「自分で偶像をこしらえて一生懸命礼拝して居る奴ほど始末におえない者はないからね」
口角泡を飛ばす武波青年も、かなり頭が固くなってはおるまいか?
明治末から昭和初期まで約50年を対象に、エンタテイメント性の強い作品をピックアップし、年代順に並べたアンソロジー。著者のうち4人が本名経歴不明、作者は著名でも作品は無名なものもあり、本来は時代とともに消え去るべきもの。
今となっては科学的におかしいところがあって当たり前の作品群だけれど、むしろその展開の奔放さを愉しみたいもんです。
月露行客「三百年後の東京」
明治時代に仮死状態になった男が企業が支配する未来で覚醒し、そこで文明崩壊を企む陰謀に巻きこまれる顛末。
野村大濤「日本青年 海底大探検」
60日間の連続使用に耐えられる潜水衣を発明したカルフォルニア大学のエチ教授が、4人の男女を仲間に募り、徒歩行軍で太平洋を横断する話。
サンフランシスコを出発し、ケープ・フラタリーを東へ東へと横浜に向かう……って、東西逆じゃない?
阿武天風「極南の迷宮」
南極探検隊が、その地下に日本語を話す人々が住んでいる王国を訪問する冒険譚。異界でも通じる日本語! 「南極探検隊に加わった野辺地虎人が、エバレス火山の麓に於ける大雪山に陥ったことから、此怪異な物語は始まるのである」って、展開早っ!
日本とは「統ての正義を尊ぶ国です」と主人公が言い切るのが、この時代の前向きさ。章題が「悪魔王の変化です」とか「鉄杖の威力は確かです」とか最近のラノベっぽいのもツボ。
江見水蔭「三千年前」
石器時代の関東に居住していたのはコロボックルと呼ばれる先住民であり、大和民族によって北へと追いやられ、やがて滅亡したのだろうと考えていた主人公。自分は学者ではなく文士だから想像で補えば良いのだと、三千年前のコロボックル社会について見てきたかのように語り始める。
村山槐多「魔童子伝」
北の蝙蝠山麓の町に転居した没落貴族の息子の暴れん坊、光明寺剣吉が古い禅寺に巣くっていた青黒い肌の怪力子僧と遭遇。20年以上経った後、飛行場工事のために再び町を訪れた光明寺は、そこで当時のままの蝙蝠子僧と再会する。
「余は以上の物語を動かぬ手で強いて書いたが、多分是を信ずる人間は一人も居るまい」で終わるあたり、典型的な怪奇譚。
小鹿青雲「地球から『天の川』へ」
大正14年、理学博士が聴衆に語る宇宙開発の歴史と太陽系探険の顛末。ウェルズの宇宙探険から浦島太郎の解釈まで自由自在。小説なのかエッセーなのか科学読み物なのかよく分からない。
大津美智「引力消滅」
引力機を発明した野村博士から、海軍が引力の影響を受けない飛行機を開発していることを聞かされた恵一少年が、秘密を奪おうとする外国から来た怪人と戦う探偵譚。
横溝正史「南海の太陽児」
オランダ領インドにあるという、鎖国以前に日本を離れた者たちが建国した大和王国。その国の王族の遺児でもある日本人青年・東海林龍太郎が、その王国の危機に友人の寺木中尉らと共に帰還して、白人の干渉による内戦に身を投じる。
ラストの急展開、ヒアテの裏切りの端折り方は、打ち切られたのか書くのに飽きたのか疑いたくなる超展開。
南沢十七「緑人の魔都」
生存競争に敗れて滅びを待つばかりの不適者不生存の生物を適者生存させようと研究する山吹博士が、空飛ぶ怪物に誘拐される。博士の息子でアマチュア短波研究家の柿太郎少年は、山吹博士の捜索を雲井健探偵に依頼することにした……
地元の図書館の児童文学コーナーより借り出し。
確かに当時は少年の読み物ではあったろうけれど、これは今の子供向けではなく、50年前の子供向けなので普通に文芸コーナーに入れるべきだと思います。
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