付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「じい様が行く5」 蛍石

2022-10-16 | 異世界転生
「察してくれは、教える側の傲慢じゃ」
 確かに若い者に指導していて、懇切丁寧にしたら「細かくて五月蠅い」、見て覚えさせようとしたら「何も教えてくれない」ということはあるけれど、とにかく弟子にはカミさんに接するように細心の注意を払えとじい様。

 商業都市カタシオラでまた店を開くことを決めたじい様は、貸店舗を探したり、パン屋や八百屋や肉屋を廻って仕入ルートを確保したりと忙しい日々だが、なんの店にするかが決まらない。それならいっそなんでもやってやろうと食べ放題のヴュッフェスタイルの「バイキング・アサオ」をオープンさせるが街の人はもちろん隠居貴族のクーハクートもお気に入り。オーサロンド家のメイド軍団がお使いやらお手伝いで顔を出すようになっていた……。

 魔物との遭遇ありの、妨害してくる競合店ありのと異世界店舗経営ものの王道展開ながら、4巻でちらっと出てきた半死人の街についてここでもさらっと言及。おっ、なかなか引いてますよ。

【じい様が行く5~「いのちだいじに」異世界ゆるり旅~】【蛍石】【NAJI柳田】【アルファライト文庫】【最強じい様ファンタジー】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる2」 農民ヤズー

2022-10-15 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「お前はもっと理性を大事にしろ。それから、嫌いなものだけじゃなくて好きなものを作れ。あれが食べたい、これをしたい、ってな。そうすれば、世界はもっと楽しくなるぞ」
 伊上浩介はニーナをそう諭す。

 なんとか女子高生4人の指導者をこなしている三級冒険者、伊上浩介にはもう1つの仕事があった。とある施設の奥深くに幽閉状態にある少女のご機嫌取りだ。
 少女の名はニーナ。法も倫理も無視した人体実験の生き残りで、特級冒険者も凌駕する「世界最強」だが、情緒不安定で倫理や道徳もかなり怪しい。彼女の能力で冒険者の能力を超えて増え続けるダンジョンを攻略できているから生かしているものの、できることなら殺してしまいたい相手だ。勝手気ままに何度も爆発する、歩く核兵器を誰がコントロールできるというのだ?
 そんなニーナが唯一対等に話をし、慕うのは伊上ただ1人。彼だけが彼女と戦って死ななかったからだ……。

 JK冒険者チームに【世界最強】ニーナが絡みながら、テロリストとの戦いを軸に話が進みます。
 この巻もきっちり物語に決着がついてますので、全2巻ということでもいいけれど、コミカライズ企画進行中ということで、すっきりラストまで駆け抜けて欲しいですね。

【最低ランクの冒険者、勇者少女を育てる〜俺って数合わせのおっさんじゃなかったか?〜】【おい勇者、さっさと俺を解雇しろ!】【農民ヤズー】【桑島黎音】【HJ文庫】【小説家になろう
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「八男って、それはないでしょう!25」 Y.A

2022-10-14 | 異世界転生
 ブレンメ男爵家の一件で浮いてしまった形になるアルニム騎士爵領だったが、これをエルに与えて独立させようという動きが出てきた。これはもちろん功績を立てた若い騎士を評価しようなどという善意によるものではなく、独立させることでヴェルの手駒を減らしてやろうというブレンメルタール内務卿の大貴族らしい嫌がらせである。
 これを阻止せんとヴェル自らアルニム騎士爵領の開発を行っていた頃、新しい魔族の国を作るべく潜伏していたオットー一派が、発掘した巨大魔道具の修理を完了させていた……。

 ウェブ版の終盤展開を大きく手直ししながら続く25巻。帝国内乱編を超える、過去最大のピンチではあるけれど、ボスキャラが役者不足を否めないのでなんかもやもやするのです。

【八男って、それはないでしょう!25】【Y.A】【藤ちょこ】【MFブックス】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「じい様が行く4」 蛍石

