伊坂幸太郎著『火星に住むつもりかい?』(光文社文庫 い58-1、2018年4月20日光文社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
「安全地区」に指定された仙台を取り締まる「平和警察」。
その管理下、住人の監視と密告によって「危険人物」と認められた者は、衆人環視の中で刑に処されてしまう。
不条理渦巻く世界で窮地に陥った人々を救うのは、全身黒ずくめの「正義の味方」、ただ一人。
ディストピアに迸(ほとばしる)るユーモアとアイロニー。
伊坂ワールドの醍醐味が余すところなく詰め込まれたジャンルの枠を超越する傑作!
あとがきで、伊坂さんは「落ち込んだとき聴くデヴィッド・ボウイの名曲「LIFE ON MARS?」の和訳は本のタイトルのような意味だと思いこんでいたが、後から「火星に生物が?」という意味だと知った。」と書いている。
監視カメラと密告制度によって、なんらの危険性もない人達が平和警察の残虐な尋問を受け、証拠をでっち上げられて、ギロチンで処刑される。世の人は、「へえ、あの人も危険人物だったのか!」「まあ、犯罪率が下がってきたので良かったのだろう」と受け止める。
こんな社会において、仙台を舞台とする警察内組織間と外部の諸グループ、
(1)犯罪撲滅を目的とする警視庁の平和警察(薬師寺と、実は嗜虐趣味の加護・肥後)
(2)平和警察とつかず離れず独自捜査する警視庁特別捜査官の真壁鴻一郎と、協力する地元警察の二瓶刑事
(3)人権派の金子教授を囲む金子ゼミ(臼井彬、水野善一、田原彦一、蒲生義正)
(4)夜な夜な女性を襲う若者グループ(ラガーマン小暮)
(5)いじめる多田といじめられる佐藤誠人の高校生
(6)理容室の主人・久慈羊介と鷗外君などの客たち
そして、謎の黒ずくめの「正義の味方」が、どちらが敵か味方か、正義か悪か、入り乱れて争う。
果たして「正義の味方」は誰なのか?
真壁は、「正義の味方」が助ける人物の基準に注目した。平和警察には多くの人が捕まっているのに彼が助けたのは3人だけだった。彼らの共通点は何か?
2015年2月光文社刊
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
登場する人も、考え方も、行動も、すべてが単純すぎて、余裕からくるひねり・ユーモアがなく、面白味がない。
薬師寺警視長が創設した「平和警察」は、犯罪を少なくするためと称して、冤罪かどうかにお構いなく、見せしめのために証拠をでっち上げてでも逮捕者を処刑してしまう。魔女狩りの結果、犯罪率は下がり、市民の評価も結果良しとなる。このあたりの記述は、警察一強社会への批判としたらあまりにも平凡過ぎる。
一方、これに立ち向かう「正義の味方」も相手をよどみなく殺し、果たしてもはや正義かと思わせる。
拷問、公開処刑、殺人、暴力の描写が陰惨で、いつものユーモアあふれた伊坂作品とは違い、楽しくない。
登場人物が単純な人ばかりで、変な魅力のある人は、真壁鴻一郎ただ一人だ。この点も物足りない。
以下、私のメモ
警視庁の薬師寺警視長は平和警察の創始者で、サディイストの加護エイジ、肥後ら部下を使って何が何でも有罪にしてしまう。
一方で、逮捕を妨げ、取調中の被疑者を助け出す全身黒ずくめの「正義の味方」が、平和警察に対抗するが、その正体がなかなかわからない。
人権派の金子教授を囲む金子ゼミに、関東から参加の臼井彬と、仙台在住の水野善一、田原彦一、体格の良い蒲生義正などが集まります。金子は、魔女狩りと言われる平和警察の卑劣なやり口を語る。水野、田原、蒲生の3人は平和警察の取り調べ施設に潜入し、盗聴器とカメラを設置しようとする。
高校生1年の佐藤誠人が乱暴者の多田国男にいじめられていたが、突然現れた黒ずくめの男に助けられる。
町内会役員の飲み会で岡嶋と蒲生が話している。蒲生が「ウソ発見器の悲劇」を語る。的中率99%でも10万人を調査すると、1千人の無実の人がでる。だから一般の人に怪しげな人、候補者を絞ってもらって、密告された人を「平和警察」が尋問していて、犯罪者はギロチンで公開処刑した方が効率的だ。
早川医院の院長が処刑され、暴言を吐いたつもりもない岡嶋も連れていかれて残忍な尋問を受ける。カメラが設置された理容室で理容師、社長、学生の鷗外君の床屋談義が行われる。