1975年という年は今から四半世紀以上前、と表記するとすごく大昔という感じだけれど、個人的には「十年一昔だから二昔くらい?」という感覚。
マンガの世界で1975年というと、少年誌では池上遼一が『男組』で大人気、石ノ森章太郎が『番長惑星』とか『秘密戦隊ゴレンジャー』、永井豪が『おいら女蛮』、赤塚不二夫が『天才バカボン』、山上たつひこが『がきデカ』を描いていた時代。
少女誌でもいろいろ好きな作品があったのだけれど、別冊マーガレット誌では和田慎二が4~5月号に『超少女明日香』を掲載し、8月号には柴田昌弘が『紅い牙~狼少女ラン』を掲載していました。何があった、別冊マーガレット!?……ですね。
少女が主人公のSFアクションで、少年マンガの泥臭さがないってのは凄いよね。男性作家ならではの緻密な背景やメカ描写やアクション、少女マンガならではの繊細なストーリーや恋愛描写。どちらもシリーズ化し、『明日香』はその後も現代に蘇った忍者集団や人工エスパーや宗教結社と戦い、『ラン』はサイボーグ少女や自衛隊の重戦車や超能力者と戦いながら、掲載誌を変えて延々と続くわけです。
この2作品がなければ、マンガなんか小学校で卒業していたかもしれません。これらの作品から少女マンガにのめり込み、そのまま浅く広く使ったまま21世紀に至るわけです。
でも、よく考えてみれば、「狼少女ラン」なんて、石ノ森ヒーロー作品の正統な後継者みたいなものなのでした。話の骨格だけを少女マンガ視点で抜き出してみれば「主人公の少女には出生の秘密があり、そのために愛する者とも結ばれず、関わった人々に不幸を呼びながらも、少しずつ信頼できる仲間たちと出会い、苦難に立ち向かっていく」と少女マンガの王道ストーリーですが、少年マンガ視点では「悪の秘密結社によって生み出された超人が組織と敵対して孤独な戦いを続ける」と、仮面ライダーとかサイボーグ009とも似ています。
少女マンガと少年マンガそれぞれの黄金パターンに、人為的な交配による古代超人類の血の復活、脳改造されて高度な知性を持った犬、若者を対象に音楽メディアを介して行われる洗脳、エスパーサイボーグ、不死のゲシュペンスト、自律型戦闘機械タランチュラ、操作されるマスコミとあれこれ乗せて、本格的なSFアクションに仕立てられていたのでした。話のスケールは大きく、展開はシビアで、登場人物は容赦無しに死んでいきます……。
事件の黒幕、秘密結社タロンも世界各国の軍需産業による複合体という、ほうらい会みたいな設定。それを追い暴こうとする者は次々に謀殺され、社会的に抹殺されていきますし、主人公らが事件を解決してもそれは全体のごく一部に過ぎず、計画そのものは静かに進行していくのです。
番外編でこの狼少女ランと超少女明日香が競演する短編があって、それが見事なメイドものになっているものですから、これを以てメイド萌えの原点としたいのですが?
個人的に好きなキャラは、その短躯へのコンプレックスからサイボーグ技術を完成させた「バイエルンの火星人」ことドクター・メレケス。どう考えても少女マンガ的には存在感の在りすぎる老人の、屈折した情熱と愛情は泣かせます。
さて、同じく1975年に発表された少女マンガの一覧を見てみると、本当に今でも面白いと思えるようなタイトルが目に付きます。つまり読みたい作品を捜していたら、たまたま少女マンガばかりになってしまった、そしたらそれ以外の作品にまで免疫がついてしまった……というあたりかな。
少女マンガ誌で男性作家が好き放題に描いていた時期。『狼少女ラン』『超少女明日香』以外にも弓月光が『ボクの初体験』を発表してます。今は青年誌で活躍している弓月光ですが、やっていることは変わっていません。新妻が脳死状態になったアドルフ・ヒトラーそっくりのマッドサイエンティストが、自殺して身体がボロボロになった青年の脳を移植したことから起きるドタバタ・コメディ。
ゴシックホラーの名作が次々に出た時期。萩尾望都が吸血鬼テーマの連作『ポーの一族』を描き続け、和田慎二が『わが友フランケンシュタイン』という正統派のモンスター漫画やスリラーの『左の目の悪霊』を描いています。
あとは……一条ゆかりの『こいきな奴ら』は双子のエスパーが活躍するアクション・コメディ、またまた萩尾望都のSFマンガの名作『11人いる!』、生半可な小説よりも難解で哲学的な三原順の『はみだしっ子』、後に新谷かおるマンガの女性キャラで馴染みの出てくる佐伯かよの、学園コメディが面白い河あきら、柴田昌弘と線が似ていて馴染みやすかった市川ジュン、SFファンならこれを読めと言われるようになる太刀掛秀子、O・ヘンリーみたいにちょっといい話が面白い文月今日子、……こういう作品で突破口ができると、あとはなし崩し。内田善美だろうが大和和紀だろうが、どんと来いっ!
