『アスペルガー症候群 』(幻冬舎新書、800円+税)の著者、岡田尊司氏のことは、前著『パーソナリティ障害』『子どもの[心の病」を知る』を読んで、内容面だけでなく文章の表現力の点でも高く評価していました。
著者が第22回横溝正史賞を受賞した小笠原慧であることから「なるほど」とうなづけるところがあります。
さて、この『アスペルガー症候群 』は、そのアスペルガー症候群(アメリカ精神医学会では「アスペルガー障害」)を最初に報告したオーストリアの小児科医、ハンス・アスペルガーが出会った「大人のように話す」少年のフリッツ・Vの話から読者を引きつけます。
フリッツには、片時もじっとしていられずに、絶えず落ち着きなく動き回り、手当たり次第に物をつかみ取っては、引き裂いたり、壊したりしようとし、また、同じ動作を何度も繰り返す癖があったのです。
この本では、
アスペルガー症候群とはそもそもどんなものか?
アスペルガー症候群の症状はどのようなものか?
の問いに明確に答え、さらには、
アスペルガー症候群の診断
アスペルガー症候群が増えている原因
アスペルガー症候群と7つのパーソナリティ・タイプ
について、
さらには、それだけですまさず、
アスペルガー症候群とうまく付き合う方法
アスペルガー症候群を改善する方法
に至るまで、まさにアスペルガー症候群について「かゆいところに手が届く」ほどに書かれた本です。
アスペルガー症候群の仲間たちとしては、次のような知名人が紹介されています。
ダーウィン、キルケゴール、ビル・ゲイツ、ジョージ・ルーカス、アンデルセン、アインシュタインなど
著者は、アスペルガー症候群のデメリットだけでなくメリットもたくさん示し、アスペルガー症候群に関して優しいトーンが目立ちました。
私たちの身近にいるアスペルガー症候群の人たちに微笑を贈りたくなるような本です。
カウンセリングを学ぶ人なら読んでおきたい本としてお勧めします。
周囲にもいるし、カウンセリングでもよくお会いしますよ。
<参考>
参考までに、『DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院、1996)からアスペルガー障害の診断基準を引用しておきます。
A.以下のうち少なくとも2つにより示される対人相互作用の質的な障害:
(1)目と目で見つめ合う、顔の表情、体の姿勢、身振りなど、対人的相互反応を調整する多彩な非言語性行動の使用の著明な障害。
(2) 発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗。
(3) 楽しみ、興味、成し遂げたものを他人と共有すること(例:興味のあるものを見せる、もってくる、指さす)を自発的に求めることの欠如。
(4) 対人的または情緒的相互性の欠如。
B.行動、興味および活動の限定的、反復的、常同的な様式で、以下の少なくとも1つによって明らかになる:
(1) 強度または対象において異常なほど、常同的で限定された型の1つまたはいくつかの興味だけに集中すること。
(2) 特定の、機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである。
(3) 常同的で反復的な衒奇的運動(例えば、手や指をばたばたさせたりねじ曲げる、または複雑な全身の動き)。
(4) 物体の一部に持続的に熱中する。
C.その障害は社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の臨床的に著しい障害を引き起こしている。
D.臨床的に著しい言語の遅れがない(例えば、2歳までに単語を用い、3歳までに意思伝達的な句を用いる)。
E.認知の発達、年齢に相応した自己管理能力、(対人関係以外の)適応行動、および小児期における環境への好奇心、などについて臨床的に明らかな遅れがない。
F.他の特定の広汎性発達障害または統合失調症の基準をみたさない。