吉田修一著『新装版 静かな爆弾』(中公文庫43よ-4、2022年2月25日改版、中央公論新社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
テレビ局に勤める俊平は、公園で出会った聴覚にハンディキャップを持つ女性・響子と恋に落ちる。静かで穏やかな日々を重ねる二人だが、音によって隔てられた世界は恋しさと戸惑いを同時に生み、やがてすれ違いが積み重なっていく。この気持ちは、本当に伝わるのか。言葉にならない思いが胸を震わせる、忘れられない恋愛小説。 (解説)宇垣美里
本書は『静かな爆弾』(2011年3月版、中公文庫)に解説を加え、改版・新装したもの。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
テレビ局で休みなく働く早川俊平と、音が聞こえないハンディキャップを持つ響子の恋。
極上の恋愛小説とまでは言えないが、本当の相手のことを知らないのではないかという不安を抱えながらの恋愛模様が丁寧に描かれる。響子の心の内は語られることがないので、読者も俊平と同じように不安を持つ。
明治神宮外苑の景色の中で、おずおずとした二人の出会いが静かに美しく描かれる。
音のない世界に住む響子は、帰って来て部屋に入ってきた俊平に気づかず、自分の世界に居てそのままTVを見ていたり、すぐ後ろで若者が喧嘩しているのにそのまま芝生に座っていたり、もどかしいメモでの二人の会話からは静かすぎる彼女の不可思議を理解できない俊平の寄る辺なさが見事に表現される。
さらに、TV局の、ようやくつかみ取った多忙な仕事の中で、寝る時間もなくフラフラになりながら、彼女に何日も連絡できなかったために……。
フリーアナウンサーの宇垣美里さんの解説が、的確、簡潔な表現ながら、二人の気持ちのすれ違いを巧みに解説している。