付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「あいつ」 成田美名子

2007-08-26 | 学園小説(不思議や超科学なし)
「シャア少佐 シャア少佐 シャア少佐! ほら、早口で3回続けて言ってみな!」

 先日、久しぶりに『あいつ』を読んだら作者の絵柄がすごく変わっていたのに気づいて驚きました。当然といえば当然。25年前の作品ですから。
 めがんてな人と成田美名子の話をしていたら、「無理に日本の話にしなくてもいいのに」という言葉が出てきました。確かに初期の成田美名子の作品といったら異国情緒たっぷりです。日本を舞台にした作品も多いのですけれど、『エイリアン通り』や『CIPHA』などでのアメリカ描写や『みき&ユーティ』の寄宿舎生活というのはあか抜けていて、その印象が強いんですよね。『あいつ』も主人公は天文学を学びに九州の大学に進学したくて、隣に住む「あいつ」らは外国を旅するために貯金をしながら外国語を学ぼうとしていて、生徒会長は医者への道を捨ててSF作家へと歩み出すという、外向きでSF志向の強い人物配置でした。
 で、今は逆に日本そのものの能や和弓の話が続いているので……(でもテーマ的には変わってないと思います。立ち位置が変わってるのかな……)。
 でも、「外国」を舞台にした作品のイメージが強かった人が、「日本」そのものを題材にすると目立ちますよね。同じタイプの代表が渡辺多恵子。出世作『ファミリー!』がアメリカン・ホームコメディで、『ジョゼフへの追想』なんてSFまで描いていた人が、いまや代表作は新撰組の『風光る』。

 新撰組は「男のドラマだ!」と思っている人はびっくりでしょうよ。祇園の本屋には『風光る』のコミックが平積みにされていて、京都市中はその渡辺多恵子のキャラを大きく側面に描いたバスが走り回ってんですから……。
 確かに好きな作品ではあるんですが、このタイトルを見ると瞬間的に山上たつひこの『光る風』を連想して、一瞬ひいてしまいます。今だに。あちらは全体主義と軍事優先の世相に呑み込まれていく主人公の陰鬱で悲惨でグロテスクな物語です。イモムシが出てくるような話。
 なんとかリハビリしたいなあ……。

【あいつ】【成田美名子】【白泉社】【LaLa】【天体観測】【ぱんつ】【こんにちはさようなら】【うんちゃらうんちゃら】【シルクロード】【SF作家】
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「トラブル急行」 弓月光

2007-08-26 | 宇宙海賊・宇宙商人
 弓月光といえば「ヤングジャンプ」や「ビジネスジャンプ」でエッチなコメディを描いている作家ですけれど出身は「りぼん」。でも描いていることは今とほとんど同じ。極端な話、直接的な描写があるかないかくらい。
 その弓月光が「週刊少女マーガレット」に最後に連載したのが『トラブル急行』。打ち切り同然に単行本2巻で終わったけれど、今思っても無理もない話。銀河系を旅する零細運輸業者の話ですよ(小説版クレギオンを思ってもらえばよろしい)。そこで彼らが遭遇したのが古代文明の遺産、折り鶴型のバイオシップ。宇宙船そのものに人工知能が搭載されていて、端末は女性アンドロイド型というヤツです。今でこそライトノベルなどでは散見される設定ですけど、マキャフリィの『歌う船』の翻訳が刊行されたのが1984年。これは1982年の作品ですからね(これ以前にバイオシップ、というか人格を持った「頭脳船」の出てくる作品はあったかな……?)。
 小道具だってハインラインやニーブン系のSFアイテムがごろごろ出てきて、パワードスーツはスリムなボディスーツ型から無骨な大型まで。折り鶴宇宙船のシールドに手を焼いた宇宙海賊は、怪しげなパペッティア人の商人からガトリング式ビーム砲を購入する……という、まあ、それをあの時代に少女マンガでやろうというのが無謀ってもんです。今、少年サンデーあたりでやるなら可なんだろうけどもさ。
 弓月光の『甘い生活』の27巻の最後のページ。軌道エレベータ上部のステーション・ブロックのドッキングゲイトに係留されているのは、たぶんチャイカですね……。

