小学生の頃は転校生がどういう家庭の子供なのか理解できなかった。
後年、弟の子供、姪、甥が転校生になることも夢にも思わなかった。
どこからか来て、先生の紹介でみんなの前で挨拶する転校生
その多くは都会的で、あか抜けた衣服、頭のレベルもたいてい私より上、自分のことを「ぼく」と言うから最初は「ぼくちゃん」と言うニックネームがつく
それが仲良くなった2~3年後に突然、前に立ってお別れの挨拶をして、どこかの星に行ってしまう不思議なエイリアン
一番短期だった転校生は一ヶ月で消えたサーカスの子、名前も知らない
サーカスを見に行ったら鼓笛隊の太鼓みたいなのを叩いていた。
一番最初に行ってしまったのは小2での片思い、初恋の由美子ちゃん
入学した時から一緒だったから転出していっただけ
我が家のすぐ近くだから彼女の家にはよく遊びに行った
弟がいて、私たちはたいてい坊主頭だったが、彼は坊ちゃん刈り、上質のあか抜けたファッション、姉、弟二人ともツルツルのきれいな顔
勿論ニックネームは「ぼくちゃん」、転校生のイメージモデルは彼だ。
お母さんは保健婦さんで、お父さんは保健所職員だと母がいってた。
お母さんは優しそうな人だった
2年生のある日、由美子ちゃんは教室で挨拶して、どこかの星に行ってしまった、由美子ちゃんがエイリアンだったことを理解したのは高校生になってからだ。
ぼくちゃんには何年か後に、もう一度会った、でも恥ずかしくて由美子ちゃんの近況を聞くことができなかった。
それからも次々とエイリアンは来ては去って行った。
ともだちになると居なくなってしまう彼ら。
銀行員の息子、和夫くん
電電公社員の息子、おっちゃん
警察官の息子、ペコちゃん
電力会社員の息子、かずのり
警察官の息子、なべ
国鉄マンの息子、啓二
そして母親の病気療養で京都から来たアキラくん。
アキラくんはおっとりした性格で頭が良く、女子に母性本能をくすぐらせるタイプだった。
よい子なので女担任のお気に入りだった。
六年生になると級長になった。
中学生になって間もなく再び京都へ帰って行ったが、ずっと文通していた、大人びた美しい字に憧れて真似た。
アキラくんは大学卒業後、大手信託銀行に就職した、世田谷支店配属まで手紙のやりとりが続き、そこで音信が途絶えた。
そして50代なかばの頃、インターネットで友だちの同姓同名検索して遊んでいて、アキラくんと同姓同名のしかも同じ信託銀行の長野支店長を見つけた。
恐る恐る、銀行に手紙を出したら電話が来た
やはり彼だった、30数年ぶりの奇跡的な再会だった
それから一ヶ月後、彼が訪ねて来た、一緒に飲んで思い出話を語った。
間もなく定年になって習志野に住んでいると手紙が来た
そして中学校の還暦の同級会の案内を送った
習志野から封書が届いた、彼の奥さんからだった。
「夫、アキラは昨年、病気で亡くなりました」
彼は本当に星に帰っていったのだ
奇跡的な、ただ一度だけの思い出を私に置いて。