内田舞、浜田宏一著『うつを生きる 精神科医と患者の対話』(文春新書1463、2024年7月20日文藝春秋発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
アベノミクスのブレーンとして知られる経済学者の浜田宏一氏。その活躍の裏側で長らく躁うつ病に苦しんできた。さらに回復の途上、実の息子を自死で亡くす。人生とは何か。ともにアメリカで活躍する小児精神科医の内田舞氏を聞き手に波乱に満ちた半生を語る。
「文藝春秋BOOKS」の本書の紹介に、【5分で聴く♪文春新書】内田舞&浜田宏一著『う… がある。
浜田さんは、すらすらと勉強していたのが、東大に入って、極めて優れた人が現れて戸惑って、「自分はノイローゼだ」と言ったことを覚えている。うつ症状の発端は、このあたりかもしれない。
浜田さんは医者を変え、薬を変え、認知行動療法も受けたがうつは改善しなかった。入院中に、医師から問われ、落ち込む前に攻撃的になったことを思い出して伝えると、躁うつ病のうつ状態にも効くリチウムを処方された。
飲んだ翌日から「何かいい方向にむかっている」と確信できた。以後、30年間うち病の再発が心配になったことはまずなくなった。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
浜田宏一という有名な学者の話ではあるが、ひとりの躁うつ病患者の、病の発端、様々な治療課程、改善後といった詳細な経緯、良かったこと、悪かったことなどが詳細に語られるのは凡人の私にも参考になる。
浜田さんも、医者の内田さんも、超エリートではあるが、極めてアメリカ流に率直に話し、難しい話も要領よくやさしく話してくれる。
アベノミクスを提唱者の一人なので仕方ないのだが、浜田さんは、安倍さんの経済政策の欠点に触れてはいるが、肯定する部分が多く、読み飛ばした。
内田舞(うちだ・まい)
小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長、3児の母。
2007年北海道大学医学部卒、2011年イェール大学精神科研修修了、2013年ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医。
著書に『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診る 』(文春新書)、『REAPPRAISAL 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)、『まいにちメンタル危機の処方箋』(大和書房)。
浜田宏一(はまだ・こういち)
1936年生まれ。アベノミクスのブレーン。元内閣官房参与、イェール大学タンテックス名誉教授、東京大学名誉教授。
専攻は国際金融論、ゲーム理論。
主な著作に『金融政策と銀行行動』(共著、東洋経済新報社)、『国際金融の政治経済学』(創文社)、『エール大学の書斎から』(NTT出版)、『アメリカは日本経済の復活を知っている』『21世紀の経済政策』(ともに講談社)。
メモ
- うつは患者のエネルギーが回復する治りかけが最も自殺のリスクが高く、危ないから油断してはならない。
- 「希死念慮」:自殺妄想というと、非現実的なことを考えているようにとられてしまう。
ただ死にたいと言う考えだけでなく、その状態から救ってくれる人のあらわれることを実は願ってもいる複雑な状態だった。 - 自殺衝動があるときには、地に足がついている感じをもってみること(grounded)。まずは屋外に一歩出て日光を浴びたり、風を感じて見たり、シャワーを浴びたり、ランニングをしてふるい落とす。
- 評価には、自分自身が納得できるか、生き甲斐を感じられるか、と言う「内的評価」と、成績や賞や人からの注目といった外からの「外的評価」がある。
患者は「内的評価」を育てることが大切。自分が何をしたか、自分が誰であるか、また自分の価値というのは誰かとの比較や評価で変わるものではない。 - ネガティブな感情を自分がなぜ抱いているのかがはっきりすれば、その感情が負担にならなくなることもある。感情やその背景にむきあることで、気分を変えようとする、このプロセスが認知行動療法です。
- ベッドに入りすぐ寝られるが、夜中に目が覚めてしまいいろいろ考え始めてしまう。そんなときは、オーディオブックや音楽を聴いて一箇所にアテンションをかけると寝られる。どうしてもと言う時は薬を飲むのも良い。毎昼食後、1時間前後の昼寝を眠れても眠れなくてもするのも良い。
- うつ病、躁うつ病、不安障害、ADHD、自閉症スペクトラムなども遺伝する。ただし、親が躁うつ病である場合でも子どもに躁うつ傾向の症状があるのはわずか10%ぐらいだと言われている。
- インポスター impostor :本当の自分ではない他の誰か偽物を演じている、ペテン師といった意味。他人が思う自分と自分自身の能力が一致していないと不安を覚える症状を表す。
- アメリカ人は褒める部分を見つけてそこを的確に褒める
- うつになっても、IQの意味での知能は落ちないが、情報処理能力(実行機能、遂行機能)やそのスピードは影響を受ける。