かぶれの世界(新)

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中国に追い詰められるイタリーの中小企業

2006-05-28 14:16:17 | 国際・政治

引き続き中国の経済急成長が世界に与える影響を見て行きたい。今回は、中国国内のプラクティスの問題ではなく構造的に中国との競争に弱い欧州の福祉国家、その中でも病人と言われるイタリーの状況について論じたい。

1年前繊維製品を始めとする中国の商品が世界に溢れ、イノベーションの少ない労働集約産業を低賃金で支える国にインパクトを与えると論評した。繊維商品については欧米が輸入制限をして開発途上国の失業者が急増するという最悪の事態は当面回避され現在推移している。

しかし、中国が世界に影響を与える商品は繊維商品だけではない。昨年末にイタリーの代表的な椅子製造の中小企業が中国の脅威をもろに受けて崩壊の危機にあると雑誌タイムは特集を組んだ。紀元前の二つの大帝国が違った形で戦い、イタリーの伝統的産業が追い詰められている。

イタリーは二つの欧州の中でフランスやドイツなどと同じ高福祉国家群に属し、過去5年間で経済は5%縮小し財政赤字と高失業率に悩んでいる。世界貿易に占める比率は95年の4.6%から昨年2.7%まで低下したという。しかも体質的に中国の輸出攻勢に弱い構造的な事情があり、それゆえ欧州の病人となかば揶揄されている。

その事情とは、今月14日のニューヨーク・タイムスで報じられたように繊維商品から靴、家具だけでなく、水道などに使われるバルブまでイタリーの伝統的な商品は数千の小規模の家内工業に支えられていることである。

イタリーの伝統的なパパママ産業は特定の地域、例えば欧州スタイルの椅子ならイタリー北部のマンザノ地方、に集中し製造工程毎に細かく水平分業化された1100社が椅子を作っている。販売はドイツ大手販売会社に牛耳られている。彼らはグローバルで活動する規模・販売や投資ノウハウなど全てに欠けている。

一方中国は創立以来たった5年の企業でも旺盛な投資で生産能力を高め、市場戦略を立て品質を高め、イタリー商品ほど高級でなくても価格センシティブなユーザーに浸透していった。いまや米国や日本のホテルに利用されている椅子のかなりの部分は中国製に変わった。

その結果、マンザノの椅子製造の家内工業の200社が廃業、残った会社も2,3の例外を除き多くは受注が昨年から半減して倒産寸前にあるという。こうしたイタリーの家内工業をベースとした産業構造は中国にとって「最適の攻撃目標」になっていると報じている。

イタリー産業の構造的な弱さはかつてリラ切下げで安易に調整していた。ところが、EUROへの通貨統合後この便利な調整弁を失ってしまった。それが今、イタリーのEURO離脱が現実味を持って議論されている理由でもある。しかし、これは解決にならないのは明らかである。

昨年のタイムの特集では根本はイタリーが競争力のない低生産性国であると指摘している。中国の勢いは誰も止められない。9.11後世界市場の低価格志向への変化の速度が格段に速くなったという。新しい環境に合わせて変化しようとしているイタリー中小企業の動きは極めて限られているようだ。

ある椅子メーカーはクロアティアやルーマニア、上海に生産を移行し、自前のマーケティング力を育て、イタリーの他の有名ファッション・ブランドのように高級化しメイド・イン・イタリーをブランド化しようとしているが、その数は限られている。最終的にグローバル・プレーヤーとして生き残るのは数社となろう。

イタリーでも臨時労働者の雇用をもっと容易にしようという革新的な労働法(Biagi low)が検討されている。 スローフード発祥の地、イタリー回復の勝負の分かれ目はその商品が世界的な競争力をもてるかどうかによるであろう。

[蛇足」ところで日本のかつてのタオル産業のメッカ今治市で何が起きているかご存知だろうか。今治市の繊維産業はこぞって中国に進出しもしくは会社を売り事業主は資金を得、近郊に住宅用不動産投資や海外でマネーゲームを展開、一方今治市街は火が消えたように寂れていると言う。それがイタリーの未来かもしれない。■

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