昨日の日本経済新聞のオピニオン欄で岡部氏は「ユーロを救うのはユーロ圏自身」であり、それはドイツであるとしている。その根拠はドイツがユーロ導入で最大の受益者となったからだという。端的に言えば沢山儲けたんだからお返しに金を出せということだ。只ではない、儲けたら余計に所場代を出せと。その論理はもっともらしいしいが、本音が感じられず他人事のように私は感じる。もっと泥臭い本音で私なりの解釈を紹介したい。
ユーロ救済の現実論としては確かに金持ちドイツしかできない相談だが、となればドイツ国民がギリシャに巨額の支援をメルケル首相に許すかどうかにかかっている。ユーロが崩壊すればドイツも大きな損失を被ることになるのはドイツ人も良く分かっているが、現状ではどうにも納得できないという心境だと思う。ドイツ人は休みもとらず一生懸命働いて沢山利益を得た罰として、自国の銀行が被った巨額損失を自分が払った税金で賄うことを強いられることになるからだ。
メルケル首相はリーダーシップ云々されやっと腹を決めたが最終的な決定ではない。今後も危機は続くことを考えれば、ドイツ人が継続してユーロ救済のスポンサーとしての立場を認めるか、国政選挙や地方選挙のたびに問われる。大負けすればメルケル政権は窮地に陥り、ユーロ救済は不透明になる。そういう意味では、「ユーロを救うのはドイツというよりドイツ市民」と言ったほうがより適切のように感じる。疑心暗鬼になった市場はそこまで見ている。
実は先週までは「誰がユーロを救うのか」の問い掛けに対する答えはスロバキア議会であり、スロバキア国民であった。たった百万そこらの有権者の意向がユーロの首根っこを押さえていた。欧州安定基金拡大は全加盟17カ国の承認を必要とし、スロバキアが最後の国だったからだ。インタビューに答えて市民が「自分たちよりよい生活をしているギリシャに何故支援をしなければならないのか」と答えているのは、ユーロのあり方に対するまっとうで正当な問い掛けでもあった。
それが日本国内の問題ならそんな馬鹿なことは起こりえない、政府も国民もそれ程馬鹿でないと思うだろう。だが、果たしてそう言い切れるか。実は今世界のあちこちで問いかけられている形を変えた質問なのだ。我国でもそういう例はいくらでもある。最も分かり易いのが年金問題だ。世代としてみれば、我国最大の資産保有する老人世代は、最も貧しい(失業率が高く資産も少ない)若年世代からカネを出させ保険金を得ている。幸いなのは決意さえすれば日本はまだ方策(例えば増税)が残っていると市場は見ていることだ。そして南欧諸国は何もない。
結論を急ぐと、欧州が手際よく抜本的対策を採れずズルズルと問題先送りをしてきたのは、結局のところ「欧州を救うのはギリシャ人」であり、彼らが欧州人としての当事者意識を持って危機に取り組んでこなかったからだと私は考える。ギリシャ人の覚悟を実行で示す以外に、他の16カ国が納得して実行できる(血を流す)抜本的対決策はない。だが現状のままでは欧州は3ヶ月ごとに危機回避の対策を小出しに打って行くことになる。市場もそう感じてG20後も不安を払拭できなかった。
昨日の日経平均は先週末の楽観的見通しを受け一時8900円台をつけて終ったが、続いて始まったNY証券市場ではダウ平均が247ドル安と大幅反落し、その流れを受けた。先週のG20は欧州債務問題が集中討議され、欧州安定基金(EFSF)拡充を支持する一方で、欧州域内銀行の厳格なストレステストと資本増強を求めたが具体策に欠けた。G20宣言の効果はたった1日しか持たなかった。ドイツ高官の不用意な一言で市場の雰囲気は悪化した。やはり鍵はギリシャ市民だ。
マスメディアも政治家も自国民に危機の当事者意識を持てとは言えない。お金を支払ってくれるスポンサーであり、選挙で投票してくれる人の問題とは口が裂けてもいえない。どうもこれが世界的な民主主義国の問題先送り構造のような気がする。世界が失われた10年モードになりつつある。日本はその先進国だが解を見つけられなかった。欧米の英知はどうだろうか。それでも中国やロシアの方が良いとは思わないが。■