かぶれの世界(新)

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介護録11秋(2)

2011-10-26 17:08:55 | 日記・エッセイ・コラム

このところ3週間続けて母の機嫌がよかった。3週間前は久しぶりに買い物に連れて行かれ、自分で選んでお気に入りの服を買ったからだ。濃いグレーと黄色の細い横縞の地味な秋物のシャツだった。今度はグレー系の物を買うと相好を崩して母は言った。相変わらず地味で渋い好みだ。

傍にいた介護職員のオバサンは、「女はいくつになっても服を買うのが楽しみだからね」と言った。リハビリの為に入院した時、ピンクのパジャマを買っていくと「こんなもの着れるか」と母が凄く怒ったのを思い出した。来月も買い物に行くと聞き、是非ともとお願いした。

その後も続けて母は機嫌が良い。彼女が怒ることをしないコツが分かって来た。彼女が知っていると思われる昔のことを聞くことだ。今は丁度国土調査が進行中で、報告を兼ねて山林境界を何度か確認したが、彼女の記憶はしっかりしていた。昔と同じように明確な返事が返ってきた。私にとっても母の記憶が頼りで実のところ凄く助かった。

2週間前に施設を訪問した時、話が終って帰り際に突然ニコッと笑って「ウミホウズキ」が欲しいと母が言った。始め何のことか分からず聞き直したが、母は普段見せる苛立ちも無く言い直して「海ホウズキ」だと分かった。「分かった、探してみる」と答えて階下のオフィスに立ち寄った。

母の異食が報告されているので、海ホウズキを与えても良いかどうか介護責任者に確認したかった。ところが誰も海ホウズキが何か知らなかった。事務所でネット検索してみてもらったが、どうもピンと来なかったようだ。とりあえず手に入れたら、医者に判断して貰おうと言って終わった。

その日は遠回りをして海岸線の道を通り、途中海辺のお土産店に入った。私と同じ年恰好の店員を見つけたが、聞いたこともないという。知らないんだ。ミカンの産直販売店に母と同じ年恰好のお婆さんがいたので聞くと、「今はどこにも売ってない。もう採れない、漁師に頼むと1年に1回採れる」程度だと言う。諦めろということだ。

その後、海の近くで育った人を見つけては聞いてみたが、基本的に答えは同じだった。家内も知っていて知人を当たってみるが期待できそうもないとのこと。久しぶりにオジサン(母の弟)に電話して聞いたが結果は同じだった。別の知人によれば、彼の育った長浜町では昔沢山いた漁師は殆どが海に出なくなったのと、そもそも温暖化か何かの理由で採れなくなったという。

昨日母を見舞い、先ずは国土調査の状況を報告し母の記憶を確認した。その後、「どこに行っても海ホウズキが手に入らなかった、引き続き探してみるよ」と伝えた。「おしゃぶりして鳴らすのか」と聞くと、「ただ見たいと思っただけ」と穏やかな顔で返事が返ってきた。子供の頃を懐かしく思い出しているのだな、そんな気持ちになるのは良く分かる気がした。■

コメント (2)
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