2022-10-13 | 異世界転生
 簡単に言って「魔族」とは、人間より多い魔力を使いこなしているものを言うらしい。そういう区分なら、「なんとか人族」のじい様もそろそろ魔族といっていいかもしれない。そんなじい様一行がやって来たのは山の中のヴァンの村。エルフの姉さんが村長役をしているが、「問題が起きたら腕っ節で解決」を基本方針に人間も魔族も混じって仲良く暮らしている。
 そんな村で、じい様が彼らに珍しい料理を教える代わりに村の料理を教えてもらうことになり……。

 ヴァンの村から港街ブラン、塔の街を経て商業都市カタシオラとじい様たちの旅は続きます。地球から紛れ込んでしまったドイツ人の時計職人夫妻や隠居した貴族のクーハクート、「死角」のカナ=ナなど新たなキャラも登場。お約束のパターンを活かしながらワンパターンにはまってないところが面白いです。

【じい様が行く4~「いのちだいじに」異世界ゆるり旅~】【蛍石】【NAJI柳田】【アルファライト文庫】【最強じい様ファンタジー】【やわらかモーニングスター】【ヴルスト】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「炉辺荘のアン」 ルーシー・モード・モンゴメリ

2022-10-12 | その他フィクション
「人はお世辞を言わなくてはならないさ。文明は、多少の偽善なしでは成りたたないものだ」
 ギルバート・ブライスはそういう割り切り方のできる男だった。

 34歳になったアンはアヴォンリーに久しぶりに帰郷し、マリラやリンド夫人、ダイアナらと旧交を温める。けれど、そんな懐かしさとは別に、彼女にとってのいるべき場所はグレン・セント・メアリの炉辺荘であり、夫ギルバートや三男三女のわが子がいるところであった……。

 時代設定としては34歳から40歳の時点の話で、流れとしてはシリーズ6冊目だけれど執筆順としては最後。生前最後に刊行された巻ということで、ダイアナをはじめ、ポールにフィリッパ、レベッカ・デューなど懐かしいキャラも総登場。訳者によれば登場人物は名前だけ言及された者も含めると約370人だとか。
 モンゴメリは「風柳荘(Windy Willows)」と決めて執筆したけれど、版元の判断で「風ポプラ荘(Windy Poplars)」に変更されたとか(まったく編集者って……)、サンタクロースは新教(長老教会派)では認めてないけど執筆が夫の牧師引退後だから書いたとか、当時の風俗や料理の解説からラテン語の原典解説まで、脚注と解説というよりもはや論文レベルのノートが110頁ほどついた松本侑子の新訳版。日本のラノベも何十年か後に翻訳なり再版されるときにはそんな解説(「これはトミノ監督の作品ではあるが本人はガンダムであるとは言及していない」とか)がつくこともあるかも。

【炉辺荘のアン】【赤毛のアン6】【L.M.モンゴメリ】【松本侑子】【文春文庫】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「アンの夢の家」 L・M・モンゴメリ

2022-10-11 | その他フィクション
「わしらにぴったりついているときは、暗闇は友だちなんですよ。ところが、わしらが暗闇を押しのけようとすると--あかりの光でいわば暗闇からはなれようとすると--敵になるんですって」
 ジム船長も、夜は灯りをつけずに歩く方が良いという。

 グリーン・ゲイブルスで初めての結婚式が行われた。ごく親しい人たちに囲まれて、9月の果樹園で式を挙げたのはアンとギルバート。けれど、挙式を済ませたら新婚旅行もなしでギルバートの赴任地であるフォアウィンズ港のある街に旅立つ。同じプリンスエドワード島の中ではあるけれど、少し遠い街だ。
 しかし、そこでギルバートが見つけてきた借家にアンは嬉しい悲鳴を上げる。その海辺の小さな白い家は、まさにアンにとっての「夢の家」だったのだ……。

 アンの結婚式から始まって、転居、出産の新婚生活から新たな家を見つけるまで。ひとことでいうと「ジム船長の巻」。
 今は灯台守をしている、古いタイプの船乗りの生き残りジム船長。ご近所の美人さんだけれどアンとの間に距離を置く、どことなく陰のあるレスリー・ムア。そして、人は良いけれどパーソナルスペースに関係なくどんどん距離を詰めてくるミス・コーネリアなど、多彩な登場人物に彩られた新婚生活の顛末。灯台の近くだけに、喜びも悲しみも幾歳月。
 そして、人々の生活の根幹にあるのは政治と宗教。自由党と保守党の選挙戦とか政治がらみのエピソードも出てきますが、政治は生きている間のことだけれど、宗教は死後に関わる大事なことなので長老教会派かメソジストかの方が最優先とのことです。