 この頃、各人気作家が毎号読み切りマンガを執筆し、読者投票でグランプリを選ぼうという企画があったのですが、このときに弓月光が描いたのが『3DKのサバイバル』。若夫婦の旅行中の団地の一室。留守番をしていたお婆ちゃんが突然死んでしまい、取り残された赤ん坊が4LDKをはい回って生き延びようとする話。当時は読んでも面白くなかったし、逆に今読むと痛すぎる。少女マンガ誌の企画ですよ? もう、賞を取るより描きたいものを描く!って感じでした。

【トラブル急行】【弓月光】【マーガレットコミックス】【頭脳船】【人型端末】【宇宙海賊】【パワードスーツ】【3DKのサバイバル】
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「す~ぱ~アスパラガス」 立原あゆみ

2007-08-26 | 超能力・超人・サイボーグ
 ヤクザ漫画で天下を取ってしまった立原あゆみがまだ少女マンガを描いていた頃、SF好きの男子高校生たちはコミックの単行本を探してあちこちの書店を放浪していました。なにせ、連載マンガが単行本にならないことが珍しくもなんともなかった時代です。マイナーな少女マンガのコミックを探すのにどれだけ苦労したことか(書店注文は論外でした)。
 そんな放浪の末に集めたのが「ひとみ」(付録のついたローティーン向け雑誌)に連載していた『す~ぱ~アスパラガス』、1982年のことです。最終巻は本当に店頭に見当たらなかったんだ。

 星野ひろしの家の周囲に突如出現したアスパラガス畑。正体不明のアスパラガスをついうっかり口にしてしまったひろしの身体は、いつの間にか少女の肉体に変異していた。そして戸惑うひろしの前に現れたのは、機械じかけの謎の猫。その猫に導かれ、アスパラガス畑に立ったひろし/ひろこに、植物型の異星人が語りかけてきた。
 このアスパラガスこそ、母星を失った植物星人であり、彼らの敵が地球にも来ている。そのために君を少女の身体にしたのだと告げた。
 その言葉を裏付けるように、周囲で少年が殺される事件が相次いだ。
 この吸血異星人の侵略には、少女の身体に少年の心、少女の愛と少年の勇気を持った存在でなければ立ち向かえないのだ……。

 突然、宇宙から来た巨大アスパラガスに身体を女性化させられた少年が、少年の心と少女の心の間で揺れ動きながら、地球を侵略しようとする宇宙からの侵略者に立ち向かう話。そして後半は仲間が集まって戦隊物みたいになるけれど、メンバーの女性全員が性転換した少年というのがミソですね。セーラームーンかプリキュアかというシチュエーションで、メインキャラクターが全員女性化した元少年。ほとんど主人公たちを騙し討ちで戦いにかり出すネコのようなメッセンジャーなんて……。

 当時の少年マンガといえば「風魔の小次郎」「よろしくメカドック」「キャプテン翼」「3年奇面組」「コータローまかりとおる!」「あした天気になあれ」「Gu-Guガンモ」「はしれ走」「六三四の剣」「タッチ」「ふたり鷹」……。
 学園バトルかスポーツ根性もの、そしてギャグ。好きな作品は多いけれど、正統派のSFはほとんどありません。「コスモス・エンド」は短期だし、「ラブZ」はなんか違う。「どっきりドクター」なんかSFテイスト満点ですが、やはりコメディ寄り。
 ことSFやファンタジー作品に限っては、少女マンガの方にヒットする良作が目立った気がします。
 コミック2巻の表紙がフラゼッタの作品がモチーフというのも泣かせます。

【すーぱーアスパラガス】【立原あゆみ】【ひとみコミックス】【秋田書店】【男女転換SF】【美少女戦士】【侵略】【性転換】【機械仕掛けの猫】【バレーボール】
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「2年4組転入生の乱」 成田美名子

