中国の地球規模の影響力
2004年中国のコンクリート生産量は世界の54.7%、鉄鋼は36.1%だった。経済の急成長に加え2008年の北京オリンピックに向けてインフラ構築中とはいえ凄まじい量である。中国の与える影響は経済にせよ環境にせよ良くも悪くも地球レベルであり、それが故に私は中国をウォッチしてきた。ミャンマーの軍事独裁より中国の言論統制が気がかりなのはその為である。今回は公害と温暖化について議論してみたい。
悪者は米国と中国
先月NHK総合テレビが「同時3点ドキュメント」と題して地球温暖化の深刻な実態をややセンセーショナルに報じたのを記憶されているだろうか。海面上昇で消滅の危機にあるツバル、温暖化ガス排出権を買い漁るニューヨークのブローカー、豊かさを求める権利があると主張する公害の町重慶の3地点から2月最後の10日間の同時中継である。
京都プロトコルから離脱した米国の決定はブッシュ政権の汚点として長く記憶されるであろう。しかし、次の政権が京都プロトコル及びその後継条約でリーダーシップを果たす可能性は非常に高いと私は予想する。米国は良くも悪くもそういう大きな政策の振れを持ったある意味身勝手な理想主義国である。
市民の意識
しかし、中国はどうだろうか。テレビは日本の高度成長時代の公害の町の象徴だった四日市を思い出させる排煙でどんよりした重慶の町を映していた。目を輝かして初めて買う車を品定めしている新中産階級らしき重慶市民が、我々にも豊かになる権利があるとインタビューに答えるのを見ると、改めてこれは容易ではないと思わざるを得なかった。
共産党一党独裁政権といえどもこの人達の良い生活をしたいという上昇意欲を押さえつけることなど出来ない。中国の自動車市場は今年日本を抜き世界第2位、2010年頃には世界一の規模になると最近報告された。これ一つとっても地球温暖化の流れを食い止めるのは容易ではない。
中国の労働者が豊かになる権利があると言う主張には私は言葉を失う。‘そのまま貧乏でいろ’とは言えそうにも無い。しかし中国は地球の人口の2割が住む特別な国である。中国の成長が現状のペースで続くと地球環境の許容能力を超え生態系を破壊するとの警告がある。
水不足と大気汚染
レスター・ブラウンは2003年「プランB」の中で中国の水不足、砂漠化が世界に輸出されていると指摘した。(日本の食糧輸入も形を変えた水の輸入だとも。)それは春先の黄砂だけではなくアマゾンの熱帯雨林伐採と大豆生産に導かれる。13億人の食生活変更のインパクトはとてつもなく大きい。
工場排煙の影響も深刻だ。今年始め昨年中国では大気汚染で年間40万人が死亡していると言う衝撃的なニュースが流れた。(99年「未来の選択」でハモンドは25万人と書いているから事態は急速に悪化している。)北京はどんな晴れた日でもどんよりと曇っており、大気中の炭素を含むエアロゾル濃度は東京の5倍、酷いときは10倍以上が観測された。マスクをした北京市民の写真はいまやおなじみである。
環境汚染の輸出
近隣諸国への影響も無視できなくなった。日本でも気象庁の観測データによると過去10年間で大気中のオゾンが約2割増えた。その原因は中国や東アジアの産業活動が排出した窒素酸化物が原因と推測されている。このままでは今後大陸から流れてくるオゾンで日本海側の森林が枯れる恐れがあると指摘されている。
地球規模の影響としては世界の屋根と言われるチベット高原の気温が80年から0.9度上昇、氷河が毎年7%溶けているとCNNは今月2日報じた。この地区の氷河は中国氷河の47%を占め、このままでは何時か干ばつが引き起こされ農業を破壊、更に砂漠化が進むことになると警告した。
温暖化の影響は測り知れない
昨年米国南部を襲い悲惨な被害を引き起こしたハリーケーン・カトリーナは海面温度上昇により巨大化したことがコンピューターでも確認された。99年にニューヨークを襲った熱波により蚊が繁殖、西ナイル熱を伝播し200人以上が無くなった。実はこれは温暖化が進む世界各地で起こる可能性があることなのである。
日本でも蚊の北限が北上していると報告されている。東京でも蚊が増えており、西ナイル熱がブレークアウトする可能性があると専門家は指摘している。東京湾の底にも休眠状態のコレラ菌がおり、ちょっとした温度上昇で活性化し、超良好な衛生状態で耐力を失った東京でコレラが大流行する恐れがあると藤田紘一郎氏は「コレラが街にやってくる」で指摘している。
責任ある大国としての振る舞い
中国政府は公害問題を認識しているが発想は一国主義で経済成長とのトレードオフとして考え、その長期的な地球規模のインパクトを十分理解していないように思える。先日朝日新聞には珍しく「国際的責任感薄い中国」と指摘する坂尻信義氏のコラムがあった。彼は人権や核拡散防止について述べたが地球環境についても同じことが言える。
国際システムの中で責任を担うステークホールダーになれと言う米国のメッセージに対し、中国のメディアは「利害関係者」とか「責任」という言葉を削除し、胡主席は何のアクションもとらずその意思も表明せず失望をかっていると論評した。
結局は次期大統領次第?
地球温暖化は既に超えてはならない一線を越えたと言う専門家もいる。先進国の身勝手かもしれないが現状では中国政府(ついでにインド政府も)は大国としての責任を果たす以外に解決策はない。温暖化については、勿論米国政府も次期大統領を待たず動き出すべきだ。
実際のところ三国とも地球環境認識に欠け、欧州の環境政党は一時の力を失ったように見える。現実的には次期米国大統領がリーダーシップを取らない限り、つまりアメリカが本気にならない限り、大きな進展はないと悲観的にならざるを得ないが。■