【アンの夢の家】【赤毛のアン5】【L・M・モンゴメリ】【村岡花子】【HACCAN】【青い鳥文庫】【選挙】【人違い】【出版】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「アラサーがVTuberになった話。」 とくめい

2022-10-10 | アイドル・声優・芸能
「勘違いされているみたいだけど、別に私って妹と恋愛したいとかじゃあないんだよね。養って甘やかしたいの」
 自分は余所様の妹とかにも恋愛感情はないと神坂怜は言い切る。あれほど妹の良さを語っておきながら。

 製造業の生産管理が担当のはずなのに、なまじなんでもそこそここなせるので営業から見積もりの作成までなんでもやらされた果てに過労死寸前。ブラック企業を退職したアラサーは妹に唆されるままにバーチャルタレント企業『あんだーらいぶ』所属のVTuberに応募して、何を間違えたか採用されて「神坂怜」としてデビューしていた。
 とはいえ、もともと叩かれやすい男性VTuber。同期生の不祥事もあって叩きやすい存在として認知されてしまう。しかも、なんでもできる反面、突出した特技もなく、話もさほど面白くないことから人気は低迷し続けていた。
 しかし、そんな誹謗中傷を受けながら登録者が伸びない悩みも「勤めていた頃を考えるとはるかにマシ」なのであった……。

 ここ数年、ウェブ小説のVTuberものは一気に増え、書籍化もぽちぽちあるけれど、その中で「物語」としていちばん面白い作品。VTuberものに限らず、ウェブ小説だと面白い設定と導入部に全力を投入しきって、その後が続かなかったり惰性で続くのが多いのです。「自分の考えた最高に個性的で面白い配信者」はいくらでもいるのだけれど、そのキャラが活躍して面白くなる話はなかなかないのです。VRMMOものもその傾向が強いかな。
 そんな中、配信は虚無と呼ばれるほど面白くないし、その内容に関係なくアンチにまとわりつかれている、もうすぐ30な主人公。雑談はつまらないけど人生相談は頼りになるとか、料理は巧いとか、パワポのプレゼンは完璧とか、表での配信活動より裏の社会人としてのスキルで若者ばかりの業界を乗りきっていきます。がんばれ!アラサー。
 エンターブレインの本領発揮で本作りも完璧。掲示板パートはちゃんと横書きで赤インクの強調ありで、作品の雰囲気を最大限に活かしてます。この量と造りで1200円は安いです!

【アラサーがVTuberになった話。】【とくめい】【カラスBTK】【エンターブレイン】【WEBで絶大な人気を誇るVTuber小説】【ハーメルン】【小説家になろう】【頭文字D】【ガチャ死】【シスコン】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「おいしい関係 4」 槇村さとる

2022-10-09 | 食・料理
「わしは自分の口に入るものは自分で決める」
 織田千代の家の米は美味い。そしてそれを手に入れるための労と金は惜しまない。国なんか信用していないのだ。

 織田と性格は正反対の男、高橋薫のレストランが閉店した。バブルが崩壊して景気が悪化し、理想の料理を追求する「メゾン・ブリュ」は採算が取れなくなっていたのだ。海外ならまだ引く手あまたの高橋だが、彼はあくまで日本人にフランス料理を食べてもらいたいのだと国内での再起を模索する。
 そんなとき、千代ばあが骨折したと連絡が入り、百恵は千代邸へと向かうのだが、そこに高橋薫もいた……。

 ついでにミモザ亭も閉店。
 自分が織田に抱いている感情がなんなのか百恵が悩み始めている間に、織田と可奈子の関係は深まり、ストーリーはかなりとろりとして来ました。

【おいしい関係 4】【槇村さとる】【ヤングユーコミックス】【スーパー☆グルメ物語】【バブル巻】【本ずわい】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「陰キャだった俺の青春リベンジ3」 慶野由志