2007-08-26 | 学園小説(不思議や超科学なし)
 明日香とランで盛り上がってしまった小学生時代、はみだしっ子で話題をつくった中学生時代。高校時代に何が来るかというと……成田美名子が来るのですね。
 高校入学して部活を新聞部にしようと決め、新聞部室に向かったところ、すぐ前をクラスメイトのODA様が歩いているではありませんか?
「どの部に入るの?」
「……新聞部」
「いっしょだね!!」
 これが僕とODA様の出会い。彼が1つ隣の席に座っていた僕の顔を覚えていなかったことは許してあげましょう(半年後に1つ前の席に座っていた女の子の顔さえ覚えていなかったんだから……)。
 そのODA様から勧められたのが、成田美名子。さすがに少女マンガとは手を切ろうとしていたんですが、高校生男子が読んでも普通に面白かったんですよ。コメディ要素を持ちながら、基本的には青春物で、アニメやSF映画がネタでちょくちょく使われるのです。
 『あいつ』とか『エイリアン通り』とかはリアルタイムで追いかけましたが、いちばん好きだったのは『2年4組転入生の乱』と『2年4組その逆襲』(本屋に行ってLaLaの販促ポスターをもらってきたくらい)。僕にとっての学園物はこれで決まりです。この作品では大ゴマにイデオンが飛んでいたのですよ☆ それに複数の作品に登場するサブキャラの楡崎さんは実はSF作家志望という設定。
 それでLaLaなどという雑誌を読むようになり、ひかわきょうこのラブコメなんかに染まっていくわけですが……ひかわきょうこの『彼方より』が2004年度の星雲賞を獲りましたよ! やっぱり少女マンガはSFだったのです……んなこたないって 
 それで成田美名子に染まったまま大学に行ったので、成田美名子のアリス・トレーナーを着て勧誘していた漫画研究同好会に入ってしまったのも当然の成り行きかも……。

  1980年10月号のポップが出てきました(物持ちいいなぁ…)。
 まずメインが成田美名子の『その逆襲』。この頃はいろんなマンガ家が背景に好きなアニメや映画のキャラやアーティストを描き込んでましたね。『宝島』のジョン・シルバー、YMO、スターウォーズ、稲妻フラッシュにイデオン……。そうやって自分はこういう作品が好きなんだと読者に訴え、それに読者が応えていた時代ですな。さえぐさじゅんがカットを描いていた「花とゆめ」の占いコーナーなんか、1年くらい『カリオストロの城』のキャラクターが占拠してました。
 成田美名子に続くのが、可愛い登場人物たちが哲学っぽい問答を繰り返したり思索にふける三原順、美青年がうじゃうじゃ出てくるコメディが得意で後にサッカーマンガ『シャンペン・シャワー』をヒットさせるかわみなみ、上海とかフィレンツェとか歴史物が得意な森川久美。
 そいで付録がチビ猫びんせん。ネコ耳キャラの元祖オリジナル。書誌学的に無視できない存在ですぞ(うそ)。
 連載ではメルヘンチックな『小さなお茶会』から大河ファンタジー『幻獣の國物語』まで何でも来いの猫十字社が、「壁を蹴倒しゃ、みな隣、回してちょーだい、美少年」と今も人気の根強い『黒のもんもん組』を連載中で、SFやファンタジー色の強い短編が面白い坂田靖子、今や星雲賞作家のひかわきょうこがバリバリのラブストーリーを描いてますね。
 面白いSFマンガを読んだり、アニメや映画の話題について語り合いたいなら、とにかく少女マンガ!……という時代なんですよ。だいたい坂田靖子だって『ヒューイ・デューイ物語』……ヒューイ・デューイって誰(何)なんだよ!?
 誌面構成としては、今の『メロディ』みたいな感じですが……やっぱ中身は別物ですね。作家側の飢餓感がないから。

【2年4組転入生の乱】【2年4組その逆襲】【成田美名子】【ハン・ソロ】【イデオン】【拷問室】【YMO】【少女マンガ】
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「秘密の動物誌」 フォンクベルタ&フォルミゲーラ

