伊岡瞬著『清算』(2023年11月30日KADOKAWA発行)を読んだ
明日、会社がなくなる。最後に残った2億円、俺がもらってもいいはずだ
広告代理店「八千代アドバンス」は、経営悪化により、会社を解散し清算することが決まる。制作部の畑井伸一は、総務部長に任命され、経験のない会社解散の手続きを担当することに。そんな中、負債の返済用資金二億円が元社員と共に消えてしまう。虎の子の二億円の行方を捜す畑井の前に次々と巻き起こるトラブル。金を取り戻し、八千代アドバンスの秘密を“清算”することはできるのか?
伊岡さんが「カドブン」で、本作について語っている。
『倒産』は『やるだけやったけど、もうお手上げです』と白旗を上げてしまうケース。一方の『清算』は、債権者の合意を得た上で円満に会社を閉じる。まだ体力があるうちに会社の存続に見切りをつけ、できる限り債務を返済する、あるいは納得のうえで債務放棄してもらう制度で、根気を要する幕引きです。この作業にあたる責任者を『清算人』と呼びますが、わたしは(かつて勤めていた広告会社で)その補助業務をしました。
当時50歳だった伊岡さんが専業作家になったのも、この会社解散がきっかけだった。
なお、「清算」“liquidation”とは、「貸し借りの結末をつけること」や「会社・組合などの法人が解散した場合に、後始末のために財産関係を整理すること」で、「精算」”settlement”とは、「金額などを細かに計算すること」や「計算して過不足などを処理すること」。
畑井は、八千代新聞の系列会社、広告会社「八千代アドバンス」の三鷹にある多摩本部に勤務している。印刷物を作る制作部次長だが、アルバイト6名の他に、正社員市原、田川と一緒になって忙しい業務をこなしていた。
東京本部から珍しく、新聞社から横田社長、(柳専務)、吉永常務、そして生え抜きの那須営業部長が来て、突然呼び出され、今年度一杯での会社の解散を言い渡された。社員への公表は11月ごろになるという。
畑井はまったく馴染みのない総務部長になって、解散の作業を担当するよう命じられ、断れなかった。
畑井は東京本部へ出社し、債務の処理と、解散に向けた手続き、残された社員の再就職の斡旋の仕事を始めた。そして、社員への会社解散の報告の後、畑井は再就職を見送って、解散後の清算も担当するよう命じられた。
4月1日会社は解散し、横田清算人(元社長)、吉永元常務、畑井、元経理課長の串本の4人は本社に作られた「清算部屋」へ移り、東京本社グループ関連統轄室の吉備と連携して清算を進める。
しかし、次々に厄介事が舞い込む。
思い付きで次々に作業を命じる吉永常務、噂好きでかき回しにくる前任総務部長の北見、再就職できなかったから訴訟すると脅す草野、給料に未払い分があると訴える7年前に退社した寺田。
さらに、那須が刺され、残額2億円の通帳と印鑑が無くなる。
初出:「小説野生時代」2022年4月号~2023年6月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
私は、20年ほど前、高杉良の企業小説に凝って、80冊ほど読破した。あくまで操を曲げず、不正に加担せず我が道を行く企業人が主人公で、曲がってばかりの我が会社人生の夢として楽しんだ小説だった。各業界の慣習、呪縛、ライバルを邪魔するテクニックなど、単純でお決まりだが、ワクワクするほど面白かった。
本書も久しぶりの企業小説として、楽しめた。親会社である大手新聞社とその子会社の関係、両社を異動することによる会社間での地位の浮き沈みなど、身近にひしひしと感じる優劣、マウンティング。
一方で、幾つか起きる事件の謎は、特に深くもなく、なるほどと軽く楽しめる程度。