20日(金)は東京・竹橋での「第31回将棋ペンクラブ大賞贈呈式」に行った。7月18日朝の時点ではこの式に参加できるか微妙なところだったが、おのが身勝手な離職でその心配がなくなった。自業自得とはいえ、本当に情けない。
竹橋駅直結のパレスサイドビル9階に行くと、エレベーターホールでWas氏、Su氏と会った。私はWas氏に謝る。5月の関東交流会で、Was氏と名刺交換をしたのに、その名刺を無駄にしてしまったからだ。
正面にある店舗は「レストランアラスカ」の気がしたが、私たちは右折し、そのままおしゃべり。しかし突きあたりまで行ってしまった。
「あれっ? さっきのがレストランアラスカだよね」
同所には何度もお邪魔しているのに、誰も間違いを指摘しないとは……。
慌てて戻り、受付を済ませ、式次第をいただいた。参加費8,000円は痛いが、世の中には避けられない出費というものがある。
式次第の下の部分には、トランプのスートとナンバーが記されている。これが式後半に行われるお楽しみ抽選会の数字となる。私は「ダイヤ1」。さっきのロスタイムでいただく番号が変わったわけで、これがどう運命を変えるか。
幹事のAkuさんに会った。「テープ起こし、面白かったですよ」と褒めておく。Akuさんは「将棋ペン倶楽部」の今号から、最終選考会のテープ起こしを担当した。私は注目して読んだが、その文章に齟齬はなく、うまくまとめられていた。
控室前では、渡部愛女流三段に挨拶された。ありがたいことである。
すでに開場時間は過ぎているが、あまり人はいない。が、奥を見れば何人か座っていて、それなりに参加者は来ているようだ。
ペンクラブ会員と思しき男性に挨拶される。
「23日の指導対局は行かれますか?」
「23日? なんでしょう」
聞くと、大野教室で和田あき女流初段の指導対局があるのだった。そういえば彼とは、飯野愛女流初段の指導対局の時に、おしゃべりした気もする。
23日は、私は欠席である。いま売り出し中の和田女流初段に指導対局を受けることは、貴重な機会といえる。23日は頑張ってください。
やがて受賞者方がぞくぞくと入室した。
18時30分の定刻になり、Osada氏の司会で、開会となった。早速表彰式である。木村晋介将棋ペンクラブ会長が登壇し、寸評とともに賞状を手渡す。
なお、賞状は長年、色紙にしたためられていたが、それは安っぽいということで、今年からちゃんとしたものになった。
まずは観戦記部門。大賞は白鳥士郎氏「第3期叡王戦第1局 金井恒太六段VS高見泰地六段(ニコニコニュース)」である。
「観戦記としては圧倒的なボリュームです。映像も満載で、これが果たして観戦記なのか? という疑問もありました。でもどこを切っても濃密で、緩みがない。やはりこれは大賞だろうと、いうことになりました。
文中に白瀧呉服店の社長が出て参りまして、この会社は将棋に理解を示していただいて、和服も貸し出してくださるんですが、ある棋士が、タイトル戦で勝った時は、ちゃんと畳んで送り返してくる。だけど負けた時は丸めて送ってくるというんですね。そういうエピソードの数々が面白かった」
優秀賞は田中幸道氏「第89期棋聖戦第5局 羽生善治棋聖VS豊島将之八段(産経新聞)」である。
「田中さんの観戦記は、いつも最終選考に上がってくる。たいへん文章が美しい。今回は羽生さんのタイトル100期が懸かった棋戦で、すごいと思ったのは、『不滅の大記録がかすむ中、羽生は筋書きのないドラマを紡ぐことができるか』という言い回しで、講談を聞いているような、素晴らしい文章だと思いました」
文芸部門大賞は、野澤亘伸氏『師弟』(光文社)・「師弟 少年時代に交わした二つの約束 畠山鎮七段×斎藤慎太郎王座」(将棋世界)である。単行本と雑誌連載の同時受賞で、もちろんどちらも同じテーマだ。