2007-08-26 | エッセー・人文・科学
 『……この種は、約4000万年前の始新世に見られた普通のバシロサウルスときわめてよく似ているため、当初私は活きている化石を発見したのだと信じた……』

 一時期、『鼻行類』に代表される、架空生物研究書に凝っていた時期があって、そのときに購入した1冊。羽のある象、足の生えた蛇、巨大海獣など奇妙な動物の発見と観察記録の記録集。
 もちろんすべてフェイクなのだけれど、これが『鼻行類』や『平行植物』などの先行類似書と一線を画すのは、文章と図版だけではなく、解剖標本・骨格標本、剥製、捕獲写真、解剖図、水中写真の写真、スケッチ、レントゲン写真、発見された当時の記録等、いかにももっともらしく見える資料のみを提供しているところ。
 唯一、インチキくさかったのが、動物の写真ではなく、それらを研究する科学者のポートレイトだったというところがポイント。いかにも若造がつけひげで誤魔化してますといった感じで……。

 この手の本は、それが何でどういう形式であろうと、できる限りもっともらしく、たとえウソと判っていても"もしかしたら…"と思わせるだけの説得力を与えようとしているから面白いのですね。この本の発刊以後、似たような架空の動物写真集とかが出ていますが、その方面でこれを越えるものはなかなか現れません。面白いものは幾つかあるんですけれどね。
 パソコンRPGでは、飲まず食わずで500年も地底の奥底で冒険者を待ちかまえている伝説の魔獣とかがときどき登場します。「おいおい…」と思わず突っ込みたくなるような話です。
 たとえ架空世界であっても、1つの生き物が存在するには、どこかに棲み、何かを食べ、どうやってか繁殖する必要があります。毛皮の色や姿形でさえも進化の結果です。もしも何も食べない、不老不死でたった1匹の存在であるというなら、それを補完する設定が必要です(たいてい魔法か神の力で生まれたことになってます)。
 実在の生物でも、その存在が確認されるまでは伝説の生き物に過ぎなかったことは『世界動物発見史』(ヘルベルト・ヴェント)などにも詳しいですが、逆のこともいえるのです。荒唐無稽な想像の産物であっても、しっかりとその存在を世界に焼き付けることができれば現実の存在に等しくなるのです。

【秘密の動物誌】【ジョアン・フォルケンベルタ】【ペレ・フォルミゲーラ】【筑摩書房】【ちくま学芸文庫】【荒俣宏】【動物学者ペーター・アーマイゼンハウフェン博士】【偽書】
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「平行植物」 レオ・レオーニ

2007-08-26 | エッセー・人文・科学
 鼻行類と似た体裁をとっているのがレオ・レオーニの『平行植物』。ウミヘラモやプリズムソウなど現実に存在しない植物を収集分析し、その図版等とともにその研究過程で学会で巻き起こった論争の顛末を紹介しています。
 もっとも『鼻行類』があくまで「もしかしたら本当に存在したのかも…」と思わせているのに対し、『平行植物』は回りくどい言い方で(文学的といいますが)"無実体"であり、"写真などでは記録できず、ただ文字においてのみ可能"と解説するなど、暗にフィクションと告げてはいるんで、やや文学寄り。
 ウィキペディアによると『アフターマン』『鼻行類』と共に生物系三大奇書と呼ばれているそうだけれど、それはちょっと評価が高すぎるような気がしないでもありません。個人的には『秘密の動物誌』の方を押したいところです。

【平行植物】【レオ・レオーニ】【偽書】
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「鼻行類」 ハラルト・シュテュンプケ

2007-08-26 | エッセー・人文・科学
 南太平洋のハイアイアイ島にはマダガスカル島やオーストラリア大陸のように他の世界から孤立していたため、他の地域では見られない独自の生態系が残されていた。だが鼻行類…この島独自の進化を遂げたほ乳類は、核実験により島もろとも消失した…。

 ナゾベームと呼ばれる小動物をご存じでしょうか? ゾウのように長く伸びた鼻を複数持ち、それを器用に使って逆立ち歩きする生き物です。ナゾベーム以外にも、この島にはさまざまなハナアルキたちが棲息していました。
 この生態系ごと消え去ってしまった鼻行類について、残された資料を再構成してまとめた報告書……といっても、もちろんすべて架空の存在。最後までネタばらしせず、こういう島にこういう特異な生態系が存在していました、今は核実験で島ごと消えてしまいました、おわり!という研究レポートの形式を貫いた歴史的怪作なので、知らない人は鵜呑みにしそうで怖いですね。
 その"鼻を使って逆立ち歩きする"というインパクトのある形態とあまりにもっともらくし(終始一貫して)論文形式が貫かれた体裁のため、原典であるハラルト・シュテュンプケの研究論文『鼻行類』以外にも、ちょくちょく不思議な生き物の代名詞として姿を現しています。

 そして架空の生物をつくるなら、単に生き物だけをデザインするだけで済ませるのではなく、それが生息する生態系、あるいはそれを取り巻く人間の社会や歴史とのかかわりまで作らなければ「嘘っぽくなる」ということを教えてくれる空想世界創作のテキストともいえます。
 我々にいちばん馴染みが深いのは、PBM『蓬莱学園の冒険!』での登場でしょう。どんな不思議な生き物でも棲息しかねない(PBMの舞台である)宇津帆島を表現するのに使われていました。
 もうちょっと古くなると、柴田昌弘のコミック『ミッシング・アイランズ』にも登場しています。柴田昌弘は最近では「アワーズ」などの青年誌で活躍していますが、元々は「別冊マーガレット」でデビューした漫画家。やがて「花とゆめ」に移りますが、少女マンガ雑誌上で、当時では少年誌でも珍しかったSF色を前面に出したアクション作品を書き続け、代表作『ブルー・ソネット』の登場人物を明らかにモデルにしたNPCが『クレギオン#1』に登場するなど、少女誌時代から男性ファンも多い作家でした。その柴田昌弘の短編で舞台となったのは、ハイアイアイ島そのもの。事故でタイムスリップしてしまった主人公たちが、核実験で消滅する前に島から逃げ出そうとする話でした。

 そんな架空生物の代表である鼻行類についての本が手に入るなんて夢のようです。自分の持っているのは1987年の思索社版ではなく1995年の博品社版ですが、今は平凡社ライブラリー版が普通に手に入るという良い時代です。しかも書店をあちこち探し回らなくても、アマゾンドットコムでポチッとな♪で買えてしまうという素晴らしい時代です。文明の進歩に感謝。

【鼻行類】【新しく発見された哺乳類の構造と生活】【ハラルト・シュテュンプケ】【ミッシング・アイランズ】【秘境】【偽書】【ナゾベーム】【ハナアルキ】
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「魔女の鉄槌」 ジェーン・スタントン・ヒッチコック

2007-08-26 | 本屋・図書館・愛書家
 焚書とは書物を焼き捨てること。ただ燃やすというより組織的に言論を弾圧したり思想統制する際におこなわれるものを意味するもので、"それがどんな内容であろうと、文明人には許されない蛮行"と糾弾される行為です。古くは秦の始皇帝からナチスドイツまで。サリンジャーなんかが伝統的宗教観に反する不道徳な内容とかでアメリカでやり玉にあがったという話もありますし、最近の成年向け書籍の規制強化なんかも一歩間違えると焚書ですね(法律は犯罪を取り締まっても思想を取り締まってはいけないと思います)。
 こういうのは、まともな本が権力者や有力者の意に(あるいは善良な市民の道徳観に)添わない内容であったために抹殺された(されようとした)例ですが、あまりに邪悪で危険なために弾圧されたものもあります。

