付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「我ら濁流を遡る」 駒崎優

2010-06-08 | 架空戦記・仮想戦史
「人生なんてものはな、濁流を手探りで遡っているようなものなんだよ」
 深みにはまるか宝を見つけるかはやってみなけりゃわからない。余計なことは考えないで生き延びることだけ考えろと傭兵隊長ジア・シャリース。

 国境線上の小競り合いに傭われた傭兵隊。だが彼らには先約があった。それは妊婦とそのつきそいを故郷へ連れて行くだけの、行程3日ほどの簡単な仕事だったのだが……。

 傭兵隊バングル・アード=ケナードの物語の4冊目。
 本屋の新書コーナーを物色していて気になって手に取り、ぜんぜん読んでいないシリーズの4冊目をいきなり読んだらダメだろう!?……と思ったけれど、読んだら普通に面白く読めてしまいました。表紙に男どもの後ろ姿が描かれているところがポイント。
 陽気で不屈で有能なむさくるしい傭兵たちと白い狼の物語。剣はあるけれど魔法も超能力もなく、敵も人間ばかりという話で、架空世界であってもファンタジーに分類したらいけない気がする話です。話の内容も、当事者には生死が賭かった戦いでも、大局的には国境線の川を挟んだ小競り合いにすぎないというのも地味さが引き立つポイントです。

【我ら濁流を遡る】【駒崎優】【ひたき】【護衛任務】【渡河阻止】【愚劣指揮官】【娼館】【古参兵】
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「六百六十円の事情」 入間人間

2010-06-07 | 食・料理
「なにかを与える代わりに、なにかをもらえる。そういう交換が成立するのが、社会に生きる人間っていうものだ」

 インターネット上のローカルなコミュニティの掲示板に書き込まれた、『カツ丼は作れますか?』のひとことから動き出す老若男女の物語。

 シニカルな青春群像といえばそうなんだけれど、そんなに重い雰囲気にならないのは、誰も否定されていないから。
 章ごとに別々の男女が主人公となるのだけれど、みんなそれぞれに宙ぶらりんの半端な位置に生きている。何をしたいかわからない、こんな生き方でいいとも思えない、こんな毎日は耐えられない……世間一般の基準でいえば、困った人、ダメな人たちではあるけれど、決して存在は否定されない。逆に、するべきことをしている普通の人たちにしても、そんな生き方が面白いのとか、それだけが人生ではなかろうというように否定されない。仕事をしていないから、仕事しかしていないから、そんな理由だけでは人生を否定されない。
 どれも同じ人生の中の一形態にすぎないから、閉塞感や焦燥感の中でもがいてみれば、なんとなく道は開ける。あの人と自分は違うと認識しても拒絶するのではなく、適当な立ち位置を見つけることができる。
 そう考えると、状況分析についてはシニカルながら、未来と人間関係については楽観的な話だ。むしろ眼差しが温かい。
 後半に老人が主役となって物語は一気に加速し、それぞれ別々の物語だった男女の人生が集まり始め、最後は食堂のテーブルに集結して物語は1つになる。
 だから、読み終わって、もう一度最初から読み直したいと思ってしまう。登場人物たちの過去と現在と未来を追体験するために。そして、この絶妙な構成と伏線を確認するために。

「愛はギャンブルだ。時間をチップにして、僕らは自分の望む形のそれが見つかると信じて人生を消費している」
 なんとなく働かない日々をおくっているだけの各務原雅明。

 ビートルズネーチャンの生き様も一篇の映画のようだし、今だって十分に恥ずかしいという自覚があるのに将来思い出したら憤死間違い無しの処女と童貞の第二章、「生きているだけで、恋。」ってのも苦笑しつつも何度も読み返してしまう。キャラクターがどれも活き活きしているから。

 ただ1点ひっかかったのは、肝心の「カツ丼」についての描写がほとんどないこと。もう少しさくさくっとした衣に肉汁のしみ出る豚肉、きらきら光る白米にしみこむたっぷりの出しつゆ……といった描写があるかとおもったのだけれど、ほぼ皆無。もう少し、どんな風に作られたどんなカツ丼か言及されてもいいんじゃない?と思わないでもなかった。
 けれど、あらためて読み返してみると、カツ丼それ自体の描写がないからこそ、ひとりひとりのカツ丼を想像できるのだし、最後に厨房から聞こえてくる音と漂ってくる匂いが印象深くなるような気がしてきて、これも計算のうちなのかと思い始めたのは作者の術中にはまったのか……。