2022-10-08 | 過去転移・人生やり直し
「買い物は女の子の楽しみなの! それも男と違って悩む時間こそが楽しいの! 『あれ可愛いねー』とか『これ高ーい!』とか買い物をネタにしてキャッキャするのも大好き! それは永遠不変の女の子の生態なんだから、男の子はどれだけつまらなくても笑顔で見守ってないとダメ!」
 新浜香奈子はそう兄に徹底的に指導する。

 運動が得意ではない新浜も球技大会を決死の覚悟で乗り越えたある日、紫条院春華は通りすがりの少女が落とした財布を拾い後を追いかけたのだが、天気予報も外した突然の豪雨に見舞われた……。

 心一郎はあくまでも大事なお友だちだと思い込んでいる春華は、自分の感情が何なのか理解できずモヤモヤし続けます。周囲は本人が気づくか相手の男に言わせるべきことだと放置する回。
 内容的には普通のラブコメで、チートなことはなにもないのだけれど、こんなあたりまえのことでさえタイムリープで人生やり直ししないと無理だという読者への応援歌なのです。

【陰キャだった俺の青春リベンジ3~天使すぎるあの娘と歩むReライフ~】【慶野由志】【たん旦】【角川スニーカー文庫】【タイムリープ青春ラブコメ】【青春リベンジラブコメ】【カクヨム】【球技大会】【大雨】【お風呂場】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「姉の引き立て役に徹してきましたが、今日でやめます2」 あーもんど

2022-10-07 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 体育祭の魔法部門で優勝を果たしたシャーロットは、姉スカーレットに流された「不出来でわがままな妹」というデマの払拭に成功するが、今度は召喚術の授業でトラブル発生。召喚用の魔方陣から精霊や聖獣ではなく、人や獣の腕のようなものが何本も出現して蠢きだしたのだ。
 これを悪魔を呼びだしかけたのではなく、前代未聞の複数召喚を意図せず成し遂げて「出口で詰まった」のではないかと考えた皇帝の手引きにより、シャーロットは帝国屈指の魔導師集団である宮廷魔導師団を訪れることとなるのだが……。

 魔導師団長から精霊王まで新キャラ登場の2巻。

【姉の引き立て役に徹してきましたが、今日でやめます2】【あーもんど】【まろ】【オーバーラップノベルスf】【様々な思惑が絡み合う学園ファンタジー】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする」

2022-10-06 | バイオシップ・人工知能
「心とは脳のことである」

 遙かな未来。人類は人工知能に制御されたアンドロイドを戦場に送り出し、戦禍が拡大し、その過程で人類は人工知能によって排除され、最強のヒト型兵器「シャットダウン」は何千年も多の人工知能と戦い続けた末にその機能を停止した……のだが、気がつけば異世界の王国の侯爵邸でその落ちこぼれの三男クオリアとして転生していた。首を吊って自死したはずの身体に、AIシャットダウンの心が乗り移ったのか?
 問題は、人型自立戦闘用アンドロイドとしての機能が完全には消失しておらず、ラーニングにより相手の動きを完璧に予測し、僅かな魔力で超技術<オーバーテクノロジー>“5Dプリント”を再現。少しずつ、かつての最強兵器としての機能を取り戻していく……。

 何千年も戦い続けて進化してきたバーサーカーに、剣や魔法の世界が太刀打ちできるものか……という話。異世界で少年の肉体を筐体にして再起動した人工知能は、学習を重ねていく。
 つまり、戦闘用アンドロイドがまた新しい世界を滅ぼしてしまう前に、その力を誰かを守るために使う事を学習させたメイドのアイナがエラかったという話。

【異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする~異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする 結果、超絶科学が魔術世界のすべてを凌駕する~】【かずなしのなめ】【山椒魚】【ドラゴンノベルス】【機械仕掛けの騎士譚】【カクヨム】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「信長伝」 佐藤大輔

