森浩美著『家族のかたち』(双葉文庫も12-11、2023年9月16日双葉社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
家族とは、自然に「ある」ものではなく、「なる」ものではないか。人間の一人一人が持つ希望や悩み。そこには、家族の数だけドラマがあり、笑いもあれば涙もある―。一貫して「家族」のあり方を描いてきた著者の作品から、選び抜かれた7編を収録。ときに切なく、ときにあたたかく。多くの読者の涙を誘った「家族」シリーズのベスト版。
シリーズ累計55万部を突破した著者の「家族」シリーズから、著者が主宰する朗読劇で上演される作品をセレクト。家族がテーマの7編の泣かせる短編集。
底本:『家族の言い訳』、『家族の分け前』、『小さな理由』、『家族の見える場所』、すべて双葉文庫
森浩美の略歴と既読本リスト(明日UPします)
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
泣かせの伝統芸。子供を出汁にして、あざといと反発しながらウルウルするお爺さん。
とは言ったが、既読本(『家族の言い訳』、『家族の見える場所』)と同じ話が4篇もあると、さすがに三つ星。
ごちそうさまでした。
以下、ネタバラぎみのメモ。
「ホタルの熱」(『家族の言い訳』より)
夫が失踪し、お金もなく、追い詰められた和香子と6歳の息子・駿。体が弱い駿は、この日も旅の途中で発熱してしまう。困る親の姿を見続けた駿は「ママ、ごめんね」と繰り返す。覚悟を決めて電車に乗ったはずなのに、……どうせもっと“遠い場所”へ連れて行ってしまうつもりだったのに……。
親切な民宿の女将さんに助けられ、布団に寝かされた駿は和香子にしがみついた。
身体の弱い子供に、「ボクさ、……今度……生まれてくるときは元気な子に生まれてくるから……そうしたらまた……ママがボクを産んでくれる?」と言われたら、貴女はどうする?
「ママ、みーつけた」(「家族の分け前」より)
子供が巣立った夫婦だけの家に姪から、「公子おばちゃん、渉をお願いします。明日香」と手紙が来て、鍵と地図が同封されていた。地図の家に行くと、渉という男の子がいて、ママはいるけど、かくれんぼしているんだという。
公子は「ひとりぼっちでかくれんぼしていたのはこの娘だったのかもしれない。誰かに捜してほしいとずっと願っていたのではないのか」と思う。
「渡り廊下の向こう」(「小さな理由」より)
「ねぇパパ、コンサートに行ってもいーい?」と母親に反対された高校生の娘が甘えてくる。
田舎町で中学のときに好きになった川村とコンサートに行ったことを思い出した。
「いちばん新しい思い出」(「小さな理由」より)
15年以上会っていない娘から突然電話があった。再婚した元妻が娘と会わせようとしなかったのだ。娘は結婚式に……。
「後出しジャンケン」(『家族の見える場所』より)
母を事故で亡くした姉妹は父がカタールに滞在せざるを得ず、伯父夫婦に預けられ、苛められる。25歳の妹は結婚で別居する前の晩、小言は言っても肝心なことは言わない6歳上の姉に、けじめをつける。
「イブのクレヨン」(『家族の言い訳』より)
正洋は5歳の誕生日でクリスマスに母・冨美子にクレヨンを買ってもらい、母の似顔絵ばかり毎日描いていた。祖父母の家に行って、朝、目が覚めると母はいなくなっていて、大切なクレヨンも行方不明になった。母はそれ以来音信不通だった。今はイラストライターをしながら、妻・里香子の連れ子のエリカと仲良く暮らしている。今年のイブのプレゼントの包装紙の中からクレヨンの箱が現れた瞬間、手だけでなく身体からすべての動きが失われた。……。
「最後のお便り」(『家族の見える場所』より)
入社30年、TVからラジオへと流れて来たベテランアナウンサー寺田武は、地味な番組だが「こころの焚火」を4年7ヶ月担当してきた。最後の放送の開始前、入院中の母が危篤だと電話が入る。武は子どもの頃から飽き性で、母には「お前は物事を全うしたことがない」とよく叱られた。
痩せて節くれだった指に触れる。まだ温もりがある。きっと魂はまだ近くにいるのだ。窓の外に目を向けると、何かの鉄塔の先端に光が点滅していた。まるでオンエアーの赤いランプが点いているようだ。「母さん、いいかい…」私はベッドに上体を載せると、母の耳元に口を近づけた。「それでは、最後のお便りを紹介しましょう。・・・」