「将棋の世界では師弟は必須なんですが、私はそれを飲み込めないできたわけです。芸の世界においては伝承だが、将棋の世界ではそうではない。作者は『魂の伝承』という言葉を使われて、ああそうなのかと納得した次第です」
優秀賞は北野新太氏「最終局」(小説野性時代)である。
「最終局を読んで、新しい将棋文芸が生まれたな、という気持ちで読まさせていただきました。
モノローグという形で出て来たノンフィクション小説といいましょうか、将棋がスリリングな紹介になっています。将棋を知らない人が読んでも魅入られるんじゃないか、と思いました。
この類の読み物がこのスタイルでもっと出てきたらいいなと思いました」
同じく優秀賞は、佐川光晴氏『駒音高く』(実業之日本社)である。
「これは、いくつかの短編集がまとめられている小説です。その多くは、プロを目指す少年少女のエピソードになっています。
清掃員のおばさんの話もいい。あるところに、弁当箱の食べ残しがある。なぜかというと、研修会の子供がいて、負けて食欲がなくなって、おかずを残しちゃうんですね。
将棋棋士を目指す人たちに対しての、温かい目が光る作品集でした」
技術部門の大賞は、杉本昌隆八段『将棋・究極の勝ち方 入玉の極意』(マイナビ出版)である。
「このタイトルをいた時に、マニアックだなあと、売れるのかなあと思いました。
でも本書を読むと、入玉する、入玉を阻止する、将棋の本質的なものが浮き上がってくるんですね。それを知るために、とても有益な本でした」
優秀賞は西尾明七段『コンピュータは将棋をどう変えたか?』(マイナビ出版)だが、公務で欠席。代理で田名後健吾・将棋世界編集長に賞状が贈られた。
「コンピュータが将棋に与えた影響は計り知れないものがあります。関連本もいくつか出ていますが、戦法にこだわって、体系的に出した本はなかった。興味深かったのは、玉の囲いですね。ちょっと私は、その囲いは遠慮しますけれども」
このあとは、受賞者のよろこびの言葉となる。これが歴史に残る名スピーチの連発になった。
(つづく)
竹橋駅直結のパレスサイドビル9階に行くと、エレベーターホールでWas氏、Su氏と会った。私はWas氏に謝る。5月の関東交流会で、Was氏と名刺交換をしたのに、その名刺を無駄にしてしまったからだ。
正面にある店舗は「レストランアラスカ」の気がしたが、私たちは右折し、そのままおしゃべり。しかし突きあたりまで行ってしまった。
「あれっ? さっきのがレストランアラスカだよね」
同所には何度もお邪魔しているのに、誰も間違いを指摘しないとは……。
慌てて戻り、受付を済ませ、式次第をいただいた。参加費8,000円は痛いが、世の中には避けられない出費というものがある。
式次第の下の部分には、トランプのスートとナンバーが記されている。これが式後半に行われるお楽しみ抽選会の数字となる。私は「ダイヤ1」。さっきのロスタイムでいただく番号が変わったわけで、これがどう運命を変えるか。
幹事のAkuさんに会った。「テープ起こし、面白かったですよ」と褒めておく。Akuさんは「将棋ペン倶楽部」の今号から、最終選考会のテープ起こしを担当した。私は注目して読んだが、その文章に齟齬はなく、うまくまとめられていた。
控室前では、渡部愛女流三段に挨拶された。ありがたいことである。
すでに開場時間は過ぎているが、あまり人はいない。が、奥を見れば何人か座っていて、それなりに参加者は来ているようだ。
ペンクラブ会員と思しき男性に挨拶される。
「23日の指導対局は行かれますか?」
「23日? なんでしょう」
聞くと、大野教室で和田あき女流初段の指導対局があるのだった。そういえば彼とは、飯野愛女流初段の指導対局の時に、おしゃべりした気もする。
23日は、私は欠席である。いま売り出し中の和田女流初段に指導対局を受けることは、貴重な機会といえる。23日は頑張ってください。