2022-10-05 | 戦国転生・歴史改変
「この船では、奴等に勝てない」
 挫傷した小型交易船でさえ、九鬼嘉隆率いる鉄甲軍船は苦戦してしまった。自在に動ける南蛮の軍艦相手ではどうなったかと思うと自慢の艦隊も色褪せて見える。

 本能寺の変を生きのびた信長は着々と天下統一を進める。
 それが何を意味するかと言えば、東洋の島国に先進的な指導者に率いられ、世界でも有数の経済力に支えられた世界最強の野戦能力を持つ軍隊が存在していたということだ。後世の歴史家はこの時代、テューダー王朝のイングランドと日本において「中世が終わった」と評し、その後のこの二国による世界の支配を争う様を興味深く追う事になる……。

 佐藤大輔の新刊『信長伝』出ました! 何度も何度も復刊されては途中で終わり、それでも版元を変えてリブートがかかり、また中断の繰り返し。どれだけファンや編集者に愛されていたのか。どうして、これに応えられなかったの?
 最初は1992年の大陸書房の天山ブックス版『逆転・信長軍記』。高荷義之のイラストがカッコ良くて、個人的にはこの作品のベストカバー。信長が生き延びて活躍する話は多いけど、最初の概況で「信長は生き延びて日本を統一すると世界に打って出て、スペインやイギリスと戦い、世界帝国を打ち立てた」とオチまで書いた上で、そこまでの過程を戦訓や後世への影響などを交えて書いた異色作。「歴史シミュレーション・ノベル」としてシミュレーションゲームのリプレイっぽく、ユニット配置や兵力について記述されているのも特色。これは1巻にて大陸沈没。
 1993年にはKKベストセラーズのワニブックスから『覇王信長伝』が刊行。「佐藤大輔がまた信長ものを!」と思ったら、中身は『逆転・信長軍記』と一緒。ただし、こちらは3巻まで続きます。
 その5年後の1998年、今度は『信長征海伝』として中央公論社のCノベルスに登場。ここで巻頭の「概況」が削除され、代わりに長めの「緒言」と「転換点」が挿入され、歴史を未来から再検討するという形式が強化されますが、これは2巻で打ち止め。
 そのまま消えるかと思いきや、2004年に徳間文庫から『信長新記』としてリブート。1巻2巻は『信長征海伝』が底本と記載されていますが、3巻は征海伝は出てないので『覇王信長伝』が底本ということになってます。
 そして2022年。ついに中央公論新社から3冊合本のハードカバーとして刊行。このあたりの変遷は巻末の刊記にて明記されてますが、内容的には誤植を直して「葉桜」を収録した以外の加筆はたった2文字[未完]のみ。

 戦国日本が西欧勢力と戦うところまでいく話は、『本能寺から始める信長との天下統一』とか『銭の力で、戦国の世を駆け抜ける。』などちょこちょこあるのですが、物語としてはほとんど語られていないにも拘わらず、世界の歴史が動くダイナミックな展開ではこれがいちばんだと思ってます。

【信長伝】【佐藤大輔】【中央公論新社】【異貌の歴史長編(未完)】【逆転・信長軍記】【信長征海伝】【覇王信長伝】【信長新記】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「転生シートン動物記」 蒼空チョコ

2022-10-04 | 過去転移・人生やり直し
 86歳で生涯を終えたシートンが再び目を覚ますと、まだ33歳だった1893年に戻っていた。場所はニューメキシコ州。彼を一躍有名にした『狼王ロボ』の舞台だ。シートンはここで家畜を襲う狼を捕獲する仕事を請け負い、結果としてロボとその妻ブランカを殺してしまうこととなるが、その顛末を記事として発表して人気作家へとのし上がったのだ。
 だがその結末を彼は生涯悔いてきた。その失敗を取り返す機会を神が与えてくれたのか? しかし、彼は突如として人狼に変身してしまい、カウボーイに撃ち殺されてしまう……。

