付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「Dジェネシス ダンジョンが出来て3年 01」 之貫紀

2020-02-09 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「境界っていいよね。あいまいで。私は好き」
「大人と子供の境目も、宇宙と地球の境目も、モラトリアムな場所は、一見何かを決めなくちゃいけないように見えるけれど、それが終わるまでは何も決めなくても許される。だから居心地がいいのかな」

 それが斎藤涼子の本性。

 世界にダンジョンが出現するようになって3年。
 営業の不始末を押しつけられたあげく責任まで取らされそうになった研究者の芳村圭吾はあっさり退社を決意。後輩の三好梓にだけはダンジョンに潜って生計を立てると教えた。偶然の結果だろうが、ダンジョン探索に有効なスキルを手に入れた彼には勝算があったのだ。
 そんな芳村に三好は自分も会社を辞めて彼のエージェントになると言い出した。
「先輩に寄生してピンハネする気満々の近江商人です!」
 かくして研究者気質に近江商人の魂を宿した二人組がスローライフを志し、今なお人類が深層攻略を果たしていないダンジョンに挑むのだが、それは世界を大きく変えていくことになる……。

 息の合ったコンビだけれど不思議に恋愛臭のない男女が、真っ向からダンジョンに挑む他の冒険者を尻目にマイペースに検証を積み重ねていく、空想科学冒険小説。話を知らないうちの子が表紙を見て「シティーハンターみたいだね」と言ったけれど、言われてみたらメインの人物関係の配置がそれつぽくはあるよね。
 いろんなモンスターを相手にレベルをあげて凄い技で倒していく!……みたいな話ではなく、モンスターバトルはほとんどないけれど、緩急がついた展開で飽きさせず、スピーディーに物語は二転三転していきます。ダンジョンが存在している現代日本の話は最近多いけれど、その中でも面白さはベスト。衒学趣味がかなり効いていて注釈も多数。税制に関する論評はその通りだと思います。実在の社名や人名に、これまた少し似た名前の架空のブランドや店の名前とか混じってきて妙にリアルですし、ロジカルにしてコミカル。ウェブ版に君津二尉のエピソードとか、今まで語られていなかったけれどこういう動きは当然あっただろうなという挿話がはさまれ、かなり手が加わって内容も深まってます。
 中身も最高だけれど、本作りにも手を抜いてないので奥付を確認したらちゃんと担当者の名前が入ってました。うん。細かいところまで手を抜かないプロの仕事です。ウェブ小説の書籍化で、これ以上は望めないんじゃないかな。早くも今年いちばんのお薦め作品です。
 専用サイトもかっこいいよ。

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