ジムから戻って何気なくテレビをつけたら、加藤紘一元自民党幹事長とどこかの大学院教授の対談を流していた。対談の前後の関係は不明だがその教授によれば、日本の犯罪率は過去50年一貫して下がり続けている、海外の国は20代の犯罪率が突出して高いが、日本だけは全世代の犯罪率が低レベルにあるそうである。
何気無く聞いていたのだがその内容が私の理解と相反するのに気がついた。テレビは連日のようにいたいけな子供の殺害、残虐な少年犯罪、中高年の保険金詐欺殺人などを報じ、日本はかつての安全な国という神話が崩壊しつつあると言うのが私の印象だったからである。
特に最近の犯罪は凶悪化、年少化、理由なき犯行化、肉親犯罪化など凶悪化しているのが一般の人の常識的な理解ではないだろうか。私も教授のコメントに疑問を感じ早速Googleで調べてみた(一昔に比べ調査が本当に便利になった)。
そうすると少年犯罪増とか安全神話崩壊などと言うコメントの記事はあるものの、具体的なデータに行き当たると全て犯罪件数が減少しているのである。特に衝撃的だったのは現在の日本の犯罪率、特に少年や若者による殺人に代表される凶悪犯罪の比率が、1950年代の後半と比べて数分の一に激減しているという事実である。
国連UNDOCの調査(‘98-‘00)によると日本はまだ他国と比較すると、圧倒的に安全な国である。米国は日本の11倍、オランダは日本の4倍も危険、概して欧米では10人に1人の人が1年間のうちに何らかの犯罪に巻き込まれていると報告している。
番組に戻ると教授は、日本は50年かけて若者が大人しい国にした、それが先日フランスで見られたような若者の爆発的なCPE法反対運動が日本で起こらない原因の一つだろうと指摘していた。統計データには気をつけないといけないが、少年犯罪増加は何を根拠に議論しているのか疑わしい。それでは誰がこういう主張をしているのか考えてみたい。
山岸俊雄氏は「心でっかちな日本人」の中で次のように主張(抜粋)している。現場を知らない学者、一部の評論家は誰にでも受け入れられそうな「もっともらしい説教」を垂れている。現代社会の問題をすべて「心の荒廃」で説明できると考え、根拠が疑わしい少年犯罪増をネタにしている。
日本社会の現状に直面して日本文化の伝統を復活させるべきだという主張がある。日本文化が失われるまでは、日本の社会と経済はうまくいっていた。うまくいかなくなったのは、日本文化の伝統が失われてしまったからだと説く。彼らは自分の理解できる枠組みでしか物事を理解しようとしない、塩野さんの「人は聞きたいことのみ聞く」法則がここでも顔を出していると私は思う。
このような日本文化復活論者の主張に一方では共鳴しながら、もう一方では、なんとなく「ほんとうにそうだろうか?」と思っている人が多い。その理由は、今までのやり方ではうまくいかなくなっていることを、(私見:バブル後の失われた10年を経験して)なんとなく感じているからだ。
つまり、日本人の多くは急速に変化しつつある経済や社会の現実(今の日本や自分自身のあり方)に対処できなくなったことを漠然と理解し、「変わらなくてはいけない」「変えなくてはいけない」という思いを強くいだきながら、一体何をどう変えなくてはいけないのか迷い追い求めているからである。
テレビの一言で付け焼刃の調査をしただけではあるが、この山岸氏の論評がより実態に迫っている、底流を正しく理解しているように私には思える。それにしても若者の犯罪率が減っているのは良いことだが、裏腹の関係で若者のエネルギーが減少しているとしたらとても心配だ。■