 小説『魔女の鉄槌』は『マレウス・マレフィカールム(魔女の鉄槌)』と呼ばれる実在の書物をめぐる争奪戦を描いたものです。この本は魔道書とも言われていましたが、意味的には"魔女への鉄槌"。魔女をいかに見つけ、判定し、処罰するかを書いた、つまり魔女狩り、異端審問のバイブルで、この本があったからこそ魔女狩りが始まったとも言われているそうです。

 この話はあるコレクターが殺され、1冊の稀覯本が行方不明になるところから始まります。父親を殺した犯人を追う娘は、逆に書物の行方を探す正体不明の敵に狙われるようになります。実はこの本は第二次大戦末期にバチカンより盗み出されたもので、他に現存する『魔女の鉄槌』とは違い、ある秘密の手がかりを記したメモが残されたものだったのです。これを探す一団は政財界のトップを支持者に持ち、現代でもフェミニスト運動家やリベラル派議員など"古き良き伝統" を脅かす人間を"魔女"として宗教裁判にかけ処刑し続けています。家族が、友人が、警察が魔女狩りの一員かもしれないし、そうでなければ動きが悟られ次第抹殺されてしまいます。もはや誰も頼れません……。

【魔女の鉄槌】【ジェーン・スタントン・ヒッチコック】【角川文庫】【古書】【魔女狩り】
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「画商デュビィーンの優雅な商売」 S.N.バーマン

2007-08-26 | 伝記・ノンフィクション
 『ギャラリーフェイク』でも暗に示唆されることは多かったけれど、絵の価値というものについて正面から叩きつけられたのが『画商デュビィーンの優雅な商売』。目から鱗が落ちた感じ。

「高く買えば買っただけ、それがあなたのコレクションの価値になるのだ」

 この発想! 絵の価値は買った金額相応なのだというバブルばんざい!な発想。

 20世紀初頭のアメリカで、栄華の頂点をきわめたアメリカの独占資本家たちを相手にヨーロッパの名画を売りまくった英国人画商の、詐欺ではないけれど、限りなく詐術に近いビジネスの記録。

 良いものを安く仕入れて高く売るのですらなく、とにかく安く仕入れて高く売る。安い絵画を高く売りつけられたと知って腹を立てる購入者に、その絵画に価値をつけるのはあなただと逆にプライドをくすぐって木に登らせる話術の妙。
 掘り出し物を安く買えたと喜んでいるうちは、コレクターにはなれないのかも……。

【画商デュビィーンの優雅な商売】【S.N.バーマン】【ちくま学芸文庫】【天才セールスマンの商売の秘訣】【美術界の帝王】【美】【取引】
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「せどり男爵数奇譚」 梶山季之

2007-08-26 | 本屋・図書館・愛書家
 世の東西をとわずコレクションにかける人間の執念には恐ろしいものがあります。通夜の席に乗り込んで故人のコレクションの買い取り交渉に入るとか、偽名匿名、詐欺から窃盗までなんでもあり……というか、そういうエピソードで本が幾つも書かれています。他の美術品蒐集家なんかとはちょっと違う気がします。
 そんな古書蒐集家の中に、せどり師と呼ばれる収集者がいます。自分自身のためというよりも、高く転売できそうな古書をあちこちの店頭で背表紙だけ見て取っていく……という人たちですね。梶山季之の『せどり男爵数奇譚』(ちくま文庫)を読んだ頃は、せどり師なんて初耳だったのですが、一度聞くとあちこちで耳にするようになるのが不思議です。

【せどり男爵数奇譚】【梶山季之】【古書】
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「恐怖の黄金時代~英国怪奇小説の巨匠たち」  南條竹則

2007-08-26 | ホラー・伝奇・妖怪小説
★幽霊小説の3原則

1. 話の舞台は読者に親しみのある場所にすること。
2. 幽霊は悪意を持っているか、忌まわしい存在でなくてはいけない。
3. オカルティズムの専門用語は使わない。

 M.R.ジェイムズによる幽霊小説で読者を怖がらせる原則。

「恐怖の黄金時代~英国怪奇小説の巨匠たち」★★★

【幽霊】
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「ザ・ホワイトハウス」 製作総指揮:アーロン・ソーキン

