北米トヨタが元社長秘書にセクハラを受けたと訴えられたと言うニュースが先週流れ、損害賠償請求が1億9000万ドルと言う巨額に驚かされた。その後どういう経過で訴訟にまで至ったのか注目してニュースを追った。
報道によれば、彼女はセクハラを受けた後人事部門に苦情を申し立て、2nd-class exec(日本風に言うと人事担当役員というところか)に申告した(エスカレートと言う)。会社は慰謝料(buyout:辞書では買収と訳)と職場移動を提案、原告は納得せず訴訟した。
巨額の賠償金は単なるセクハラではなく、それを組織的に揉み消そうとしたと見做し会社に対する懲罰的賠償を求めたものであると原告側の弁護士は語ったと言う。報道を見る限り、あの大トヨタが何故こんな間抜けな危機管理をしたのかと思わずにはいられなかった。
社長の振る舞いが事実かどうかは別として、そういう申し立てが起きた後の人事部門を含む会社の危機管理が機能しなかったということだ。セクハラは絶対許さないと厳格な対応が会社の方針だったと言うのは建前だけだったのだろうか。
私は直感的に社内にダブル・スタンダードがあったような気がする。多分スタッフは殆ど米国人のはずである。日本人社長と日本人秘書の醜聞は何か遠いものの感じ、秘書が日本人であるが故になんとか揉み消せるという気持ちがあったのかもしれないと。
偏見かも知れないが敢えて可能性として言うと、多分秘書が日本人で無ければこうはならなかったように思う。経験から日本人秘書を使う気安さは理解できるが、それだけが採用の理由ならその気安さが時に裏目に出る危うさがある例を見てきた。
私が米国に赴任した90年半ばは例の三菱自動車のセクハラ裁判が進行中で、送り出す側も十分問題を認識し赴任前にセクハラを含む危機管理教育を受けた。赴任後もコンサルタントを雇い系統的な教育を実施した。それでも、何度かセクハラの訴えを受け私も巻き込まれそうになったことがある。
ことに日本人スタッフが係わった時は対応が難しかったと記憶している。会議で日本人スタッフが相手の間違いを徹底的にやり込めるとか、何度言っても理解しない同僚に直ぐ近くにいてもメールでのみコミュニケーションして、米国人女性従業員はセクハラを受けたと感じる者もいた。
彼女達は、これら日本人スタッフは女性差別だ、メールシュービニスト(男性優位主義者)だと処分を求めて人事に訴えがあった。人事課長は通常なら直ちに事情を調べ権限で処置を決め上司に承認を求めるところを、日本人従業員の場合は私に確認を求めてきた。
彼女は日本企業と違いキャリアを積んだプロの人事マネージャだが、それでも日系会社の日本人従業員の場合のプロセスは違うと、至極自然にダブル・スタンダードを適用し私も疑問には思わなかった。一方で彼女の方に日本人に対する微妙な偏見も感じたが。
トヨタでもそういう雰囲気が無意識の間に醸成されていたのではないかと思う。白状すると私は日本にいるときからセクハラ男と言われていた。同僚の女性社員にズケズケ言いたいことを言い、言われ返される関係だったからだ。
彼女達は面白半分に米国では中々そうは行かないと私に警告し、私も二重標準を適用した結果、運よく一度もセクハラ事件を起こさず無事に日本に戻れた。今振り返ると幸運だった。■