なものがあることを改めて思い出した。とくに残忍なのは中大兄皇子(後の天智天皇)だ。大化の改新で蘇我入鹿の首を刎ね、有間皇子を処刑し、石川麻呂、古人大兄を多分陰謀で殺した。そして、死後に古代史上最大の内乱「壬申の乱」が起こる。このあたりの生々しさが万葉集からも直接、間接に読み取れる。
それにしても、天智、天武の時代の人物関係図(p108)はややこしい。血縁の近い者同士の結婚が当たり前の時代だった。なにしろ異父兄妹は結婚できたのだからゴチャゴチャだ。
第4章 恋の歌に知性キラリ 万葉人が歌で楽しんだ「恋愛ゲーム」
第5章 万葉人に共感 庶民の暮らし・思いはいまも同じ
作者未詳歌は万葉集の約半数弱、2100首余り。
西の市に ただ独り出でて 眼並べず 買ひにし絹の 商じこりかも
(西の市に一人で出かけて行き、ほかのものと比べもしないで絹を買ってしまったが、あれは失敗だったなあ)
付録 使える“万葉言葉” 日常会話にさり気なく歌の表現・言い回しを添えよう
万葉集 索引
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
私は、とくに万葉集に詳しいわけではないが、寝っ転がって万葉集解説本を読み、名歌を口ずさむのが好きだ。このブログで紹介した本も既に4冊になる。
岡野弘彦『万葉の歌人たち』、池田弥三郎『万葉集-美しき“やまとうた”の世界』、佐佐木幸綱『万葉集』、佐々木幸綱監修『覚えておきたい順 万葉集の名歌』
歌そのものを知り、味わうには、この本より例えば上記の本の方が良い。この本は万葉集の背景を、それを示す歌とともに解り易く解説しているところに特徴がある。
例えば、万葉仮名について私は初めて具体的に理解できた。また、複雑怪奇な系統図から血縁が極めて近い者同士の不倫がらみの恋愛が高らかに歌われているのも下世話な興味を引いた。