 果たして狼王は救えるのか?
 シートンといえば作中でも言及されているように、ボーイスカウト運動の創設者のひとり。今ではもう一人のベーデン=パウエル卿の方が有名ですね。アウトドアとサバイバル技能に重点をおいた青少年向けの教育活動ですが、セオドア・ルーズベルトを間に挟んで基本方針を巡って争い、「軍隊ごっこ」「インディアンごっこ」と罵りあって袂を分かったとかなんとか。
 この話はいわゆる「人生やり直しもの」であり「時間ループもの」ですが、そこに人狼要素は必要だったのかしら。個人的には、人生やり直しでボーイスカウト運動の新たな道を開く話が読みたかったけれど、それはそれで大多数の嗜好には合わないのかもしれません。

【転生シートン動物記~狼王ロボ】【蒼空チョコ】【8】【ハルキ文庫/Re:文庫】【新・エンターテインメント】【名作×転生】【シートン動物記】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「本好きの下剋上30」 香月美夜

2022-10-03 | 本屋・図書館・愛書家
「どうすればフェルディナンド様が政略結婚してくださる気になるのか、一緒に考えましょう。家族同然でしたら、夫婦同然でも良いと思うのです。ね?」
 恋愛脳に染められていても、ハンネローレはやはりダンケルフェルガーの女であった。

 エーレンフェストでの攻防は、領地を知り尽くしていて内通者も多いジルヴェスターの姉ゲオルギーネや前ギーベ・ゲルラッハであるグラオザムによる二重三重の策略の前に多数の犠牲者を出しながらも撃退する事に成功した。
 しかし、その頃、各領地と貴族院との連絡がつかなくなった。王族はどうなっているのか、貴族院で何が起きているのか……。

 ほとんど息をつく間もありませんが、とりあえずエーレンフェスト防衛の論功と宴会にまではたどり着けました。やっぱりあてになるのは当事者の自分たちと常在戦場のダンケルフェルガー勢だけです。そして、ローゼマインを旗頭にしようとするアウブ・ダンケルフェルガーに対して逆にフェルディナンドが相手に覚悟を迫ります。むしろ王になるのはお前だと。
 やりきった笑顔のハンネローレ様、最高です。

【本好きの下剋上30~司書になるためには手段を選んでいられません~】【第五部 女神の化身IX】【香月美夜】【椎名優】【TOブックス】【ビブリア・ファンタジー】【しいなゆう】【ゆるっとふわっと日常家族】【エーレンフェスト防衛戦】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「羽林、乱世を翔る3」 イスラーフィール

2022-10-02 | 架空戦記・仮想戦史
「余は弱いのだ。だが弱いと思われるよりも薄情と思われた方がましだ」
 第13代将軍、足利義輝は自分に力が無いことも愚かなことも知っている。知っていてなお生き方を変えられず、朝廷との関係を良くしようとも親三好に転じることもできないだけだ。

 1560年、織田信長が桶狭間の戦いで今川義元を討ち取った。
 尾張半国も掌握できていない信長が東海道の三国を支配する守護大名を下すなど常識ではあり得ず、単に運が良かったでは片づけられない大番狂わせだ。そこで人々は考える。直前になって尾張を訪れた右少将、飛鳥井基綱が何かしたのではないかと。
 その頃、幕府では近衛稙家が公方に対して基綱を幕府に引き込み利用せよと助言していたが、義輝はそれを拒絶する。公方と基綱は婚姻関係を通じて縁戚関係であり、基綱の出自である朽木家と足利家の関係は深い。だが、それでもそれはできないという。
 基綱は親三好ではないが、彼は強い。強い者は強い者とのみ取引する。基綱は三好とは取引するだろうが、幕府のためには動かないと確信していたのだ……。

 右少将から新蔵人へ任官、祝言を挙げるところまで。
 足利義輝は現状認識できていないのではなく、ちゃんと自分や周囲の人間の能力とその限界、置かれている状況やその関係を把握した上で、基綱から見れば先のない選択肢しか選べなくなっている自暴自爆。かろうじて一歩踏み出そうとしても、現状把握できていない幕臣にご破算にされるだけなのです。
 つまり、側に置く人間は選ぼうね。

【異伝 淡海乃海~羽林、乱世を翔る~《三》】【不安】【乖離】【イスラーフィール】【碧風羽】【TOブックス】【本格大河ドラマ】【戦国サバイバル小説】【あっち向いてホイ】【運上金】
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする