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アドラー心理学による勇気づけ一筋40年 「勇気の伝道師」   ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ



ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。

H.オーグラー著『アドラー心理学入門』シリーズの第25回目。最終回です。
テーマは「結語」、副題が「アドラーとその仕事の後代に対する意義」です。

たった6ページなので、私のコメントも加えながら進めて行きましょう。


H.オーグラーは、冒頭次のように書き出しています。

すべての偉人たちと同じく、アドラーは、時世よりもずっと先んじていたから、後代の人間にして初めて彼を適切に評価できるのだろう。

しかし、ウィーンの個人心理学学校、診療所、相談所、少年院、および医師の診察室における実際的な成果と、犯罪の予防での成功とは、今日にとっての、いや、さらに将来にとってのアドラーの教説の巨大な価値を明らかに示している。

個人心理学は、問題児、神経症者、犯罪者その他の治療に素晴らしい成績をあげているのである。


時世よりもずっと先んじていたアドラーの心理学(個人心理学)は、問題児、神経症者、犯罪者その他の治療に素晴らしい成績をあげているだけではありません。より適応した人びと、他者を援助する人にも有益な理論と実践法を提供しています。

個人心理学は、その科学的な経験と知識に支えられて、人生に失敗した人々に新しい目標とそれを達成する新しい方法を示すのみならず、よく適応した人びとにも自分自身および他の人びとを理解するすべを教えるのである。

個人心理学のユニークな点は、人間性の知識を教えられるようにしたことにあり、この出発点から、個人心理学は、幸福な人生を送るための実際的な助言を展開したのである。

アドラーの教説は、悲観主義、憎しみ、羨望、卑劣、敵意などのような破壊的傾向をどうやって防ぐか、劣等コンプレックスの発達をどうやって避けるか、また、楽観主義の成長、他人に対する理解、協力、勇気、および人間らしさをどうやって助長するか、(その手段)を我々に示している。


ところで、アドラーが自分の心理学を「個人心理学」としたことについては、「個人だけの心理学」のように受け止められがちですが、次の記述でその誤解を解いておきましょう。

個人心理学は、個人を決して大衆から孤立したものとしては見ない ― なぜならば、完全に孤立した個人を想像することは不可能だから ― で、いつも世界と関連させて考察する。個人心理学は、この関連での個人の意義を強調する。


個人心理学は、英語では Individual Psychology と言われますが、Individualには、「分割不可能な」という意味合いがあります。しかし、「個人」という日本語では、そのニュアンスが消えてしまいます。


H.オーグラーは最後に「私は、邪悪な人間に悪い未来を予言する大きな声を聞かなければならなかった人間が、アドラーの柔らかな、おだやかで、親切な声に思い切って耳を貸すことを望みたい」として、まるでアドラー自身が側にいるかのように、アドラーの教えを次の言葉で結びます。

人間は、生まれつき悪者ではない。彼/彼女の過ちが何であったとしても、過ちは誤った人生観によるのであるから、そのためにふさぎこんではならない。人間は変わることができる。過去は今は死んでいる。将来自分が幸福になることも、他人に幸福をもたらすことも、人間には思いのままである

アドラーは「早すぎた預言者」とか「勇気と希望の使途」とか言われることがあります。

彼の教えは、今でも新鮮さを失うことがありません。

私も他の流派の講座に出ると「何これ、アドラーじゃないの」ということがしばしばでした。
交流分析も、認知行動療法も、ブリーフ・セラピーも、NLPなどもみんなそんな香りがしました。と同時に、「底が浅いな」とも感じています。

精神医学史学者のアンリ・エレンベルガーが『無意識の発見 下』(弘文社)で怒りを込めて述べたように、アドラーの心理学は「共同採石場」(誰もが断りなく平気で掘り出してしまう石狩場のこと)のようなもので、他派がアドラーの原著を引用したことに触れずに取り込んでいることがあります。


ところで、アドラーは、自分の理論と技法を集大成することなくこの世を去ったのですが、その後、彼の後を受けて理論家、システム化したのがルドルフ・ドライカースです。

ちなみに、彼の生涯については、ヒューマン・ギルドのニュースレターの『不完全である勇気』で連載中です(3-4月号は、ドライカースの弟子のH.モサックのことについて)。

アドラーの1930年以降に書かれた本(実は、講演や講座をもとに編纂した本)は、何を読んでもさほど代わり映えしませんが、アドラーの本を最小限に読んでおけば、という前提で申し上げると、次の4冊がお勧めです。

『人間知の心理学』(アルテ)

人間知の心理学―アドラー・セレクション
アルフレッド アドラー
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『性格の心理学』(アルテ)

性格の心理学―アドラー・セレクション
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『生きる意味を求めて』(アルテ)

生きる意味を求めて―アドラー・セレクション
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『人生の意味の心理学』(アルテから今春か今夏2分冊で刊行を予定)

ただし、アドラーの本を読んだからといって、アドラー心理学の大部分がわかるわけではありません。

ある方が、ヒューマン・ギルドの講座を受けてこう言いました。

「アドラーおよびアドラー心理学の本をかなり読みこなしましたが、それは知識レベルのことでしかありませんでした。アドラー心理学ベーシック・コースとSMILEを受けて初めて、アドラー心理学の深さが腑に落ち、実践できる勇気と知恵が湧いてきました」


このシリーズの最後に、今後のアドラー心理学に関する学びについて触れます。

1.どうかこの「アドラーを読む」のカテゴリーを読みこなし、アドラー自身の本を数冊読んでください。

2.次に、講座をしっかり受けてください。畳上の水練では、いつまでたっても上達しません。

理論編 アドラー心理学ベーシック・コース

技法編 愛と勇気づけの親子関係セミナー(SMILE)

このブログを読まれた方と実際にヒューマン・ギルドでお目にかかれるのを楽しみにしております。


◎このシリーズの完結にタイミングを合わせて、ヒューマン・ギルドのホームページのTopics欄に「アドラーが遺したもの」(私が『春秋』1988年5月号 №298 に書いたものに少し手を加えた文章をアップしています。

アドラーに心理学に対する理解がより深まりますよ。
ご参照ください。


<お目休めコーナー> 道端の水仙


 



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