やがて受賞者方がぞくぞくと入室した。
18時30分の定刻になり、Osada氏の司会で、開会となった。早速表彰式である。木村晋介将棋ペンクラブ会長が登壇し、寸評とともに賞状を手渡す。
なお、賞状は長年、色紙にしたためられていたが、それは安っぽいということで、今年からちゃんとしたものになった。
まずは観戦記部門。大賞は白鳥士郎氏「第3期叡王戦第1局 金井恒太六段VS高見泰地六段(ニコニコニュース)」である。
「観戦記としては圧倒的なボリュームです。映像も満載で、これが果たして観戦記なのか? という疑問もありました。でもどこを切っても濃密で、緩みがない。やはりこれは大賞だろうと、いうことになりました。
文中に白瀧呉服店の社長が出て参りまして、この会社は将棋に理解を示していただいて、和服も貸し出してくださるんですが、ある棋士が、タイトル戦で勝った時は、ちゃんと畳んで送り返してくる。だけど負けた時は丸めて送ってくるというんですね。そういうエピソードの数々が面白かった」
優秀賞は田中幸道氏「第89期棋聖戦第5局 羽生善治棋聖VS豊島将之八段(産経新聞)」である。
「田中さんの観戦記は、いつも最終選考に上がってくる。たいへん文章が美しい。今回は羽生さんのタイトル100期が懸かった棋戦で、すごいと思ったのは、『不滅の大記録がかすむ中、羽生は筋書きのないドラマを紡ぐことができるか』という言い回しで、講談を聞いているような、素晴らしい文章だと思いました」
文芸部門大賞は、野澤亘伸氏『師弟』(光文社)・「師弟 少年時代に交わした二つの約束 畠山鎮七段×斎藤慎太郎王座」(将棋世界)である。単行本と雑誌連載の同時受賞で、もちろんどちらも同じテーマだ。
「将棋の世界では師弟は必須なんですが、私はそれを飲み込めないできたわけです。芸の世界においては伝承だが、将棋の世界ではそうではない。作者は『魂の伝承』という言葉を使われて、ああそうなのかと納得した次第です」
優秀賞は北野新太氏「最終局」(小説野性時代)である。
「最終局を読んで、新しい将棋文芸が生まれたな、という気持ちで読まさせていただきました。
モノローグという形で出て来たノンフィクション小説といいましょうか、将棋がスリリングな紹介になっています。将棋を知らない人が読んでも魅入られるんじゃないか、と思いました。
この類の読み物がこのスタイルでもっと出てきたらいいなと思いました」
同じく優秀賞は、佐川光晴氏『駒音高く』(実業之日本社)である。
「これは、いくつかの短編集がまとめられている小説です。その多くは、プロを目指す少年少女のエピソードになっています。
清掃員のおばさんの話もいい。あるところに、弁当箱の食べ残しがある。なぜかというと、研修会の子供がいて、負けて食欲がなくなって、おかずを残しちゃうんですね。
将棋棋士を目指す人たちに対しての、温かい目が光る作品集でした」
技術部門の大賞は、杉本昌隆八段『将棋・究極の勝ち方 入玉の極意』(マイナビ出版)である。
「このタイトルをいた時に、マニアックだなあと、売れるのかなあと思いました。
でも本書を読むと、入玉する、入玉を阻止する、将棋の本質的なものが浮き上がってくるんですね。それを知るために、とても有益な本でした」
優秀賞は西尾明七段『コンピュータは将棋をどう変えたか?』(マイナビ出版)だが、公務で欠席。代理で田名後健吾・将棋世界編集長に賞状が贈られた。
「コンピュータが将棋に与えた影響は計り知れないものがあります。関連本もいくつか出ていますが、戦法にこだわって、体系的に出した本はなかった。興味深かったのは、玉の囲いですね。ちょっと私は、その囲いは遠慮しますけれども」
このあとは、受賞者のよろこびの言葉となる。これが歴史に残る名スピーチの連発になった。
(つづく)