全般的に、面白いSFやアクションを読みたければ少女マンガ……という時期だったのかも。(2007/8/26 2014/12/02改稿)
【紅い牙 狼少女ラン】【柴田昌弘】【別冊マーガレット】【花とゆめ】【古代文明】【超能力】【サイボーグ】
マンガの世界で1975年というと、少年誌では池上遼一が『男組』で大人気、石ノ森章太郎が『番長惑星』とか『秘密戦隊ゴレンジャー』、永井豪が『おいら女蛮』、赤塚不二夫が『天才バカボン』、山上たつひこが『がきデカ』を描いていた時代。
少女誌でもいろいろ好きな作品があったのだけれど、別冊マーガレット誌では和田慎二が4~5月号に『超少女明日香』を掲載し、8月号には柴田昌弘が『紅い牙~狼少女ラン』を掲載していました。何があった、別冊マーガレット!?……ですね。
少女が主人公のSFアクションで、少年マンガの泥臭さがないってのは凄いよね。男性作家ならではの緻密な背景やメカ描写やアクション、少女マンガならではの繊細なストーリーや恋愛描写。どちらもシリーズ化し、『明日香』はその後も現代に蘇った忍者集団や人工エスパーや宗教結社と戦い、『ラン』はサイボーグ少女や自衛隊の重戦車や超能力者と戦いながら、掲載誌を変えて延々と続くわけです。
この2作品がなければ、マンガなんか小学校で卒業していたかもしれません。これらの作品から少女マンガにのめり込み、そのまま浅く広く使ったまま21世紀に至るわけです。
でも、よく考えてみれば、「狼少女ラン」なんて、石ノ森ヒーロー作品の正統な後継者みたいなものなのでした。話の骨格だけを少女マンガ視点で抜き出してみれば「主人公の少女には出生の秘密があり、そのために愛する者とも結ばれず、関わった人々に不幸を呼びながらも、少しずつ信頼できる仲間たちと出会い、苦難に立ち向かっていく」と少女マンガの王道ストーリーですが、少年マンガ視点では「悪の秘密結社によって生み出された超人が組織と敵対して孤独な戦いを続ける」と、仮面ライダーとかサイボーグ009とも似ています。
少女マンガと少年マンガそれぞれの黄金パターンに、人為的な交配による古代超人類の血の復活、脳改造されて高度な知性を持った犬、若者を対象に音楽メディアを介して行われる洗脳、エスパーサイボーグ、不死のゲシュペンスト、自律型戦闘機械タランチュラ、操作されるマスコミとあれこれ乗せて、本格的なSFアクションに仕立てられていたのでした。話のスケールは大きく、展開はシビアで、登場人物は容赦無しに死んでいきます……。
事件の黒幕、秘密結社タロンも世界各国の軍需産業による複合体という、ほうらい会みたいな設定。それを追い暴こうとする者は次々に謀殺され、社会的に抹殺されていきますし、主人公らが事件を解決してもそれは全体のごく一部に過ぎず、計画そのものは静かに進行していくのです。
番外編でこの狼少女ランと超少女明日香が競演する短編があって、それが見事なメイドものになっているものですから、これを以てメイド萌えの原点としたいのですが?
個人的に好きなキャラは、その短躯へのコンプレックスからサイボーグ技術を完成させた「バイエルンの火星人」ことドクター・メレケス。どう考えても少女マンガ的には存在感の在りすぎる老人の、屈折した情熱と愛情は泣かせます。
さて、同じく1975年に発表された少女マンガの一覧を見てみると、本当に今でも面白いと思えるようなタイトルが目に付きます。つまり読みたい作品を捜していたら、たまたま少女マンガばかりになってしまった、そしたらそれ以外の作品にまで免疫がついてしまった……というあたりかな。
少女マンガ誌で男性作家が好き放題に描いていた時期。『狼少女ラン』『超少女明日香』以外にも弓月光が『ボクの初体験』を発表してます。今は青年誌で活躍している弓月光ですが、やっていることは変わっていません。新妻が脳死状態になったアドルフ・ヒトラーそっくりのマッドサイエンティストが、自殺して身体がボロボロになった青年の脳を移植したことから起きるドタバタ・コメディ。
ゴシックホラーの名作が次々に出た時期。萩尾望都が吸血鬼テーマの連作『ポーの一族』を描き続け、和田慎二が『わが友フランケンシュタイン』という正統派のモンスター漫画やスリラーの『左の目の悪霊』を描いています。
あとは……一条ゆかりの『こいきな奴ら』は双子のエスパーが活躍するアクション・コメディ、またまた萩尾望都のSFマンガの名作『11人いる!』、生半可な小説よりも難解で哲学的な三原順の『はみだしっ子』、後に新谷かおるマンガの女性キャラで馴染みの出てくる佐伯かよの、学園コメディが面白い河あきら、柴田昌弘と線が似ていて馴染みやすかった市川ジュン、SFファンならこれを読めと言われるようになる太刀掛秀子、O・ヘンリーみたいにちょっといい話が面白い文月今日子、……こういう作品で突破口ができると、あとはなし崩し。内田善美だろうが大和和紀だろうが、どんと来いっ!
全般的に、面白いSFやアクションを読みたければ少女マンガ……という時期だったのかも。(2007/8/26 2014/12/02改稿)
【紅い牙 狼少女ラン】【柴田昌弘】【別冊マーガレット】【花とゆめ】【古代文明】【超能力】【サイボーグ】