【六百六十円の事情】【入間人間】【宇木敦哉】【フォレスト・ガンプ】【主人公】【万引き】【透けブラ】【家出】【ニート】【ドラゴンボールZ】【ボンカレー】
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「火星のプリンセス」 エドガー・ライス・バローズ

2010-06-06 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 バローズの『火星のプリンセス』といえば異世界を舞台にした冒険活劇の代名詞であり、創元文庫版の武部画伯による表紙イラストときたらまた絶品なのではあるけれど、岩崎書店の新版もなかなか悪くないと思います(旧版は沢田重隆)。また10年もして「自分は山本貴嗣のイラストでバローズにはまりました」というSF者が出てくると面白いな。
 創元推理文庫版が武部画伯から切り替わったのが残念。合本版と区別するためなのかな。

 南北戦争も終結し、今はアリゾナで金鉱探しとなっていた南軍の騎兵隊大尉ジョン・カーターは、洞窟の中で死に瀕していたかと思うと次の瞬間には火星の大地に立っていた。
 四本腕の緑色人や地球人そっくりの赤色人たちの国が覇を競って戦いを繰り広げている火星を舞台に、ジョン・カーターは囚われの美女デジャー・ソリスを守って獅子奮迅の大活躍をするのだが……。

 わが家の長男が小学生だった頃、岩崎書店の冒険ファンタジー名作選が差し入れされ、それを寝物語に読み聞かせてやったものだけれど、親子でカーターとタルス・タルカスごっこはしなかったなー。
 今は小学4年の三男がこそこそ読んでいるらしいけれど、あまりはまらなかった様子。宿題の読書感想文に「これで書く」と光瀬龍の『作戦NACL』を持ってきたのには笑ったけれど。(2012/09/20改稿)

【火星のプリンセス】【エドガー・ライス・バローズ】【武部本一郎】【山本貴嗣】【火星の王女】【創元推理文庫】【岩崎書店】
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「明日葉-Files1」  本田透

2010-06-05 | 日常の不思議・エブリデイ・マジック
 本文のほとんどが本筋とほとんど関係のないウンチクとかで埋め尽くされる話はキライじゃない。小林信彦のオヨヨ大統領シリーズなんて、ほとんどそうだものね。
 ただ、オヨヨが日活アクション映画とかテレビ業界黎明期の裏話とか美食話で埋まっていたのに対して、こちらは超常現象。日本のピラミッド、2012年人類滅亡説、竹内文書、モーゼの墓、UFO、そしてチャンピオンカレーとゴーゴーカレーとターバンカレーの系譜について……。
 さらに要所要所に挿絵ではなく、参考文献として太陽の石の写真やらハアブ暦の象形文字一覧などが挿入され、まさしく「月刊『ムー』編集部推薦」の帯にウソはない。……そうか。オヨヨ・シリーズも当時の写真とか収録して新装版を出せばいいんじゃないか!

 ウソがつけずに新聞社の政治部から系列出版社のオカルト雑誌編集部に飛ばされた主人公が、超常現象肯定派のトンデモ美少女編集長に振りまわされながら、石川県のUFO目撃情報を検証していく話。
 こういうヒロインはキライなんです。穴だらけのロジックで詭弁を振りまわし、他人の冷静な指摘に自分の矛盾点をつかれても「それはささいなことよ」とスルーするような、人の話を聞かないやつはダメなんだよ……。
 話そのものは面白かったのでプラスマイナス・ゼロ。続刊が出たらどうするかは、そのとき考えましょう。

【明日葉-Files】【本田透】【miz】【金沢カレー】【コスモアイル羽昨】【政治献金擬装】【ポルターガイスト】【阪神淡路大震災】【ゆるキャラ】
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「氷上都市の秘宝」 フィリップ・リーヴ

2010-06-04 | 破滅SF・侵略・新世界
 移動都市クロニクルの3巻目……って、あれ? 2巻目の『略奪都市の黄金』の感想を書いてないなあ……。

 崩壊する移動都市ロンドンから脱出したトムとヘスターが氷上でアンカレジに拾われ、結婚して10余年。一人娘のレンが盗賊ロストボーイの口車に乗って本を持ち出したまま行方不明になったため、トムとヘスターは追跡の旅に出るのだが……。

