東野圭吾『ブラック・ショーマンと覚醒する女たち』(2024年1月30日光文社発行)を読んだ。
亡き夫から莫大な遺産を相続した女性の前に絶縁したはずの兄が現れ、「あんたは偽者だ」といいだす。女性は一笑に付すが、一部始終を聞いていた元マジシャンのマスターは驚くべき謎解きを披露する。果たして嘘をついているのはどちらなのか――。謎に包まれたバー『トラップハンド』のマスターと、彼の華麗なる魔術によって変貌を遂げていく女性たちの物語。
連作短編集。『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の続編にあたる。
神尾真世:文光不動産リフォーム部勤務。30歳独身。
神尾武史:探偵役。真世の叔父。バー『トラップハンド』(罠師)経営。米国でマジシャンとして活躍。
陣内美菜:婚活中のとびきりの美人。相手を『トラップハンド』に連れて来て武史に査定してもらう。
「トラップハンド」
陣内美菜は、婚活サイトで知り合った、ハワイに別荘を持つと言う清川と食事後にバー「トラップハンド」を訪れた。美菜のいろいろな質問に対する彼の回答は、十分に満足できるものだった。しかし、バーのマスター・武史による鋭い観察眼によって、美菜は危機を逃れることができた。
「リノベの女」
上松和美は、夫の莫大な遺産を相続し、高級マンションのリノベーションを文光不動産の神尾真世に依頼しようとしていた。 真世は和美と、叔父の武史経営の「トラップハンド」で打ち合わせるが、武史は和美の夫と知り合いだったと話し出す。
和美は、何十年も会っていない兄・竹内との再会の場所に、このバーを利用させてもらえないかと、武史に相談する。事情を察した武史は承諾し、後日、竹内がやってきた。やがて竹内は「お前は妹の和美ではない」と言い出した。
「マボロシの女」
火野柚希は、ジャズバンドのメンバーで、妻の涼子とは別居状態に なっていた高藤智也と不倫関係にあった。バンドのライブの終了後、「トラップハンド」で智也と会う約束をしていたが、途中で事故に遭い、死んでしまった。智也の一人息子が半年後に高校を卒業したら離婚すると聞いていたのに。
柚希が親友の山本弥生と訪ねた横須賀のライブハウスでは、智也が娘と一緒に来たと聞いた。お嬢さん??
武史は柚希に諭す。「人が生きてゆくうえで助けになるのは、失ったものではなく、手に入れたものです。…あなたには、あなたのためなら血を流す覚悟を持つ友人がいる。…」
「相続人を宿す女」(アンソロジー『文庫書下ろし Jミステリー2023 spring』に収められている)
真世は、富永夫妻から、交通事故で急死した息子の遥人が住んでいたマンションのリフォーム工事の中止を突然告げられた。遥人の元妻・諸月沙智が妊娠していて、その子が富永夫妻以外の相続人になるためだと言う。沙智には現在恋人がいて、その子が遥人の実子かどうか不明なのに、沙智は強硬だった。
「続・リノベの女」
老人ホームのスタッフである石崎直孝は、入居者の末永久子に「娘の奈々恵を探して欲しい」と頼まれた。
だが、奈々恵は既に自殺死しており、認知症の久子は時々「娘は生きている」と言いだすのだ。
しかし、久子の知人・山村から、「娘の奈々恵さんが、あるお店に入るのを見た」という手紙が届いた。石崎は、山村に会って話を聞き、その店「トラップハンド」訪ねた。マスターの武史は、石崎が見せた奈々恵の写真の女性が知人であると分かったが、……
「査定する女」
真世は、リフォームの依頼を受けた栗塚正章と家具メーカー『バルバロックス』のショールームに訪れ、陣内美菜に出会った。彼女はこのショールームのインテリアコンサルタントだった。二人は互いに一目惚れしたようで、付き合うようになる。美菜が「トラップハンド」に入ると、ナイフを持った強盗が真世を捕まえて金を出せと脅す。これは、……。
初出
トラップハンド:光文社文庫読者プレゼント企画2021年、リノベの女・マボロシの女・相続人を宿す女:「Jミステリー」光文社文庫、続・リノベの女・査定する女:書下ろし
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
いつものようにはずれなく面白い、さすが東野圭吾。
短篇なので濃厚な味はしないが、各話、ひねりどころがあり、工夫されている。短篇なので多少の強引さは咎めだてしないように。
かっての名マジシャンの神尾武史の、ホームズもびっくりの観察力、巧みな企て、演技力が光る。