「へへへ おいちゃん おばちゃん いま帰ったぜ」

「おやまあ驚いた! 寅!おまえ生きてたのかい?」
「おいちゃん! やっと帰って来たのに、それはないだろう・・」
「まあいいや 中にへえって茶でも飲もうや」
「さくらは元気かい?」
「ああ 残念だねえ さくらは東北へ桜見物に行ったばかりだよ」
「そうかい そりゃあ残念だった 会いたかったのによお」
「寅 たしか最後に出て行ったのは去年の暮れだったから・・・」
「そうさなあ 110日ぶりってとこだな」
「3か月以上どこに行ってたんだ? 今度はゆっくりできるんだろ? さくらが戻るまでここにいなよ」
「おいちゃん ありがとうよ せっかくだけどよ、そこが渡世人のつらいところよ、ようやく祭りがやれるようになって「テキヤ稼業」も忙しいのさ
すぐに次の土地へ行かなきゃならねぇのよ」
「そういわずに今日だけでも泊まって行けよ」
「お言葉は、ありがたいけど、そうもしてられないのさ、ゆるしてくんな
ちょいと横にさせてもらうよ」

「・・・・・」
「あああ~疲れた ちょっとだけ寝させてもらうよ」

「おやまあ寅ちゃん 寝ちゃったよ やっぱり家がいいんだね」
「それにしても外でねるこたぁねえだろうに」
「まあ、そっとしておやりよ、幸せそうに寝てるじゃないか」
「オッ 起きたようだよ 何か考えてるみたいだよ」

「へへへ 考える人(ネコ) な~~~んちゃってね」

「なんだ また冗談かよ くだらねぇ 何にも考えてなんかいないじゃないか」
「へっ! 貧しいね これだから学問のない庶民は嫌なんだよ
おいちゃんにロダンを語った俺がバカだった」
「なんだい? そのロタンってのは?」
「ああぁ 教養がない人間ってのは悲しいねぇ」
「へっ! なに言ってやがる 小学校中退のおまえに言われたくねえよ」
「なんだと いくらおいちゃんでも、それは言い過ぎだぞ」
「てやんでぃ それは、こっちのセリフだ!」
「やめなよ二人とも 大人げない」
「ヘヘヘ 悪かったな 言い過ぎたよ 許してくんな」
「おいちゃん おばちゃん せわになったなあ、おれはこれで当てのないない旅に出るから達者でいろよ 長生きするんだぜ、さくらによろしくな」
「寅、そういわないでもうすこしいたらどうだい
「すまねぇ 何度も言うが、そこが渡世人のつらいところなのよ、黙っていかしてくんな あばよ」

「さあて どこへ行こうかな」

「とらあ~~またこいよ! 漢字なんかなくてもいいから手紙よこすんだぞ」
「ああ わかったよ それじゃごめんなすって」
終