「第1回大野教室杯ミニトーナメント」の1回戦は、Hon-Fuj戦はFuj氏が勝った。Ha-Ma戦はMa君勝ち、が大方の予想だったと思うが、Ha氏が堂々の勝利となった。Ha氏は近年メキメキと力をつけており、大野教室一の成長株である。
この結果、私はFuj氏と対局することになった。Fuj氏は私との対局では闘志を燃やすらしく、Hon氏戦は並々ならぬ決意で臨んだらしい。
Fuj氏との対戦成績は私の10勝13敗。この数字が分かるのは、彼が対局のたび、逐一私につぶやくからである。一時期は「ダブルスコア」で私が負け越していたから、かなり追いついた形だ。まあこちらは、あと7回は負けられるというわけである。
Fuj氏の先手で、▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩。Fuj氏は最近振り飛車を勉強しているというから、てっきりそれでくると思ったら、次に▲6八銀と上がられ、ズッコケた。これでは矢倉志向ではないか。
Fuj氏は大の矢倉党で、初期のころはこの手順で相矢倉に導かれ、何度も苦杯を喫したものだった。
しかしいまさらこちらが飛車を振るわけにもいかない。しぶしぶながら矢倉に追随した。
▲3五歩△同歩▲同角。私は△4五歩だが、▲6八角に△5三銀はしくじった。Fuj氏にすかさず▲4六歩と突かれ、こちらの盛大な作戦負けである。△5三銀では△4四銀を急ぐべきだった。
▲4六歩以下は、△同歩▲同銀に△4四歩。本当にもう、泣きたくなった。
以下数手進んで、私は△4五歩と銀取りに突く。もし▲同銀なら△3三桂と跳ねて▲2五飛との両取りである。
しかしFuj氏は決然と▲4五同銀。予定の△3三桂に、▲2三飛成(と銀を取る)△同金▲3四銀打と、Fuj氏の猛攻が始まった。
矢倉はなんだかんだ言っても、攻めている側が有利である。私はひたすら受けまくるが、どうも旗色が悪い。しかしFuj氏に攻め急ぎがあり、私がやや指せる形勢になっていた。
Fuj氏は時間もなく、指し手が単調になっている。こちらはそれが付け目だ。Fuj氏は飛車を入手したが、指し切り模様になってきた。
私は間隙をぬって反撃する。これが急所を衝いたようで、徐々に形勢が開いてきた。さらに私は、Fuj玉を受けなしに追い込む。さすがにこれは勝ったと思った局面が下である。
先手・Fuj氏:1七歩、1九香、2一飛、4四歩、5六歩、6六歩、7二金、7六歩、8六銀、8七歩、8九桂、9一竜、9六歩、9八玉、9九香 持駒:角2、桂、歩
後手・一公:1一香、1三歩、2三歩、3二歩、3四玉、4二銀、5三銀、5四歩、6三歩、6七金、7三歩、7八金、8八銀、9三歩 持駒:金、桂2、香、歩3
▲9六歩に△8八銀まで。典型的な必至で、これでふつうは投了である。ところがFuj氏は秒読みの末、▲1六角と王手してきた。
私は△3五玉だが、Fuj氏は持駒をすべて打ち尽くし、文字通り指す手がなくなり投了した。
私は開口一番、「Fujさん、往生際が悪すぎるよ」と不満を露わにする。植山悦行七段が背後でゲラゲラ笑った。
終盤敗勢のとき、一縷の望みを持って指し継ぐ手を、ジョナ研用語で「Fuj」という。しかしこれは「一縷の望み」がある場合であって、今回のように自玉は完全必至、相手玉も不詰めの場合での指し手は、ただ投了を拒否するだけの、見苦しい手にしかならない。
Fuj氏に真意を問うと、「△7八金を何とか抜くことはできないかと思った。▲4六歩のところでは作戦勝ちで、一公さんが投了するのかと思った。そのくらいいい将棋を逆転されて、投げるに投げ切れなかった」という意味のことを言った。
