おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
H.オーグラー著『アドラー心理学入門』シリーズの第24回目。
第3部「個人心理学の実際的応用」第2章の「アドラーの治療法」です。
H.オーグラーによれば、アドラーは、実際に応用できる厳格な方法を制定せず、患者1人ひとりの事情に従って治療の技法を適用するよう配慮したようです。
それは意図的であって、相談者(注:カウンセラー/セラピストのこと)のライフ・スタイルが治療方法を決定する、というアドラーの考えに基づいています。
しかし、著者がアドラーから学んだことによれば、症例ごとに相談者は、次の4つの課題を遂行しなければならない、ということをアドラーは、大体の輪郭として示したようです。
1.患者との接触を確立しなければならない。
2.患者のライフ・スタイルの誤りをわからせなければならない。
3.患者を勇気づけなければならない。
4.患者の共同体感覚を発達させなければならない。
1.の「患者との接触」を確立することに関しては、守秘義務のほかに、権威的な態度でなく友人として協力することが書いていありますが、このことは、ドライカースによって「相互尊敬・相互信頼」の関係とされ、現代も踏襲されています。
観察者として、卓越したの能力を持っていたアドラーとその後継者たちの伝統では、下の能力を持っていなければなりません。
熟練した個人心理学者は、ライフ・スタイルを発見するのに何の困難も感じない。いや、時として、第1回の相談の間に発見することも彼/彼女にとっては可能である。彼/彼女は、患者が部屋に入ってくる様子、握手の仕方、視線、身ぶりなどから、患者が話し始める前にもうある結論を引き出すことができる。
3の「患者を勇気づけなければならない」ということについては、次のように書いています。
患者のライフ・スタイルを解明する一方で、我々は患者を勇気づけし始める。
どんな物事に患者がとりわけ関心を持っているかということを見つけ出した後で、我々は、この分野で自己を鍛錬するように患者を説き勧める。
この分野で何かを成し遂げるのに成功すると、患者は、より大きな自信を獲得し、次第に劣等感を克服する。
我々は、最初からむずかしい仕事に取り組まないように助言する。なぜなら、1つでも失敗すると、彼/彼女の気持ちを沈めてしまうだろうから。
アドラー以来の伝統として、治療に関して下記の2つの点を強調しておきます。
第1点は、アドラーの治癒イメージ、もう1つは、相談者(カウンセラー/セラピストのこと)の備えるべき資質です。
前者に関しては、アドラー派は、患者の症状がなくなっても治癒したとはみなさず、彼/彼女が自分の人生問題と取り組み、自らに責任を引き受けるときのみに、真の治癒を口にすることです。
後者に関しては、H.オーグラーは、次のように書いています。
相談者は、患者の特別な知識領域の議論に誘い込まれないようにすべきだとはいえ、患者の問題をよりよく理解するために、行き届いた教育と広い視野を持つべきである。
そして、アドラー自身が著者だけでなく周囲に深い印象を与えたことをこう書いています。
私は、彼(アドラー)が批判したり、叱責したりするのを聞いたことがない。彼は時々、ある状況をたった1つの言葉、たった1つの身ぶりで説明することができた。
人間性に関する彼の独自の理解は、最も複雑な性格や状況の洞察を可能にした。彼のすばらしいユーモアの感覚は、最も気の進まない患者たちの心をつかんだ。
人間知に満ち溢れた「人類の教師」らしいアドラーらしいところですね。
◎次回が最終回の「結言」となります。
<お目休めコーナー> 桜便り① ― 西戸山(新宿区)