2007-08-26 | その他フィクション
 NHKのBSで視た『ザ・ホワイトハウス2』。つい面白くて、夫婦で追いかけたあげくサードシーズンまでのDVDをそろえちゃいました。
 もともと、「場所」が真の主人公で、そこに出入りする複数の登場人物の行動を語るという「グランド・ホテル形式」の作品は好きなんだけれど、『ER~緊急救命室』はまったく見ませんでした(面白いとは思ったけど、続けてみたいとは思わなかった)。でも、マーチン・シーン演じるバートレット大統領とそのスタッフを中心にした政治ドラマは視てしまうんですよね。
 「有権者がかならずしも正しい判断をするわけではない」から支持率を気にしていては正しい(と思う)政治はできないけれど、無視していては足下をすくわれる。これこそが憲法解釈としても倫理的にも正しいはずの法案が通せないけれど、反対派の論理も絶対に間違っているとはいえない。1つの情報についての分析は一致しているのに、結論がまったく逆になってしまう……。(現実に妥協しながらも)権力者が夢や理想を追いかけていく物語を真面目に作れるところがアメリカだなあと羨ましく思ってしまいます。日本だと歴史物ならともかく現代物ではファンタジーとしか作れません。だって、現代日本の政治家の言葉遣いのあやふやさ。内閣官房長官あたりの下向いて横向いて原稿見ながら自信なさげにぼそぼそ喋る記者会見を見ていると、『ザ・ホワイトハウス』における報道官らの毅然としつつもウィットに富んだスピーチの光景はファンタジーでしかありえません。

 テレビドラマでは『クニミツの政』、コミックでは『Be Free』あたりは「将来は総理大臣…」で逃げています。日本の総理大臣が職務を遂行する話というと、業田良家の『ヨシイエ童話』だとか志野靖史の『内閣総理大臣織田信長』……内容はすごくまともですけれど、表現はギャグ。影木栄貴の『世紀末プライムミニスター』は結局、恋愛メインの単なる少女マンガですし……。
 政治に対して屈折した思いしか描きにくい国なんですね。僕だって、日本の総理大臣が主役で、コメディでもメルヘンでもギャグでもラブコメでもホラ話でもなく、政治を真っ正面から描いたカッコイイ物語……と言われたら途方に暮れちゃいます。(2007/08/26)

 2008年放映の木村拓哉の『CHANGE!』も基本コメディ調でした。惜しい。そもそもその気がなかった素人が親の跡目に担ぎだされ、あれよあれよという間に総理大臣になるという時点で日本的過ぎ。親の姿を見て育った子供が、親と同じ職業を志すというのは普通の話であり、親と同じ職業なためにノウハウとかハード面で有利になるというのは医者でも床屋でも八百屋でも町工場でも新聞記者でも同じであって、世襲制限なんてするもんじゃないのが物の道理。でも、なあ……。(2009/06/04)

 この話の教訓は、いくら頭が良く、志が高く、人望があり、信仰の厚い人物が、優秀で理想を持ったスタッフと共に、世界最大の国家において最高の地位に就いたとしても、できないこと、やれないことばかり……ということですね。

【ザ・ホワイトハウス】【アーロン・ソーキン】【政治】【外交】
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「野獣の都」 マイクル・ムアコック

2007-08-26 | その他SF(スコシフシギとかも)
 エルリックやエレコーゼといったヒーローで有名なヒロイックファンタジー作家、マイクル・ムアコックの作品群の中で、何が好きかといえば『野獣の都』です。

 物質移送機を開発していた物理学者マイクル・ケインは、その人体移送の実験に自分を使ったところ大失敗! いや、迷い込んだハエと合体しちゃったとかいう話ではなく、太古の火星へと飛ばされてしまったのだ……
という話。なんかバロウズの火星シリーズと似てますねえ。結末も似ている気がします。

