古矢永塔子著『ずっとそこにいるつもり?』(2024年10月30日集英社発行)を読んだ
念願だった映画の宣伝会社に転職した弥生。そんななか、夫から切り出された「ある提案」を受け入れられず、忙しさにかまけ、決断を先延ばしにしていた。だが、その日は確実に迫っていて……(「あなたのママじゃない」)。優良メーカーに内定が決まった大学生の健生。サークルで知り合った友達以上恋人未満の彼女から同棲を仄めかされるが、うやむやにしていた。そんなある日、アパートに帰宅すると、かつて池袋で共に暮らした美空が現れ……(「BE MY BABY」)。初対面なのに物怖じせず、屈託のない転校生の美月を前に、副担任の杏子の心はざわめいた。懸念されることの一つは、クラスの中心的人物で問題児でもある莉愛が虐めの標的にすることだったが……(「まだあの場所にいる」)。ほか全5話。閉塞的な現実を背負う人たちの、さまざまな葛藤の中で現れた「気づき」とは……。
予想外な展開で結末を迎えるたくらみに満ちた5編の短編集。息苦しい現実の葛藤の中で一歩踏み出す勇気を与えてくれる。
集英社文芸ステーション(「青春と読書」2023年11月号転載)に著者が書いている。
実は、どんでん返しの取っ掛かりとなるアイディアを思いつくこと自体は難しくない。「丸くて赤い林檎だと思っていたものが、本当は風船でした」くらいの、シンプルなものでいい。しかし受け皿になる物語を考えることが、一筋縄ではいかない。
「あなたのママじゃない」
憧れの映画宣伝会社社員になった勝間弥生は殺人的な忙しさで家事はほとんどできない。結婚5年になる夫・友樹は、カメラマンの仕事がほとんどなく、家電量販店でアルバイトするだけなので、やさしく、弥生に気を使いながら家事を引き受けてくれる。そんな友樹についイライラしてしまう弥生。
「BE MY BABY」
第一志望の企業に内定をもらったばかりの真島健生は、居酒屋でバイトし、子ども食堂にこだわっていた。なにごともきちんとしている恋人の帆乃花は、かねて希望の出版社の内定をもらい、卒論もほぼ出来上がっていて、一緒に住む家を探したいと言うが、健生の返事ははっきりしない。さらに派手なワンピースを着て共に暮らしていた美空が健生のアパートに転がり込んでくる。
「デイドリームビリーバー」
高校の同級生同士、東の原作、峯田が作画のコンビで漫画がヒットしたが、突然、東が行方知れずとなり、以後峯田はぬかるみでもがいていた。その頃、佐藤サエコは……。
「ビターマーブルチョコレート」
実家の母が手首を骨折し、夫の敏行がやけに勧めるので、近森朱里は来月3歳となる娘の華をつれて里帰りする。古い団地の隣には幼馴染の勝ち組だった真琴が居た。
「まだあの場所にいる」
相田杏子は女子校で教員生活15年目。副担任をしているクラスに、転入してきた屈託ない倉橋美月が、クラスのボスの早乙女莉愛とあっというまに仲良くなったようにみえるのだが、……。
初出:「小説すばる」2020年10月号~2022年8月号
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
予想する展開、結末と、想定外の方向になるのが面白い。しかし、例えば女性が結婚して苗字が変わることを利用したりと、その展開に無理やり感がぬぐえない。
個人的には女性同士の陰にこもったやりとりが、イジイジとして、めんどくさい。
古矢永塔子(こやなが・とうこ)
1982年青森県生まれ。弘前大学人文学部卒業。高知市在住。
小説投稿サイト「エブリスタ」にて執筆活動を行い、「恋に生死は問いません。」を改稿・改題した『あの日から君と、クラゲの骨を探している。』でデビュー。
2019年「七度洗えば、こいの味」で第1回日本おいしい小説大賞を受賞し、『七度笑えば、恋の味』と改題し刊行。
他の著書に『今夜、ぬか漬けスナックで』がある。