神様がくれた休日 (ホッとしたい時間)


神様がくれた素晴らしい人生(yottin blog)

空想歴史ドラマ 貧乏太閤記 154 老女の死にざま 

2023年02月13日 17時38分08秒 | 貧乏太閤記
 この行為は、さすがに徳川家康のように何事にも動じない者であっても眉をひそめる惨い出来事であった。
秀吉の家臣たちにも動揺が走った、かって信長が比叡山を焼き討ちして僧侶から女、子供まで殺しまくったときと同じ動揺だった。
特に秀次の側室は諸大名に縁がある者が多く、当然ながらその大名や縁者は命乞いに秀吉の高官を頼った、しかし秀吉の心は明らかに鬼になっていた
いったいなぜ、このようなかよわい女、子供まで全て斬首と言う惨いことをしたのか、本人さえわからなくなっている
 世間では、「秀次が生きていれば、秀頼の天下は奪われるから根こそぎ殺したのだ」とか
「右大臣の娘、正室一の台が、秀吉を狗畜生と罵ったからだ」
「秀次と一度でも体を併せた女たちを、秀次同様に汚らわしいと思ったからだ」
あるいは「秀次に側室を勧めた大名たちに恐怖心を与えるためだ」という噂が広まった。
そのように側室につながる諸大名を拾いだしたのが下記である、これだけの大名や公家、土豪が関白秀次と誼を通じていたことになる、秀吉が警戒したのもうなづける

池田輝政、蜂須賀家正、村井(貞勝縁者)、福島正則、六角、長谷川秀一、
菊亭晴陶、四条家、近衛家、山内一豊、徳川家康家臣
姉小路古川家、毛利輝元、宇喜多秀家、坪内(川並衆)、前田利長、
織田信雄、細川忠興、竹中(半兵衛息)、堀田(道空縁者)、
前野長康、武藤長門
浅野、小早川、別所、黒田長政、最上義光、伊達政宗

皆、縁者や家臣、実の娘を救おうと必死に駆け回ったが、ほぼ全員が殺害された、その中で助命された者が二人いる、池田輝政の妹で最初の正室、若政所
輝政は元より、親戚になる徳川家康、北政所も可愛がっていた若政所を殺すわけにはいかなかった、近江八幡城から動かず、長い年月を秀次と別居していたことも考慮されて秀吉から許された。
もう一人は秀次の娘で、生まれたばかりの女の赤ん坊だった、この赤子こそ秀頼の婚約者とされた赤子であった、生まれたばかりと言うことで尼寺に入れることを条件に許した。
 哀れだったのは、10代半ばの若い側室5名ほどであった、彼女らはまだ秀次のお手付きにもならなかったのに側室とされて全員、斬首刑に処された。
その中でも特に哀れだったのは、最上義光の娘、駒姫であった
秀次が奥州征伐の時、最上家に立ち寄り少女だった駒姫を見染めて「15歳になったら、わしの元に奉公に出すように」と命じた、15歳を迎えても義光は出し渋っていたのだが、家老に「それでは、関白の怒りに触れますぞ」と言われ
泣く泣く都へ送ったのだった。
都では、秀次の聚楽第にまだ入らず、別の屋敷で対面の日を待っていたが、その前に秀次は高野山へ送られたのだった
しかし、駒姫は秀次に会うこともなかったのに側室の一人とされて、哀れにも刑場で付き添いの娘ともども斬首されたのだった
最上義光の嘆きは誰もが涙せずにはいられなかった、そしてそんな仕打ちをした秀吉を恨んだ、関ケ原の戦のときには徳川に味方して、石田方(豊臣方)の上杉景勝と山形で一戦交えたのであった。
駒姫を京に送った家老も責任を取って自害した、このように斬首された側室の縁者や家臣でも自害した人は多い
また、親兄弟も切腹や遠流刑を命じられたものが少なくない
あの右大臣にもなった菊亭晴陶も流刑にされ、娘一の台だけでなく、その娘までも斬首刑にされている、この事件で秀吉によって殺された者は100名近くになるであろう、そして半分は罪なきかよわい女子供であった
この恨みが秀吉と淀殿、秀頼、石田三成に向けられたのは当然であった
結局、秀吉は自らの手で豊臣家に幕を引いた、というより自分の死に際に、豊臣一族を道連れにしたのかもしれない。

 悲惨な三条河原の処刑場では、大きな穴が掘られ、女子供たちは正室から順に土壇場に引き出され、そこで首を斬られると、首と体は前のめりに穴の中に落ちていく、そのような恐ろしいことが、これからわが身が起こると思うと、女たちは泣き叫び、許しを乞うたが聞き入れられるはずもなく
そんな阿鼻叫喚の場に、一人老女が立ち上がり・・・・・

 処刑の一番最初は、秀次の最初の妻となった若御台(若政所)であったが、兄の池田輝政と、輝政の舅である徳川家康、さらに若御台を可愛がっていた北政所の必死の命乞いで、唯一の例外として救われたことは書いた
秀吉はそれでは示しがつかぬと身代わりを求めた、輝政も誰を身代わりとも言うことが出来ずにいたが、若御台の御付き老女であった「こほのまえ」が自ら、身代わりを申し出たのだった
「どのみち先の短い者でございますから、こんなことでお役に立てば、これほどの幸せはありませぬ」と言って笑った。

 泣き叫ぶ側室たちの前に、「こほのまえ」は立ち
「皆さまがた、ババが一足先に行って皆様を待っておりますぞ」
「うるさい! 黙って早う歩け、後ろがつかえておる!」
足軽がせかせた、すると突然大声で
「無礼者! 儂を誰だと思っておるのじゃ、伯父は近衛家につながるお方、儂は池田輝政様の乳母であるぞ、薄汚い獄卒ずれが話しかけるでない
池田様のご家中が見ておられる、逐一池田少将様のお耳に入るであろう
命惜しくば、黙って待つがよい」
その毅然とした態度、突き抜くような鋭い目に足軽は凍り付いた
こほのまえは、また元の柔らかな表情に戻ると側室らの方を向いて
「姫君、何も恐れることはありません、ババが先に行って皆さまを極楽へご案内します。 この世が地獄、あの世こそ苦しみの無い安らぎの世界ですよ
死ぬは一瞬のこと、恐れずとも良い、では、お先に参ります」
「こほのまえ」は、そう言って今度は足軽を急がせた
今まで泣き叫んでいた側室たちは一様に静かになり、今度は経を咏む声が刑場に静かに響いた。
処刑される女たちは、10代半ばから30代までがほとんどであったが、「こほのまえ」の堂々としたふるまいを見て、あとに続く者たちも騒がず、粛々と刑を受け入れた。
小さな子供たちも、母親の顔を見て手を合わせる姿をまねた、斬首する役人も涙で手元が狂わぬよう心掛けた




最新の画像もっと見る

コメントを投稿