 さて、パルプフィクション時代のスペースオペラの表紙っていうのは、本当に美女がいて、訳の分からないメカがあって、恐ろしい怪物がいて……というパターンが多いのだけれど、それをそのまま日本に持ってきて洗練させると松本零士の描くイラストそのものになるんだよね(さすがにガニマタのメガネ男は出ないけど)。

 ムアコックの『野獣の都』だって、あの全裸の美女シザーラが剣を持っている立ち姿が良いのだ(左から2番目)。もちろん装幀を変えた天野嘉孝版も悪くはないが、好みをいえば高級すぎて重い。松本零士の美女たちの妖艶さと男たちの精悍さがちょうど良いと思う。もちろんバネ式だろうが火薬式だろうがレーザーガンだろうが、拳銃はみんなコスモドラグーンにしか見えないとか、シザーラもシャンブロウも処女戦士ジレルもメーテルもモノトーンで裸体になったら区別が出来ないなんて細かいことは気にしない。

【野獣の都】【マイクル・ムアコック】【松本零士】【ハヤカワ文庫SF】【転送】【ゲーム】【美女】
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「編集狂時代」 松田哲夫

2007-08-26 | エッセー・人文・科学
「部下を働き虫にすること。売れない本はつくらんこと」

 1人の編集者の半生記。
 松田哲夫という人は全然知らなかったのだけれど、『編集狂時代』を読んでいったら、この人の編集した本やかかわった団体をけっこう知っていたのにびっくりした。クラフト・エヴィング商會とか『老人力』とか路上観察学会とか。
 作者と編集者はあくまで別物なんだけれど、なんとなく本人まで知っているような気になってしまいますね。

「編集狂時代」★★★

【編集】
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「ガンパレード・マーチ 5121小隊 九州撤退戦」 榊良介

2007-08-26 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「我々はすでにその動脈すら維持できず……」

 突然出現した幻獣との戦いが続く世界。
 人類は世界の大半から駆逐され、日本列島も九州からの撤退が開始されようとしていた。反攻に備え温存すべく本土へ優先的に送られる精鋭部隊、使い捨ての殿軍として何も知らされないまま孤立していく学兵部隊。


 榊涼介のガンパレもついに九州撤退戦……って、やっぱり九州撤退戦ですか? 撤退しなくちゃダメですか!? 熊本城で頑張ったじゃないですか!! 休戦期が目前に迫ると、歴戦の勇者たちも脆くなります……ということで『5121小隊 九州撤退戦』は表紙もなかなか格好良いです。なんとか休戦期まで持ちこたえて欲しいものです。完結編にふさわしく、今までに登場したサブキャラたちもほとんど総登場で土壇場の人類戦線の一翼を担うことになります。チョイ役のはずの戦車兵たちが良い味を出しています。3077小隊も地味ながら頑張ってます。遠坂と田辺の転籍も、埋没しがちなキャラが活きる結果となり成功。狩谷とか、今ひとつ見せ場のないキャラたちも、サイドストーリーあたりで頑張って欲しいモノです。
 問題は、オフィシャルサイトのネット小説版と内容の被りが大きく、そのくせ差異も大きいので、頭の中で「これはどっちの小説のエピソードだったっけ?」と頻繁に戸惑うこと。それはそれで楽しい戸惑いではあるのですけどね。
 読んで盛り上がった勢いで、広江礼威の『熊本城攻防戦』に突入してしまい、そのまま勢い余ってアルファシステムの『Return to Gunparade』を縦走……。
 やっちゃいけないのに……この流れに身をゆだねると何もできなくなるのに……。榊版や広江版はメインキャラクターたちをしっかり描き込んだ上で、ちらりと出てくる"その他大勢"のサブキャラが印象的。アルファシステム版は裏設定と伏線が入り乱れ、場所も時間も飛びまくって、小説としては巧くないと思うけれど、それ以上に1つ1つのシーンやセリフが魅力的。言ってしまえば全シーンが名場面であり、全セリフが名セリフ。兎や燕や猫進軍に泣こう……

【ガンパレード・マーチ】【5121小隊 九州撤退戦】【榊良介】【末期戦】【無名世界観】
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