付け焼き刃の覚え書き

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「10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた」 坂東太郎

2020-10-07 | 異世界転移・召喚
 無職で引きこもり歴10年の北条雄二は、両親の死をきっかけに引きこもり脱却を決意し、家の外に出るが、そこは見覚えのない世界。ファンタジー生物が闊歩する異世界の密林だった。
 なぜか繋がるライフラインとネットを頼りに、ユージは愛犬コタローとともに生きていく覚悟を決めるのだが……。

 書籍化されたけれど、書籍版は大幅な改変がされて別物になっちゃってるので、読み返すときはウェブ版です。
 異世界に来てしまったけれど、なぜかライフラインは保証されているというのが大前提。しかもインターネット回線は普通につながっているので、通販を頼んでも品物は届かないけれど情報は行き来できるので、そこでサバイバルに必要な情報を手に入れていくというのが骨格です。これだけだと、よくある現代世界にインフラ依存して異世界で無双するパターンですが、この話の特色は現代日本側にあります。
 最低限の衣食住を確保して、手探りながら異世界のんびり開拓していく主人公に対して、その主人公からの掲示板への書き込みは最初はネタとしてはやし立て観測しているだけだったネット民、掲示板の住人たちが、その投稿内容を暇つぶし半分で検証していくうちに信じ始め、ネットを通じてなんとかバックアップできないかと試行錯誤し始めてからが本番です。いわゆる「電車男」パターン。
 主人公のユージは思わぬ異世界転移で引きニート脱出となりますが、掲示板の向こうの人々も1人1人いろんな悩みや葛藤を抱えていて、引きこもっていたり、人生脱落しかけていたにも関わらず、ユージを応援しようと動いていくうちに自分たちの殻を破り、思わぬ出会いがあり、1歩ずつ新たな道を歩み始めるダブルストーリーなのです。
 異世界で空から襲ってくる魔物に立ち向かうのも冒険なら、他人との接触が怖くて引きこもっていたような人間が夜中に家を出て買い物に出られるようになるのも冒険。そういう人間が全国から集まって、なにか大きなイベントを仕掛けるところまでいけば大冒険。さらに、そういう活動を通じて同性や異性の友人ができたら、完璧なサクセスストーリーってもんです。
 この異世界と現代の交錯するさまが、実に面白くて爽快なのです。

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