 世間の厳しさを知らない子供が周囲に迷惑をかけまくりながら都市間戦争に巻き込まれていく話。完結編直前ということで、主人公グループはてんでばらばらになって窮地に陥ったまま「つづく」なので、未読の人は完結編を待った方がいいかも。
 死屍累々かと思うと死んだと思われていたのが復活したりと、予断を許さない展開です。

【移動都市】【フィリップ・リーヴ】【創元SF文庫】【ロストテクノロジー】【浮浪児狩り】【攻撃衛星】【天才少女】
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「ダンタリアンの書架2」 三雲岳斗

2010-06-03 | 本屋・図書館・愛書家
「ものの値打ちを決めるのはその人間の価値観です。そして、この世界にひしめいている人間と同じ数だけ、価値観も存在するのです」
 ダリアンの言葉。

 ちょっと昔のエピソードとして、SE5やキャメルが空戦をしているので、どうやら第一次大戦後の欧州っぽい世界が舞台であるようです。魔界の叡智で書かれた幻書をめぐる、笑いあり狂気あり、血の惨劇あり揚げパンありの短編集。
 主人公は(ほとんど)同じながら、いろんなタイプの話があるので、飽きずにいくらでも読めます。どちらかというと死屍累々の悲劇的な話が多めですが、新大陸帰りの少女(?)カミラ・ザウアー・ケインズが等価交換を唱える『等価の書』の話は笑いました。飽きちゃうと言い切るところが大物です。

【ダンタリアンの書庫】【三雲岳斗】【Gユウスケ】【幻書】【薬草師】【荊の森】【月下美人】【等価交換】【わらしべ長者】【ゴーレム】
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「ダンタリアンの書架1」 三雲岳斗

2010-06-02 | 本屋・図書館・愛書家
「新たな美食の発見は、人類の幸福にとって新たな天体の発見以上のものである」
 美食家グレイアム・アトキンソンの言葉。

 場所はたぶん英国。時はたぶんどちらかの世界大戦が終わってしばらくしてというあたり。魔界の叡智と悪魔の秘儀によって生み出された幻の本、幻書を収めたダンタリアンの書架を管理する“黒の読姫”ダリアンとその従者(もしくは保護者)ヒューイが出会う、人と幻書の物語……。

 返却期限の来た本や盗まれた本を回収に行ったり、必要な人に本を貸したりする話。
 読んでいて昔懐かしい気分になりました。そっくりそのままではないけれど、昔に読んだSF短編とか(小松左京の「凶暴な口」だったかな)と共通の定番モチーフが使われていたりするんですよね。それをこう、料理したかと。

【ダンタリアンの書架】【三雲岳斗】【Gユウスケ】【迷宮図書館】【六次のへだたり仮説】【返却期限】【美食】【天才児】【戦災】【人狼】
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「共和国の戦士」 スティーヴン・L・ケント

2010-06-01 | ミリタリーSF・未来戦記
 ミリタリーSFというやつを大雑把に2つに分けると、ハインラインの『宇宙の戦士』タイプとホールドマンの『終わりなき戦い』タイプになるんじゃないかなと思う。前者はいわゆる「必要な戦争はあり、それに命を懸ける価値はあるし、仲間や軍は信頼に応えてくれる」というもので、後者は「戦争なんて無駄なもので、兵隊なんて使い捨てにされる道具に過ぎない」という視点。第二次大戦的な価値観とベトナム戦争以降の価値観と言い換えることもできるのだろう。
 こちらは明らかに後者。アメリカ合衆国がそのまま肥大化したような星間国家において戦争に送り込まれる兵士の大半はクローン人間。それぞれ個性はあるけれど、周りはともかく自分だけはクローンじゃないと刷り込まれている兵士たち。
 主人公も、自分以外の兵士はほとんどクローンであるけれど自分はクローンではないと信じているけれど、読者としてはそれがどうだかわからない。そして戦いはあくまで人類同士の戦いで、主人公の所属する海兵隊が投げ込まれる戦いはどこまでも無意味で、大義は色褪せている。ただ権力者たちの道具として激しい戦いに投入されていく姿は、ひとことでいうとフィアナの出ないボトムズ。ロボットも出ない話だけれど、雰囲気はそんな感じ。

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