島本理生著『あられもない祈り』(河出文庫し20-1、2013年7月20日河出書房新社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
幼い頃からずっと自分を大事にできなかった<私>。理不尽な義父と気まぐれな母、愛情と暴力が紙一重の恋人に、いつしか私は、追いつめられていく。そんな日々のなか、私は、二十も年上の<あなた>と久々に再会する。そして婚約者がいるはずの<あなた>に、再び愛を告げられて――<あなた>と<私>… 名前すら必要としない二人の、密室のような恋。至上の恋愛小説。 解説=西加奈子
河出書房新社のサイトに著者がコメントを寄せている。
『あられもない祈り』に寄せて
『あられもない祈り』は、「私」と「あなた」の物語です。
名前すら必要としない二人の、密室のような恋愛を通して、幼い頃からずっと自分を大事にできなかった主人公が、生きるための欲望を得るまでを書きたいと思いました。
今回、初めて結婚している男性との恋愛を真っすぐに書きました。
社会的に肯定されないことを書くのは、やはり難しかったです。
それでも恋してしまう気持ちや、時として、ずるさと切実な愛情が同居してしまうのも人間だということを、擁護するのではなく、できるだけ赤裸々に、書くことができたらと思いました。
書いている最中、体の内側から言葉が引きずりだされるような、どろっとした熱い感覚がまとわりついていました。
読んで下さった方に、その熱が伝われば幸いです。
島本 理生
私:気弱なわりに意地を張る。何かあると手首を切る。父は劇団の役者で脚本家で女癖が悪い。母はお嬢様育ちで私に金の無心を繰り返す。
あなた:婚約者がいるのに、私と交際し、結婚したのにかかわり続ける。大きくはない会社を共同経営。やさしさの中に翳りがある。幼い時に交通事故で痛めた左足を引きづって歩く。
直樹:私と同棲。大学院の研究室の助手。酔った勢いでつまらないものを盗んでくる。ときおり私に手をあげ、束縛する。
渡部:私と同じ会社に勤める。友人の「あなた」を私に紹介した。愛妻家で幼児もいる。
本書は2010年5月単行本刊行。初出は『文藝』2010年春号
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:読むの?)(最大は五つ星)
私にとっては、めんどくさい人たちだなという感想。微妙な感情の揺れを上手に書き表しているのだが、回りくどい文章だ。
例として、「あなた」の奥さんから私に電話がかかってくる場面の会話。
「あの子(「あなた」の事)の話を聞いて、あなたのことを自覚がないふりかと思っていたけど、本当に自覚のない未成熟な人なんですね、きっと」
「それは、私も思います」
彼女は呆れたように、息を吐くと
「一つだけ言うと、こちらの関係は合理的に保たれていますから」
私は思わず頭を抱え込んだ。ああ、その単語は無敵だ。手も足もでない。
それでもとっさに
「‥‥‥そう思います。こちらの関係は、無意味に保たれているので」
と告げると、それなら時間の無駄ですね、と突き放されたように言われた直後、電話は切られた。
敵対する女性同士の会話でも、「合理的」とか、こんなややこしい会話あり?
島本理生の略歴と既読本リスト