その気持ちは分からぬではないが、これでは私が先日述べた、「女流棋士の投了が遅い」理由となんら変わらないではないか。
私は各人の将棋に心の中で格づけをしている。それは棋力云々でなく、指し手の「質」みたいなものだ。今回の出来事で、Fuj氏の格がワンランク下がったことは否めない。そしてそれは、容易に戻らぬものである。Fuj氏はK区の現役名人である。名人なら、こんな意味のない手は指してもらいたくなかった。
なお▲1六角では、どうせ指すなら▲2三飛成△同玉▲2一竜だった。これでも全然詰まないが、多少はヒヤッとしただろう。
Ha-Honma戦はHa氏の角落ちで、これはHonma君が勝っていた。これで私とHonma君の決勝戦になった。手合いは私の飛車落ち、という声が上がったが、私はHonma君に平手で負けたことがあった気もする。よく考えればなかったが、そのくらい毎回、接戦だということだ。それで飛車落ちはこちらも拒絶したが、まわりは飛車落ちを譲らない。
そのとき、当のHonma君が「角落ちでいいです」と主張し、めでたく「角」での対局となった。
Honma君の四間飛車に私は金銀を盛り上げる。しかし私が△2四歩~△2五歩と伸ばしたのが疑問で、△2二飛と回ったものの▲3七銀と歩交換を拒否され、△8二飛と振り戻すようではさえなかった。
Honma君は▲8五歩△同歩▲同飛。△8四歩は▲2五飛で飛車成りが受からないから、私は目をつぶって△7三桂と跳ぶ。
上手(角落ち)・一公:1一香、1五歩、2一桂、2五歩、3三歩、4三銀、4四歩、5一玉、5三銀、5四歩、6三金、6四歩、7三桂、7四歩、8二飛、8三金、9一香、9四歩 持駒:歩
下手・Honma君:1七歩、1九香、2七歩、2九桂、3六歩、3七銀、3八金、3九玉、4六歩、4七金、5六銀、5七歩、6六角、7六歩、7七桂、8五飛、9六歩、9九香 持駒:歩2
Honma君はここで考慮に入った。それでも▲2五飛と回れるか?
(つづく)
この結果、私はFuj氏と対局することになった。Fuj氏は私との対局では闘志を燃やすらしく、Hon氏戦は並々ならぬ決意で臨んだらしい。
Fuj氏との対戦成績は私の10勝13敗。この数字が分かるのは、彼が対局のたび、逐一私につぶやくからである。一時期は「ダブルスコア」で私が負け越していたから、かなり追いついた形だ。まあこちらは、あと7回は負けられるというわけである。
Fuj氏の先手で、▲7六歩△3四歩▲6六歩△8四歩。Fuj氏は最近振り飛車を勉強しているというから、てっきりそれでくると思ったら、次に▲6八銀と上がられ、ズッコケた。これでは矢倉志向ではないか。
Fuj氏は大の矢倉党で、初期のころはこの手順で相矢倉に導かれ、何度も苦杯を喫したものだった。
しかしいまさらこちらが飛車を振るわけにもいかない。しぶしぶながら矢倉に追随した。
▲3五歩△同歩▲同角。私は△4五歩だが、▲6八角に△5三銀はしくじった。Fuj氏にすかさず▲4六歩と突かれ、こちらの盛大な作戦負けである。△5三銀では△4四銀を急ぐべきだった。
▲4六歩以下は、△同歩▲同銀に△4四歩。本当にもう、泣きたくなった。
以下数手進んで、私は△4五歩と銀取りに突く。もし▲同銀なら△3三桂と跳ねて▲2五飛との両取りである。
しかしFuj氏は決然と▲4五同銀。予定の△3三桂に、▲2三飛成(と銀を取る)△同金▲3四銀打と、Fuj氏の猛攻が始まった。
矢倉はなんだかんだ言っても、攻めている側が有利である。私はひたすら受けまくるが、どうも旗色が悪い。しかしFuj氏に攻め急ぎがあり、私がやや指せる形勢になっていた。
