新川帆立著『倒産続きの彼女』(2021年10月20日宝島社発行)を読んだ。
山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。地方出身で、懸命な努力をして弁護士になった玉子は、容姿端麗、首都圏出身で恵まれた家庭環境で育った一年先輩の剣持麗子に苦手意識を持ちながらも、ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。
クライアントである倒産の危機に瀕する老舗のアパレル会社・ゴーラム商会を救うため、二人は「会社を倒産に導く女」と噂される経理部の近藤まりあの身辺調査を行うことになった。ブランド品に身を包み、身の丈に合わない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは? ところが調査を進めるなか、ゴーラム商会の「首切り部屋」と呼ばれる小部屋で死体が発見され……。
前作では、美人、冷静で、やり手で、サイボーグのような弁護士・剣持麗子がヒロインだった。しかし、続編の本作品では、剣持も登場するのだが、ヒロインは、同じ事務所の弁護士、28歳の美馬玉子(みま・たまこ)と変わる。美人でもなく、周りに気を使い、ぶりっこして合コンに精を出すごく普通の女性なのだ。1年先輩のなんにでも完璧な剣持を見て、自分が惨めになって、うとましく感じている。
弁護士事務所は、ベテランの津々井先生がコーポレートチームを率い、その下には剣持、玉子と、玉子と大学院から一緒の古川君がいる。ライバルの川村先生が哀田(あいだ)をこき使い倒産チームを率いている。
津々井先生が顧問弁護士をしている有名アパレル企業のゴーラム商会が、外国企業から独占販売契約を打ち切られて倒産しようとしている。この会社に、「経理部の近藤まりあは過去に勤務した3社すべてが倒産している。彼女が不正して会社を潰し回っているのではないか。」という内部通報があり、これを剣持、玉子、古川で調査することになった。
玉子が世話をしているただ一人の身内である82歳の祖母・シマばあちゃんは、イケメンの「ムネちゃん」(赤坂)と結婚することにしたという。玉子自身は合コンで会った不細工な放射線科の医師・築地と偶然再会し、デートすることになる。
剣持、玉子と担当の哀田がゴーラム商会を訪れたとき、30代の女性総務課長・只野愛子が応対してくれた。その彼女が、リストラを宣告に使われる「首切り部屋」で、ナイフで首を斬られて殺された。さらに、事務所で川村先生が背中を刺されて倒れていた。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お勧め、 最大は五つ星)
普通に面白く読めるのだが、前作での飛びぬけた面白さと、著者の経歴の派手さに対する期待には応えていない。
転職した会社を次々と潰してしまう女性という設定は面白いが、それが何故かという謎解きを含めて全体の筋立ては平凡だ。
ごく普通な玉子を主人公にしないで、前作のように、サイボーグのような完璧な剣持が主人公の方が面白かったと思う。その剣持も、玉子にやさしさをあからさまに示すようになってしまい、牙が丸くなって面白さが半減してしまった。
漫画チックな剣持が主人公なら目立たなかった極端さも、常識人の玉子が主人公だと、面白くは読めるが荒っぽいところも目立ってしまう。
早くも壁にぶち当たった新川さんでなければよいのだが。次作に期待しよう。
新川帆立(しんかわ・ほたて)
1991年2月生まれ。アメリカ合衆国テキサス州ダラス出身、宮崎県宮崎市育ち。東京大学法学部卒業。弁護士として勤務。高校では囲碁の全国大会へ出場。司法修習中に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストに合格し、プロ雀士としても活動経験あり。作家を志したきっかけは16歳の頃、夏目漱石の『吾輩は猫である』に感銘を受けたこと。
第19回「このミステリーがすごい」大賞を受賞し、2021年『元彼の遺言状』でデビュー。
東大在学時代に共に切磋琢磨した弁護士と結婚。『元彼の遺言状』を3週間で書き上げたが、この間、執筆中は何もできなくなる彼女に代わり、旦那さんが家事全般をこなしてくれたという。現在はアメリカ在住。
前作の宝島社の特設サイト の色紙にこう書いている。
「欲しいものは、自分で手に入れる。
男が何度変わっても、女ともだちは変わらない。
そんな私たちの、当たり前の日常を伝えたくて書きました。
令和の女は強いぞ!」