一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

待望の師弟対決

2021-03-24 00:06:57 | 将棋雑記
庭の桃の木が瀕死状態だ……。

   ◇

22日に第47期棋王戦予選・鈴木大介九段対梶浦宏孝六段の一戦が行われた。
鈴木九段と梶浦六段は師弟関係にあり、このコンビは、新橋駅前での竜王戦や名人戦の解説会でおなじみである。
弁舌滑らかな鈴木九段の解説に、梶浦六段が黙々と駒を動かす。時折鈴木九段が梶浦六段に指し手を聞くと、梶浦六段がボソッと鋭い手を指摘する。そのやりとりが絶妙である。
鈴木九段は梶浦六段に、竜王戦で活躍しろとハッパをかけていた。すると梶浦六段は昨年の竜王戦で快進撃を続け、本戦トーナメントベスト4まで勝ち上がった。そこで羽生九段に敗れ長蛇を逸したのだが、本人以上に鈴木九段が悔しがったような気がする。それほど師弟の絆は強い。
ところで2018年秋、羽生善治竜王と広瀬章人八段が戦った第31期竜王戦第7局のとき、ふたりは解説会でこんなやりとりを交わした。2018年12月26日のブログを再掲しよう。


まだ時刻は午後7時前なので、中盤に戻って、再び解説となった。
鈴木九段「相居飛車は研究が進んでるんで、自由度がないんですね。広瀬さんも昔は振り飛車党だったんですが、居飛車党に転向しちゃった。
裏切り者!
ボクも来年は居飛車やろうやsろうかな。梶浦君も振り飛車指しなさい」
「えっ……。じゃあ一局やります」
「ボクも居飛車をやったことはあるんだけど、2勝18敗だったかな」
「それは……」
と梶浦宏孝四段が絶句した。
「梶浦君が飛車振ったらボクは居飛車やるよ。そうだ今度対局で当たったらお互い逆持とう」
何だかすごい話になってきた。
鈴木九段「師匠と弟子が当たって、弟子が勝つことを『恩返し』といいますよね。私は負けるつもりはなかったんですが、この歳になってくると、弟子に負けられるもんなら負けてみたい、と思うようになりました」


こんな感じである。すでに対局は終了し時間が余っていたこともあるが、かなり具体的なやりとりだ。
こんな趣向があるならと私は師弟対決を楽しみにしていたのだが、なかなかふたりは当たらない。それがこのたび、ようやく実現の運びとなったのだった。
さて注目の戦型である。この将棋は携帯中継があったが、私は契約していないので、ネットで情報を拾った。が、拍子抜けというか、鈴木九段がふつうに飛車を振ったようだ。結果は梶浦六段の勝ち。
問題はこの出だしである。やはりネットで情報を拾うと、先手鈴木九段の▲7六歩に、梶浦六段は△8四歩だった。……これですべてが終わった。
この将棋、梶浦六段が2手目に△3四歩と突いて、鈴木九段に居飛車か振り飛車かを問わなければならなかった。▲6六歩なら、そこで△8四歩と突けばよい。
いや違う。鈴木九段が初手に▲2六歩と突き、先に居飛車を明示しなければならなかった。
2年3ヶ月前の会話では「梶浦君が飛車振ったらボクは居飛車やるよ」と述べているが、これは梶浦六段が何局か飛車を振ったら……という意味で、一局の将棋を述べているわけではない。よって、逆の戦法を持ちかけている鈴木九段が、先に居飛車を明示すべきである。これなら以下△3四歩▲7六歩に△4四歩、あるいは△5四歩or△4二飛で、双方が逆を持っての戦いになる。
だが問題は、梶浦六段が2手目に△8四歩とした場合だ。師匠の提案とはいえ、正直にお付き合いして、不得手な振り飛車を指すことはない。堂々と相居飛車にし、こちらの土俵で戦おう……という考えである。
それは初手から▲7六歩△3四歩▲2六歩となった場合の4手目にも同じことがいえる。ただ、これは3手目と4手目でいらぬ神経を遣うことになる。
こうしたもろもろのことを考えた上で、鈴木九段はふつうに初手▲7六歩と指し、梶浦六段もとっとと居飛車を明示したのであろう。
何しろ、滅多にない師弟戦である。梶浦六段としては真剣勝負の場で鈴木九段に飛車を振ってもらい、その指し回しを体感したかったのだろう。
なお実戦のその後は梶浦六段が穴熊に潜り、鈴木九段も奇をてらわずふつうに指すという、いつもの形になった。
そして中盤、▲3七桂に向かって△3五歩が機敏な手だったと思う。私見だが、美濃囲いの▲3七桂にはつねに△3五歩があるので、振り飛車が相当神経を遣う将棋になると思う。素人がプロの指し手にモノ申すのは気が引けるが、これは実感である。
ともあれその結果、梶浦六段が快勝したというわけだった。
2年3ヶ月前の話は冗談だったと言われたらそれまでだが、当時の私と同じに、真に受けた観客もいたと思う。感想戦ではあのときの話に触れたのか、鈴木九段に聞いてみたいものだ。
コメント (2)
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