Fuj氏は時間もなく、指し手が単調になっている。こちらはそれが付け目だ。Fuj氏は飛車を入手したが、指し切り模様になってきた。
私は間隙をぬって反撃する。これが急所を衝いたようで、徐々に形勢が開いてきた。さらに私は、Fuj玉を受けなしに追い込む。さすがにこれは勝ったと思った局面が下である。
先手・Fuj氏:1七歩、1九香、2一飛、4四歩、5六歩、6六歩、7二金、7六歩、8六銀、8七歩、8九桂、9一竜、9六歩、9八玉、9九香 持駒:角2、桂、歩
後手・一公:1一香、1三歩、2三歩、3二歩、3四玉、4二銀、5三銀、5四歩、6三歩、6七金、7三歩、7八金、8八銀、9三歩 持駒:金、桂2、香、歩3
▲9六歩に△8八銀まで。典型的な必至で、これでふつうは投了である。ところがFuj氏は秒読みの末、▲1六角と王手してきた。
私は△3五玉だが、Fuj氏は持駒をすべて打ち尽くし、文字通り指す手がなくなり投了した。
私は開口一番、「Fujさん、往生際が悪すぎるよ」と不満を露わにする。植山悦行七段が背後でゲラゲラ笑った。
終盤敗勢のとき、一縷の望みを持って指し継ぐ手を、ジョナ研用語で「Fuj」という。しかしこれは「一縷の望み」がある場合であって、今回のように自玉は完全必至、相手玉も不詰めの場合での指し手は、ただ投了を拒否するだけの、見苦しい手にしかならない。
Fuj氏に真意を問うと、「△7八金を何とか抜くことはできないかと思った。▲4六歩のところでは作戦勝ちで、一公さんが投了するのかと思った。そのくらいいい将棋を逆転されて、投げるに投げ切れなかった」という意味のことを言った。
その気持ちは分からぬではないが、これでは私が先日述べた、「女流棋士の投了が遅い」理由となんら変わらないではないか。
私は各人の将棋に心の中で格づけをしている。それは棋力云々でなく、指し手の「質」みたいなものだ。今回の出来事で、Fuj氏の格がワンランク下がったことは否めない。そしてそれは、容易に戻らぬものである。Fuj氏はK区の現役名人である。名人なら、こんな意味のない手は指してもらいたくなかった。
なお▲1六角では、どうせ指すなら▲2三飛成△同玉▲2一竜だった。これでも全然詰まないが、多少はヒヤッとしただろう。
Ha-Honma戦はHa氏の角落ちで、これはHonma君が勝っていた。これで私とHonma君の決勝戦になった。手合いは私の飛車落ち、という声が上がったが、私はHonma君に平手で負けたことがあった気もする。よく考えればなかったが、そのくらい毎回、接戦だということだ。それで飛車落ちはこちらも拒絶したが、まわりは飛車落ちを譲らない。
そのとき、当のHonma君が「角落ちでいいです」と主張し、めでたく「角」での対局となった。
Honma君の四間飛車に私は金銀を盛り上げる。しかし私が△2四歩~△2五歩と伸ばしたのが疑問で、△2二飛と回ったものの▲3七銀と歩交換を拒否され、△8二飛と振り戻すようではさえなかった。
Honma君は▲8五歩△同歩▲同飛。△8四歩は▲2五飛で飛車成りが受からないから、私は目をつぶって△7三桂と跳ぶ。
上手(角落ち)・一公:1一香、1五歩、2一桂、2五歩、3三歩、4三銀、4四歩、5一玉、5三銀、5四歩、6三金、6四歩、7三桂、7四歩、8二飛、8三金、9一香、9四歩 持駒:歩
下手・Honma君:1七歩、1九香、2七歩、2九桂、3六歩、3七銀、3八金、3九玉、4六歩、4七金、5六銀、5七歩、6六角、7六歩、7七桂、8五飛、9六歩、9九香 持駒:歩2
Honma君はここで考慮に入った。それでも▲2五飛と回れるか?
(つづく)