おはようございます。ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
『フロイト―視野の暗点』(ルイス・ブレガー著、後藤素規・弘田洋二監訳、大阪精神分析研究会訳、里文出版)をもとにフロイト派から見たアドラーについて連載していますが、この本にフロイトの治療技法に関する面白いエピソードが載っていましたので、番外編として紹介します。
フロイトが有名な指揮者のブルーノ・ワルター(Bruno Walter, 1876-1962)の「職業的けいれん」の治療をしていたときのことです。
長期にわたる精神分析治療を予測していたワルターは、フロイトから数週間イタリアに旅行して、手のことを忘れて、目だけを使いなさいと言われ、驚きました。
旅行から帰ってきたら、ワルターの腕は多少よくなっていて、フロイトからまた指揮をするように言われ、次のような会話に発展しました。
ワルター 「でも腕はまだ動きません」
フロイト 「とにかく、やってみなさい」
ワルター 「でも、途中で指揮ができなくなったら一体どうするんですか」
フロイト 「途中で指揮ができなくなりはしないよ」
ワルター 「演奏を混乱させたら責任を取らなければなりません」
フロイト 「その責任は私が取るよ」
ルイス・ブレガーは、この一例を次のように書いています。
フロイトは、自身の技法的勧告に全く相容れないような、魔術的な治療者を演じているのである。
私は、この一節を読んでフロイトにちょっぴり好意を抱きました。
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